異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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驕った創造主

PHASE-1639【凍てつく殺気】

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 ルーフェンスさんがデッカい梟を門の近くにある厩舎へと預けている間に、俺たちは門を潜って町へと入る。

「おおっ!」
 旅人用の宿が数軒建ち並んでいる。
 南でこの規模なら、残りの東西北も同様といったところだろう。
 これくらいないと来訪者を受け入れる事が出来ないって事だろうから、中心都市より狭くても人口密度は高そうだ。
 それだけこのアサードアズという町が発展しているということでもある。
 その証拠とばかりに、眼界に入り込んでくる目抜き通りはメメッソ以上に活気に溢れていた。
 
 ――店先にまで溢れる商品を眺めつつルーフェンスさんの合流を待ち、合流後に――、

「まずは宿の確保だな」
 出来る事なら南東方面にある製造所の近くがいいので、そこでよさげな宿があればいいなとエマエスに頼めば二つ返事。
 ルーフェンスさんから先導役を引き継げば、俺たちを宿屋へと案内してくれる。

 ――。

「ここがお勧めです」

「ほ、ほほう……。お、お勧めですか……」

「こりゃ確かにいいな!」
 ガリオンはご満悦。
 勧められた宿屋は四階建てからなるものだった。
 黒煉瓦による重厚な造りの宿屋。目にしただけで分かる高級な建築。
 とてもじゃないが冒険者が利用するようなところではない。
 目の前では高そうな四頭立ての馬車から降りてきた一組を入り口で待機していたドアマンが対応し、ベルマンが荷物を受け取って案内している。
 この世界の宿屋でああいったホテルのようなサービスは見たことがない。
 間違いなく金持ち専用。

「俺はここがいいね。こういった恵まれた場所を活動拠点とすればやる気を維持できる。士気阻喪しきそそうの回避は重要だ」

「なにが士気阻喪だよ。お前、そんなに路銀を貰ってんのか?」

「そんな訳ないだろう。お前が出してくるんだろ?」

「ふざけんなよ! こんな如何にも高い場所を拠点とか冗談じゃねえぞ! アップもなんか言ってくれよ」
 ここはガリオンが大人しくなる人物に頼るのがいい。
 ベルに振れば、悪人強面が強張ったものに変わった。

「私も出来る事ならここがいいな」

「ええ……」

「流石わかってるな。英気を養うにはそれなりの場所が必要だ。それが行動の活力にもなる」
 自分に賛同してくれたもんだから、強張りから弛緩しての笑顔になるガリオン。
 スラム街が似合いそうな輩フェイスがなに言ってんだか。
 お前の風体でこの宿屋が合うかよ。
 お邪魔すれば、みかじめ料を払え! って言ってくる輩がやって来たと思われるだけだよ。
 
 だがベルがここが良いというなら……。

「……ちなみに一泊のお値段は?」
 エマエスへと問えば、

「この宿屋――フィールカームで一泊するとなれば一部屋、円形金貨ですと二枚ほどですね」
 俺に電流走る……。
 後払いも入れればメメッソで日本円にして百五十万ほどを使用したのに、ここでもとんでもない額が飛びそうなんですけども……。
 流石に俺の巾着袋がしぼんじまう……。
 俺、ベル、ワックさん、ジージーにガリオン。
 これにルーフェンスさんと案内役であるエマエスも含めると……、

「……口から吐瀉りそうだぜ……」

「ここはお気に召しませんでしたか?」
 エマエスめ! 前払いと後払いでとんでもない額をこっちが払うもんだから、金に余裕があると思ってこういった場所を選んだのだろうか。
 よかれと思ってのことなんだろうけどさ……。
 ありがた迷惑だよ!

「ケチケチするなよオルト」

「なんだ気持ち悪い! むさい強面のおっさんが俺の耳元で話しかけるんじゃない! ぶっ飛ばすぞ!」

「そう言うな。流石にこの人数に一人一部屋づつとかあり得ないだろう。相部屋って流れだろう」
 俺に電流走る!

「鼻をピクピクさせるな気持ち悪い」

「そんな事はどうでもいい。話しを続けたまえ」

「二人一部屋ってことで、お前は美人様と――ってのはどうだ?」
 やおらガリオンの方を見る。

「お前、もしかして天才か?」

「お前よりは頭の出来はいいとは思っている」

「生意気な事を言うが、今回は許してやろう。よし! エマエス君。部屋が空いているか聞いてきたまえ。君とルーフェンスさんの分もちゃんといれるんだよ。だが財源には限りがある。二人一部屋で四部屋を確保してもらいたい」
 快活に発せば、

「分かりました!」
 元気よく駆け出すエマエス。

「まさか自分まで、申し訳ありません」
 と、ルーフェンスさん。
 この町の詰所で寝泊まりする予定だったそうだが、もう言っちゃったからね。ゆっくりとしてもらおう。
 
 さて、この間に。

「ミルモン」

「なんだい?」
 左肩へと顔を向け、

「見通してくれるか。あの町の防御壁よりも高い防御壁の方向を――」

「おまかせさ♪」
 いつもの如くミルモンは強く瞳を閉じて「むむむ……」と、小さく唸る。

 ――そして、

「見えたよ!」

「どうだった」

「間違いないね。あの防御壁の内部のどこかに白い子グマがいるよ」
 よっしビンゴだ! と、口から発しようとするよりも速く、

「そうか」
 と、俺たちの間に割って入ってくる声。
 とても冷たい声音……。
 場が一気に極寒の地へと変わったかのようだった……。
 火龍装備で物理的な寒さは大丈夫だが、心胆から冷やされるのはどうにも対処できない……。
 
 ガリオンとジージーのような武闘派であっても、発言者の声を耳朶に入れれば、真っ直ぐな姿勢となって硬直。

「ベル。冷静――だよな」

「冷静だが」
 明らかに冷静じゃないよ……。
 声は冷え切っているし、体全体から凍てつく殺気を隠すことなく漏らしているじゃないか……。
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