異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1623【食のレベル高し】

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「あんまり深入りすると危ないぞ」
 ドスを利かせるガリオン。

「つまりは――この地で何かしら良からぬ事が起こっているということだな? だからあんたらのような腕っこきが、わざわざこの地にまで足を運んでるって事だろう?」
 大した推理力だよ。

「ガリオンの言うとおりです。あまり首を突っ込まない方がいいですよ」

「酒を飲みに行く先が、お宅等の行く所と一緒だったというだけよ」
 この言い様……。絶対についてくるつもりだな……。

「酒場の連中なら少しは分かるってもんだ。誰と話しをするかってのも慎重にやらないとな。顔なじみの俺っちが行けば助言も出来るぞ」
 ミルモンを見れば、

「問題ないよ」
 負の感情はない。
 つまりは良からぬ画策はないってこと。
 初対面だからこそ警戒もするが、信頼できる人物であるのは間違いない。

「ではお願いします」

「おうよ。なら少し待っといてくれ」
 酒場が賑わう時間帯になるまで店の中で時間を潰させてもらった。
 様々な武具を見ているだけで直ぐに時間が経過するくらい良い作りの代物ばかりだった。

「よし、じゃあ行くか!」
 ご機嫌のレギラスロウ氏。
 仕事を終えた後の酒は、百八十七年の時を過ごす自分の人生において最高の時間なのだそうだ。
 
 ――到着。
 
 レギラスロウ氏が言うように、ハマードと刻まれている木彫り看板が掲げられていた。
 笑い声が店の内外から溢れている。
 薄暮の空の下、店先には大樽と小樽をテーブルと椅子の代わりにした席がいくつも設けてあり、そこで楽しむ面々を横目に店内へとお邪魔する。

「大繁盛だな」
 流石は大通りにある酒場。
 そしてドワーフが勧めるだけあって、味も確かなのだろうというのが、この繁盛っぷりから伝わってくる。

「俺っちも早く楽しみたいね!」
 樽型ボディが小走り。
 酒を楽しむ客達を縫うように躱して進み、給仕の女性に空いている席を聞いている。
 常連なのだろう、気さくに女性給仕がレギラスロウ氏を案内。
 俺達も手招きに応じて後に続く。

「常連専用の席だ」
 案内されたのは端っこにある大人数用の席。
 長テーブルと椅子。
 ゴールドポンドでのブリオレを思い出してしまう位置である。

「さあさあ、まずは酒と肴といこうじゃないか」

「レギラスロウ氏」

「分かってるって。まずは酒を飲もうや。酒場で酒も飲まずに人に話しかけても怪しまれるだけだ。少しは酒気を纏わせないと酒場では浮いた存在になるぞ」
 何ともそれっぽい事を言う。
 いち早くアルコールを体に入れたいだけにしか見えないけどな。
 まあいいけど。
 郷に入っては郷に従えだ。
 この店の常連であるレギラスロウ氏の案にのっかろう。

「俺とアップはエードに近いのでいいですから」

「軽めのヤツからドワーフ好みまでここは揃っているからな。任せておけ」
 周囲の賑わいの中でも店全体に伝わる胴間声でさっきの女性給仕さんに注文。
 ガリオンとワックさんは酒。
 ミルモンはホットミルク。
 
 問題は、

「兜の大きな人。あんたはなんにする?」

「自分はいい。なにかあった時に備えて、自分だけは即応するようにしたいからな。せっかくの厚意を無下にするのは心苦しいが、自分はいない者として扱ってほしい」
 と、相手側を不快にさせないように断る大人なジージー。

「そうかい。そりゃ残念だ」
 兜をとった顔を見たかったのに。と、レギラスロウ氏。
 もしここで兜を取ったなら、周囲の皆さんがパニックになるからね。
 この地でインセクトフォーク――シケイダマンは目にしないだろうからな。
 目にした途端、真っ先に思い浮かべるのは魔王軍だろう。

「ずっと水分をとってないからな。ジージーにはエードを用意するから俺の背後で隠れて飲みなよ」

「感謝します」
 小声でやり取りをすれば、俺へと頭を下げてくるジージーのためにオレンジエードを注文。
 俺とベルは度数の低い果実酒をお願いする。
 
 ――程なくして、飲み物と食べ物がテーブルに並ぶ。

「おお!」
 最近までカツカツだった王都と違って、この地の食事はバランドやミルドといい勝負をするくらいに良い食材が揃っている。
 ベーコンやハム、ソーセージの加工肉もあれば、木皿に載る肉の塊もある。

「気分が高ぶる」
 肉の塊に喜ぶガリオン。

「四十手前なんだから、あんまり無理な食べ方はしないほうがいいぞ」

「俺の胃袋はそんなやわじゃねえよ」
 ガッツリと骨のついた腿肉を掴めば、乾杯もしないままにかぶりつく。
 結構ムキになりやすいようだな。
 心配してやれば行動でそれを否定してくるんだから。
 俺に対してアホな顔が更にアホ。って言い様だけでなく、食いっぷりまでコクリコに似てるおっさんだ。

「いい食いっぷりだな」
 レギラスロウ氏はガリオンの豪快さが気に入ったご様子。
 で、タンカードを手にしてガリオンとここで乾杯。
 ゴクゴクと喉を鳴らしてお互いに飲み干せば、それだけで意気投合。
 ヒゲについた酒の飛沫を手で拭いつつ、ソーセージに食らいつくレギラスロウ氏に触発され、ガリオンも次々と肉に食らいつく。
 見ているだけでこっちは腹が一杯になりそうだ。

「うん。悪くないね」
 小さくカットしたパンにこれまた小さくカットしたチーズを乗せて頬ばるミルモン。
 真似て俺も口に運ぶ。

「確かに、こいつは美味い」
 濃厚でクリーミーな味わいのチーズだ。

「チーズはこの地の特産だからな」
 言いつつレギラスロウ氏もチーズをひょいと口に投げ入れてから酒を呷る。
 美味いチーズがあるなら、王都とも取引してほしいね。
 
 錫製のタンブラーに注がれた冷たい林檎味の果実酒は、ほんのりと喉を熱くする程度で飲みやすかった。
 
 ベルもタンブラーを口に運んで一口。
 からの――、

「ふぅ」
 なんとも甘ったるい吐息のような呼気。
 これには周囲で賑やかに酒を楽しんでいる野郎達も魅入ってしまい、その間は静寂が訪れた。
 綺麗な女と一緒に楽しみたいという心の声が聞こえてくるってもんだ。

「さてさて――」
 何杯目かのタンカードを空にするレギラスロウ氏の目が鋭くなる。
 酒で目が据わったわけじゃなく、店内で自分が標的としている者を探すための炯眼。
 

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