異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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天空要塞

PHASE-1593【為朝信仰】

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 ――それで、

「あと一人は誰でしょう?」

「末席にて待機しているわ」
 謁見の間にて座するベスティリスの左右には、二列横隊で居並ぶ面々。
 クロウス氏。アル氏とグラスパール氏。
 これに加えて俺が見たことのない幹部の面々。
 多分だけど、俺達がクロウス氏と戦っている最中、ベルによってしばき倒された面々だろう。
 見ただけで伝わってくる強者特有の佇まい……なのだが、ベルと目が合えば皆して会釈で返してくる。
 ――……苦笑い込みで……。
 こんな連中を容易く相手にしていたベルってやっぱスゲえな。

 そんな面々に目を向ける中で、

「前へ」
 ベスティリスの一言。

「はっ!」
 後列の更に二列横隊後方から歯切れの良い返事。
 短いが聞いた声だな……。
 背中に寒さが走る……。
 カシャカシャと小さな金属音を響かせながら、俺達と同じ場に立つのは……、

「ジージー・シックヒッカこれに」
 ほう!? と、心の中で声を上げる。
 口から外に出なくて良かったよ……。
 いや、良くないけどさ……。

「あの……翼幻王ジズ殿。最後の一人というのは……まさか……」

「ええ、そのまさか。ジージーよ」
 ほう!? ここでも声に出さない俺は偉い。
 まさかのインセクトフォーク・シケイダマン……。
 俺のトラウマでもあるセミ人間……。
 いや、なんとか克服はしたとは思っているけども、まさかこの方が俺達と一緒に王都に来るの?

「ミルディが内務担当となれば、勇者と一緒になって前線で大いに励んでくれる者も必要となるでしょう。。まだまだ発展途上だけど実力は本物。それは対峙した貴方たちも理解してくれているでしょう?」

「ええ、はい……」
 十人張りの弓の使い手。
 接近戦に魔法もこなせる御仁。
 強いのは理解しております。

「我らが主の代理として、このジージー! 粉骨砕身にて励む所存。勇者殿! 我が力を存分に使っていただきたい!」
 ――…………。
 
 ――……。

「どうしたの? 勇者」
 ――……!?

「頼りになる御仁の参加に喜んでおりました。ギルドにて大いに活躍していただきたいと考えております」
 うん。俺のパーティーじゃなく、ギルド内で頑張っていただきたい。
 そうだな。あれだ! ドッセン・バーグだ!
 ドッセンと組んでもらえば十全で力を発揮してくれることだろう。
 基本ソロだけど、初顔合わせの連中と連携を取るのが上手いと定評のあるドッセンにジージーの事をお願いしよう。
 以前は亜人に対して差別意識もあったけど、今は違うしね。
 新たなる他種族との交流で、ドッセンの更なる心の成長にも繋がることだろう。
 うん! 組ませよう!
 
 頭の中でグルグルと考えを巡りに巡らせる中、

「最初の内は勇者殿と共に行動させていただきます。自分を倒した存在です。共に行動し学びたいと思います」

「それがいいでしょう。お願いね勇者」
 ――……要塞トップからのお願い。
 これは拒否してはいけない状況になってしまっている……。
 
 NOと言える日本人……、

「……よろしくお願いします。ジージー氏」
 言えない日本人。それが俺……。

「堅苦しい。ミルディ殿と同様、呼び捨てで構いません。自分に勝った御仁なのですから」

「あ、はい。じゃあ、よろしくな。ジージー」

「こちらこそよろしくお願いいたす。矢にて船を沈める強弓の神――チンゼイハチロウに祈りを捧げ、その加護による一矢にて勇者殿の力となりましょう」
 俺の諸手を無遠慮に掴んできて、がっちりと握手。

「ひゅぃ!」
 とうとうここで声が出てしまう。
 トラウマと向き合い克服は出来たと思っていても、接近からの接触となれば、まだまだ完全なる克服とは言えない……。
 しかも為朝が信仰対象になってるし……。

「皆様も今後とも良き付き合いを」
 礼儀正しいな。ジージー。
 俺とベル、シャルナは引きつりながらも返事をし、残りの面子は問題なしとばかりに平然と返す。
 やはりこういった時のコクリコの胆力は凄いね。

 とりあえず、

「インセクトフォークの王都の来訪は珍しいというか、俺が王都に来てからは初めてのことだと思うので、グレートヘルムは被っていた方がいいと思うよ」

「でしょうな。人間から見れば、我々のような異形は恐怖の対象にもなるでしょうからな!」
 本人が理解してくれているのは助かるというもの。
 謁見やプライベート以外では常時装備しておくとのことだった。
 当面はジージーと行動する事にもなるのか。
 その間に完全なる克服が出来るようにならないとな。
 リンの魔法に対応できるから実力は本物。
 遠近物理に魔法も出来る万能タイプ。
 仲間になる以上は頼らせてもらおう。

「一応、魔王軍との接触時にミルディとジージーの面が割れてしまった時は、わらわを裏切った者という体でいくから、口裏は合わせてね」

「分かりました」

「よし、では粗方の話は済ませたわね。親書は勇者に任せて、ミルディとジージーには勇者たちや王の為に励んでもらい、双方の結束力を強くする存在となってもらうから」

「「はっ!」」
 二人して返せば、俺の方を見て再度、深々とした一礼。
 預かる側として、責任を以て対応しよう。
 ミルディは先生に任せて、ジージーは俺預かり……。
 逆ならいいのに……。

「では、送りましょう」
 しばしの別れ。
 次には吉報を耳に入れたいとベスティリスは言いつつ、謁見の間から更に上へと続く要塞最上階へと俺達を誘導してくれる。

「絶景」
 胸壁から下へと目を向ければ、庭園全体が見渡せる。
 曇天が支配する外殻内で見事に咲き誇っている花々。
 外殻がなければ、外の風景も一つとなって最高の景色となることだろう。
 
 同盟がなり、魔王の脅威がなくなれば、外殻も取っ払ってくれるだろうから、その時は最高の風景を楽しみませてもらおう。
 
 頑張る理由が一つ増えた。
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