異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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驕った創造主

PHASE-1632【別ベクトルのお馬鹿】

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 優男ヤツが大の字で地面に倒れる。
 鼻が潰れ、力なく開かれた口には前歯がない。 
 意識は完全に飛んでおり、当分の間、起き上がることはない。
 
 ――ベルが見舞った右ストレート。
 細腕であろうとも素早い身のこなしから全身をバネとし、全ての力が拳へと繋がる基本にして奥義と言える一撃。
 
 だが――、

「あれでも手加減してんだろうな」

「そうなのか……。俺でもアレは防ぎきれんがな」

「安心しろよガリオン。俺だって一緒。あの美人様は理の外にいるからな。魔王軍三幹部の一角が、頭を抱える強さなんだからさ」

「そうか、そうだな……。お前たちはその次元まで足を踏み込んでいたんだったな」
 ガリオンからの嘆息まじりの称賛。
 
 ベルによって三人が戦闘不能になる中で、

「クアント! よくもクアントとザンザ、ウッドを!」

「仲間のために怒りを抱く――義憤である。だが、お前と金髪の男との立場が逆だった時、その男はお前の為にそこまでの怒りを抱いてくれただろうか?」

「うるさい! 嫌な女! 綺麗でもそんな性格なら寄ってきた男も愛想を尽かすね! 行き遅れの将来が見える見える!」

「なっ!」
 お! なんかダメージを受けている。
 ポンコツ乙女モード方面の精神世界アストラルサイドにダメージを受けたか。
 行き遅れるという発言を気にしたようだな。
 心配しなくても俺がいるよ! と、大声で言い切れる男になりたいものである……。

「お堅いだけの行き遅れ候補はここで潰す!」

「い、言ってくれる……」
 精神的にダメージを受けているみたいだけども、相手も頭に血が上っているようで、

「ライトニングスネーク!」
 ワンパターンな攻撃をしつつも、

「あえて接近を仕掛けるとはね」
 魔法を放つと同時に自らも接近。
 コクリコのような攻め方を見せてくれるウィザードのクーメン。
 だが、悪手で愚行。
 コクリコみたいに敏捷ならいいだろうが、クーメンの動きは前衛に必要な素早さってのがない。
 
 回避されることを前提とした魔法からのスタッフによる打撃。 
 ベルに届くことなど土台無理であり、振り下ろしたスタッフを半歩横に動いて躱してから背後へと回り込めば――、

「かふっ……」
 クーメンは短いうめき声を上げて力なく倒れる。
 背後に回ってからのマントを利用したチョークスリーパー。
 キュッと絞めて即落とす業前だった。
 行き遅れ候補とか言われたけども、手心は加えてあげた模様。

「まったく、失礼な事を言う」

「ああ、まったくだ」
 ベルが行き遅れるなんて有るわけがない。
 ――……お、俺が……、

「俺が貰ってやるからなアップちゃん。行き遅れる心配はないぜ!」
 ――……。

「まれにああいった馬鹿が羨ましくなることがある」
 勘違いのブリオレによる上機嫌な発言。
 俺が言いたいことをはっきりと言い切るその度量と勘違い。その一割でもいいから欲しい。
 だからこそ、本心から羨ましいと口から出てしまった。

「寝言はこの地面に転がってから言うのだな」

「そんなつれないことを言うなよアップちゃん」

「貴様は手痛い目に遭ったというのに、どうしてそこまで強気を維持できるのか……」
 ベルを呆れさせるお馬鹿な胆力。
 カリオネルとは別ベクトルでのお馬鹿だな。
 
 そんでもって、

「急に上機嫌だな。苦々しく思っていた四人組が倒されたことで気分が良いってか?」

「それに加えてお前を殺せるってのもあるからな――クソガキ! で、強い抱擁からアップちゃんの体を楽しませてもらう!」
 ――……いやはや、

「力量をいい加減に測れるようになれ。この歴史的大馬鹿もんが」
 お前が苦々しく思っていたパーティーをベルが即制圧。
 この時点でお前とベルには天壌の差があるって事をこの場の全員が理解しているのに、コイツだけは未だ自分が凄いヤツだと思っている。
 なんでそこまで自信に溢れているのか……。

「まったく、周囲を見ろ」

「ぬぅ……」
 四人パーティーをベルが制圧する最中、俺とガリオンが話し込んでいる中でもジージーが動き回り、取り巻きをしばき倒していた。
 容赦ないな……。
 倒れている連中の顔が皆して変形……。
 かろうじて息をしているってところ。
 殴殺で鏖殺とは言っていたが、俺の言いつけを守ってくれて手心は加えてはいるけども、ベルと比べれば無慈悲……。

 回復魔法やアイテムで外傷は完治しても、確実にトラウマは刻まれたな。
 当分はデカいグレートヘルムに襲われる悪夢を見ることになるだろう。

「ここで終わりにしとけ――と、普段の俺なら言うんだけども、今回はそうはいかない。市中で暴れたんだからな。全員、折檻が必要だし、その中心であるブリオレ。お前には一番キツいのをぶち込んでやる!」
 ビシリと食指を向けて力強く発せば、すでにここは俺たちのホーム。
 俺の言動で周囲からは歓声が上がる。
 逃げる事なく見守るオーディエンスの酒が進む進む。
 この状況を大いに楽しんでいる。

「肝の据わっている人達が多いようで」
 ならばもっと気分良く酒を飲んでもらえるように、

「ブリオレには最高の肴になってもらおう」

「なめやがって!」
 腰にぶら下げた得物である手斧を握る。

「お、手にしたな。それがどういう意味か分かってんのか?」

「テメーの出来の悪い頭をかち割って、中身を見るために決まってんだろうが!」

「ぬるいクエストしかこなしていないヤツが利器を手にし、それを相手へと向ける。どれほどの覚悟があるのやら」
 ゆるりと歩みつつ、酷薄な声音で言う。

「さっきまで使っていたアトラトルと違って、手にした利器を相手に振るった時の感覚ってのは、体全体だけでなく心底にまで伝わってくるからな。命を奪う抵抗感を簡便化した遠距離武器と違って――ズシンとくるぞ」

「だ、黙れ!」
 近づけば後退する巨躯。
 コイツ、やっぱり口だけが達者なトーシローだな。
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