異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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天空要塞

PHASE-1564【ハイ】

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「具申いたします。ドム、レールガンによる火力ならば、二重に展開されている不可思議障壁にも一定の効果があるかと。期待以上か以下かは分かりかねますが」

「俺も思っていた。引き籠もりは引き籠もることが癖になる前に、強制的に外へと出してやらないとな。だが、準備には時間がかかる」

「相手は仕掛けてこないので問題ないかと」

「仕掛けないのではなく、仕掛けるための前準備と考えるべきだぞ。ユーリ」

「確かに」
 二重の箱形障壁であるエアリアルリージョンの中心に立つベスティリス。
 大きく深呼吸をしているのが見て取れる。

「障壁内部で回復待ち――ってだけじゃないだろうね」

「だろうな」
 深手を負わせた張本人であるベルが、まだまだ回復には時間を要するだろうと推測。
 やはり回復がメインというわけじゃない。
 
 となれば、

「間違いなくとっておきとばかりの強烈なのを狙ってくると考えていいだろうな」

「だと思うよ!!」
 ここで左肩から急を知らせる声音。
 これに俺とベルが顔を向ければ、小さなお手々から食指だけを伸ばして上へと向ける。

「なんだ?」
 見上げれば、

「――ポームス」

「懸命に闘技場から離れているな。まるでここいら一帯が危険地帯になるとばかりだ」
 余裕あるベルの発言だが、それを耳にする俺の全身からは血の気が引く……。

「何をする気でしょうか! とっておきの内容を知りたいんですが!」
 二重の箱の中に籠もる存在に問えば――不敵な笑みだけで返してくる。

「ちぃ!」
 一足飛びで箱へと向かって渾身の力。それこそブーステッドも込みでの――斬撃。

「くっそ!」
 分かっちゃいたがまったく刃が通らない。

「シッ!」
 横ではベルが続く。
 浄化の炎による斬撃。

「くっそ!!」
 同様の悔しさを口から吐き出す俺。自分の斬撃の時よりも悔しさを強めてしまう。
 遠距離からでなく、ベルの至近による斬撃を以てしても外側に切れ目を入れるだけ。
 内側までは届かない。
 先ほどと同様に、直ぐさま切れ目の入った部分を補修するように周囲が補填。

「中々に骨が折れそうだ」
 長嘆息と一緒に言葉を零すベル。
 やはりかなりの疲労が溜まっているようだ。

「以前にリンが使用していた、アンブレイカブルとかいう極位魔法だってベルは斬ることが出来たのに」

わらわのこれは大魔法なんだけどね。そっちの魔法に対し、妾一人でも相手取ることができる程度なのだから、極位であるアンブレイカブルが使用できる術者がいたとしても、こちらとの差は明白」
 不敵な笑みからここで口を開いてくれる。

 で……、

「言ってくれるわね」
 淡々と語るリン。
 抑揚のない言い様は平静さを感じさせるが、実際は大層ご立腹。
 肩越しに見れば、眉尻を吊り上げた怒りの表情と共にオーバーロードインフェルノと発する。
 闇魔法からなる大魔法。
 詠唱破棄スペルキャンセルから放たれるのはマッチ程度の黒い火。
 ベスティリスを守るエアリアルリージョンへと触れれば、黒炎が瞬く間に全体へと燃え広がる。

「チッ」
 悔しそうな舌打ちが後ろから聞こえてくる。
 リンの大魔法であっても破ることは出来なかった。

「やはり一点集中の火力となればユーリさんが言うようにレールガンか」
 準備はしてくれているが、

「まだ時間がかかるぞ」
 と、ゲッコーさん。
 仕方ない。

「中央まで届くかどうか未知数だが、ここは貫通型のボドキンと烈火の合わせ技で!」

「止めておけ」
 刀を収めて両拳で構えたところでベルに止められる。

「これはただの障壁ではない」
 言いながら上体を前に倒せば、戦闘で破壊された床から手頃なサイズの欠片をベルは拾い上げる。
 それを障壁へと投げれば――、

「おう、粉々……」
 ミルに入れたコーヒー豆のごとし。

「攻防一体の障壁だ。トールの炎の障壁とは違って、触れた物を粉砕する」

「なるほど……」
 もっと早く言ってほしかった。
 俺が一足飛びで斬撃を見舞う前に言ってほしかったよ……。
 もし俺が刀ではなく拳で殴っていたらどうしたんですかい……。
 エアリアルスライスの形状に似た箱形障壁は、効果も似たようなものってことだな。
 素手も駄目。
 この中で魔法において随一のリンの魔法も駄目。
 なによりベルの斬撃が決定打にはならないという障壁だからな。

「本来の力ならな」
 と、ベル。
 やはりここはゲッコーさんのレールガンに頼るしかない。
 もしくは俺がプレイギアから――。
 ポシェットに手を伸ばしたところで、

「貴方たちに突破はさせない。なによりもこちらが先手を打たせてもらう」
 口角の上がり方。
 この戦いにおける寒気を更新。
 ポームスの緊急離脱に、薄ら寒い笑みを湛えるベスティリス。

「とっておきの発動で一気に方を付けるつもりのようですね」

「ええ」
 と、相対する方からは短い返し。
 阻止とばかりにコクリコとシャルナが魔法を使用。
 でも意味はなし。
 ならば足元は! と、シャルナとリンによるアッパーテンペストとマッドバインド。
 ――……ご丁寧に床にも展開している模様。
 ベスティリスの足元からこちらサイドの魔法が顕現するということはなかった。

「もういいかしら」
 悪戯じみた声音から、

「今度はこちらの手番。まずは嫌がらせの――ラプス」
 と発する。
 ラプスはこの一つ前の冒険であるエルウルドの森で出会った巧鬼の一人ハルダームが使用してきた大魔法。
 クラスミドルにて中位魔法までを封じてきた能力は、鮮烈な印象として記憶している。

「クラス――ハイ」
 おう! 継いでの発動はミドルを飛び越えてのハイですか!
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