異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1556【届く】

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 ――爆煙に隠れてからの走法。
 その背を見ながら俺も続く。

「本当に距離感が掴めねえ。目の前にいるのに、いないように思えるんだからな。感覚が狂わされて追うのに苦労する……」

「後に続くのは苦労するだろうけど、前の二人が度肝を抜くくらいの一太刀を見せてあげようよ!」
 左肩から鼓舞される。
 可愛さと心強さが同居した表情に首肯で返しつつ、ゲッコーさんとユーリさんに続く。
 
 俺も追走には苦労するが、その動きを相対する者も目にすれば、

「やるわね……」
 ベスティリスからも感嘆の声が漏れる。
 感心よりも嘆きの方に重きがある感嘆だった。
 
 気配の殺し方と走法で目測を狂わされているからか、迎撃よりもまずは距離を取ろうと考えたようで、後ろへと重心を移しながら翼を広げるのを視界に捕捉。
 
 そうはさせじと、ゲッコーさん達の背を追うのをここまでにし、俺が出来る役目を果たさせてもらう。

「ブーステッドからのアクセル!」
 瞬時にベスティリスの頭上を取る。

「どりゃ!」
 潜在能力を引き出してからの高速移動。
 移動後に直ぐさま攻撃へと転じる事を可能としたところで、得意の上段の構えで振り下ろす。
 ――……届くことはないんだけどね……。
 羽根のなくなった羽扇の柄の部分で捌かれるが、

「今の俺にはこの一太刀こそが最善」
 ミルモンが思い描いていたのとは違うだろうけどね。

「勇者が囮とはね」
 高次元の戦いにおいて俺はまだまだお荷物。
 でも、お荷物にはお荷物なりの戦い方もある。
 圧倒的強者の足を止めたことが出来た。実力差からすれば、それを成功させただけでも値千金の活躍だと自負したい。

「がぁぅっ!?」
 ――……まあ、大痛打による反撃を受けるのは分かりきってたけどさ……。
 一枚刃の高下駄による強烈な蹴り。
 羽扇の柄で捌くと同時に、空へと向かって突き上げてくる右の蹴撃が腹部に直撃。
 くの字……への字になって宙を舞う。
 一撃だけで呼吸はままならないし、視界もぼやけるという強烈さだが、

「よくやった!」
 下から聞こえてくるのは、普段の冷静さからは想像がつかない裂帛の気迫によるゲッコーさんの声。
 ベスティリスの動きをワンテンポずらしたことで小太刀を手にしたゲッコーさんとユーリさんが接近戦を仕掛けることに成功。
 で、これにベルも呼応。

 床が近づいてくるところで、

「アーチヒール」

「アッパーテンペスト」
 という声が耳朶に届けば痛みは直ぐさま消え、本来の使い方とは違った竜巻が優しく俺の体を受け止めて床へと降ろしてくれる。

「助かった! 信じてた!」
 リンとシャルナに感謝し、足が床へとついたところで疾駆。

「うぉぉぉぉおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
 強者三人の掩護に向かう。

「五月蠅いわね!」
 接近すれば苛立ちの声をぶつけられる。
 理由は俺がへの字になって宙を舞っている間に、接近してきた三人の攻撃で防戦一方となったから。
 ゲッコーさんとユーリさんの小太刀による至近戦は従来の剣術然としたものではなく、変則的なフットワークによる攻撃。
 主に刺突がメイン。
 嫌らしいほど執拗に喉、心臓、腎臓、脇、膝裏を狙った攻撃。
 この二人の攻撃に注力していれば、ベルの浄化の炎を纏ったレイピアによる一振り。
 二人と違って剣術然とした軌道。
 これには防ぐ事をせずに回避に専念。
 いや本当……。

「凄い」
 あの三人の攻撃に対処しているのが凄い……。
 表情は険しくなっているし、反撃をする余裕はないようだけど、三方からの剣技を全て捌き躱して対処してるんだからな……。
 クロウス氏にも羨望と敬慕の念を抱いたけど、ベスティリスにはそれ以上のものを抱いてしまう。

 抱きつつも、

「ここ!」

「場違いなのよ!」

「その割に、声には余裕がないですね」
 言えば眉間に皺を寄せ、こちらを睨んでくる。
 白と黒の結膜の中心にある異なった瞳による睨みはゾクリとするものがあるが、それを振り払うように、

「どりゃ!」
 ここでマラ・ケニタルも抜刀しての二刀による逆袈裟にて×の字を描く。

「得物は最高の大業物であっても、使い手である貴男の太刀筋は遅い!」
 ×の字の中心部分に羽扇の柄を叩き付けて防がれるも、

「シッ!」
 キレの良い呼気によるベルの刺突。

「くぁ!?」
 耳にしたことのない声がベスティリスから上がる。

「入った!」
 ようやくダメージが入った事に俺は興奮するが、

「浅い。今の状況でよく対応しましたね」
 と、ベルは淡々と感心。
 だがダメージを与えた事には間違いない。
 
 ゲッコーさんとユーリさんの掩護の賜物――。
 俺の逆袈裟×の字は防がれたが、それに合わせて右からゲッコーさん。ベスティリスの背後からユーリさんが仕掛けてくれた。
  
 声を出し合って連携をとったわけではないが、最も攻撃成功率が高く、尚且つ攻撃力が俺達の中で最高値であるベルをフィニッシャー担当とするのは、皆が理解していた。
 
 これにより野郎三人の攻撃には対応されたけども、ベルの刺突――浄化の炎を纏った刺突がベスティリスを貫いた。

 ――……今ので決着なら最高だったんだけども……、

「ベルが褒めるだけある」
 腰を捻ってかろうじて致命傷を避けていた。
 胸部に一刺し――とはならず、脇腹を掠っただけ。
 
 致命傷を避けられ幕引きとはならなかったが、ダメージらしいダメージを入れる事が出来たのも事実。

 大幹部であろうとも届く。
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