異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,594 / 1,861
天空要塞

PHASE-1594【また一歩】

しおりを挟む
「ここの広さは十分かしら」

「問題なく」
 返しつつ、

「来いツッカーヴァッテ」
 名を呼べば程なくして――、

「キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン」
 可愛らしい鳴き声と共に外殻上方から登場。

「「「「おお……」」」」
 上方から舞い降りてきた巨大なツッカーヴァッテの登場に、幹部やストームトルーバーから緊張した声が上がる中で、

「可愛い」
 と、周囲とは真逆の感想をポツリと漏らすベスティリス。
 ベルと同類だからね。間違いなくそう言うと思っていましたよ。
 要塞最上階である壁上へと着地した、カイコ蛾のような白きモフモフの巨大生物。
 俺達が乗りやすいように伏せつつ、短い翅の先端を床へと触れさせる。
 タラップ代わりに翅を利用して背中へと移動。

「いいわね」
 羨ましそうに声を漏らすベスティリスに、

「あまり羨んでいては、ハクリルムシュが拗ねてしまいますよ」

「あの子はあの子で可愛いからいいのよ」
 と、クロウス氏へと返すベスティリス。

「――ハクリルムシュ?」
 気になったので聞いてみれば、ラズヴァートと一緒に俺達を襲ってきた巨大カラス――フッケバインの名前だった。 

「よし。全員、乗ったな」

「間違いなく。自分が最後です」
 最後に背に乗るジージー。
 見回して全員が乗っていることを確認してから、

「では、自分たちはこれで」

「ええ」

「よし、ツッカーヴァッテ」
 言えば短い翅を上下に動かす。
 程なくして体が浮いた感覚になれば、壁上に立つベスティリス達から離れていく。

「頼んだわよ。勇者トール」

「はい!」
 見上げてくる面々を見る。
 クロウス氏、アル氏とグラスパール氏。
 ベル以外ほぼ接点のない他の幹部さん達は、俺達に対し好意的に手を振って見送ってくれる。
 ストームトルーバーの中からも同じ所作をしてくれる者達もいたが、当然とばかりにラズヴァートや生徒会長は腕を組んだまま見上げてくるだけ。
 特に後者はむすっとした表情だった。
 俺とベスティリスが仲良く話していたことがよほど嫌だったようである。
 
 と、ここで、

「なんだい?」
 俺の左肩から声が上がる。

「次はボクの圧勝だから」

「しつこいな。そうはならないだろうけど、せいぜい精進することだね。歯ごたえがないならないで虚しいからさ」

「精進したボクの強さに後悔することだね!」
 ちびっ子ワイバーンに騎乗したポームスが最後の挨拶とばかりに、ミルモンと言葉のキャッチボール。
 お互い腫れた顔はそのままに。
 言い合う割りには言葉に刺々しさはない。
 双方とも認め合っているということでもある。

「じゃあなポームス。俺達は王都に戻るよ」

「ちゃんとベスティリス様との約束を守るんだね。やぶったらボクが許さないからね!」

「もちろんだとも」
 笑顔で返せば、手綱を引き、ちびっ子ワイバーンは回頭。

「じゃあツッカーヴァッテ。王都まで頼むよ」

「キュゥゥゥン」
 返事と共に短い翅を強く羽ばたかせれば、天空要塞から一気に離れていく。
 下方に目を向ける。
 俺達が要塞内へと入るまでの道のりだ。
 戦闘の軌跡が甦ってくる。

「多くの犠牲者を出してしまった」

「敵対していれば当然でしょう。戦う以上、皆、覚悟はしておりましたよ。無論、こちらも命を奪うために剣戟を振るったのですからお互い様です。いつまでも引きずれば、散った者達に失礼」
 ジージーはそう言ってくれる。
 ミルディもこの発言に賛同とばかりに首肯。
 
 ――それに本来ならもっと犠牲は多かったはずです。
 我らが軍の中心となる幹部たちは、剣神により敗北。
 こちらに殺意がないと判断し、手心を加えてもらったからこそ命を落とさずに済みました。
 
 もし剣神が全力で戦っていたなら、幹部の悉くが戦死。
 そうなっていた場合、我らが軍の戦力は大きく削られ、反抗の機会を得たとしても、戦えるだけの力がなくなっていました。   
 ――と、ジージーの発言に首肯で続いていたミルディが口を開く。
 
 ――この戦いは死者も出ましたが、それ以上に密約を結べる切っ掛けを得る事が出来、結果として我々は大きな益を得ました。
 と、継ぐ。
 なんとも合理的で私情を挟まない、淡々とした声音だった。
 先生が喜ぶ人材だな。

「この地ともいよいよさよならだ。次に訪れる時は風龍と一緒にだ」
 後ろを振り向き要塞を目に焼き付ける。
 意思表明をしたところで――外殻へと突入。

「おおっ!」
 初めての時は、雷光と稲妻が襲ってくる中をツッカーヴァッテが飛行してくれたけども――、

「こういった事も出来るんですね」
 外殻の中は静寂な空間に変化しており、これは快適とコクリコ。
 行きの時のような雷の脅威はなく、鉛色の空域を外へと向かって進む。

「キュゥゥン……」
 心なしか俺達を背に乗せたツッカーヴァッテは元気がない。
 雷を糧としているからな。
 それを得る事が出来ないから残念がっているといったところだろう。
 王都に戻ったら雷を出せるパルチザン・プロトスでたっぷりと栄養補給してあげよう。

「王都に戻って早く報告したいね。そして天空要塞の面々と早く共闘できるように頑張らないと!」
 今までの中で最高難易度だった天空要塞フロトレムリの攻略に成功。
 王都で待つ王侯貴族の面々に兵達。
 ギルドメンバーや住民もお祭り騒ぎで喜んでくれるだろう。
 
 そして、魔王軍大幹部である三爪痕トライスカーズの一角に勝利したことが大陸に広まれば、今以上に王都へと馳せ参じてくれる者達も増えるはず。

 南伐も始まる。
 魔王ショゴス討伐へとまた一歩近づける。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...