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驕った創造主
PHASE-1640【クールダウン大事】
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「頼むから感情にまかせて動かないでくれよ」
「あの先にいるのだ。動くさ」
「駄目だ。もし気取られて逃げられたら、どうにもならない」
「この間にゴロ太に何かが起こればどうするつもりだ」
抑揚がねえ……。
まだ声を荒げてくれた方がいいぞ……。
「だ、大丈夫だと思うよ」
ここでミルモンが間に入ってくれる。
「なぜそう言いきれるのだ?」
ミルモンに対しては、些かだが声が柔らかくなる。
「ゴロ太は動き回っていたよ。ある程度の自由があるみたいだし、笑顔でもあったよ」
「な!? 笑顔! 自分の意思で王都を出ていないという報告だっただろう」
「そういった話みたいだけど、オイラが見た光景は楽しげなゴロ太だったからね」
「ならば、本当は自らの意思でここへと来たのか……」
だとすればどうするべきか。
救い出すために来たはずが、もしかしたら無理矢理に連れ戻すという事になるのでは……。
ベルは頭をかかえてしまう。
「それはないよ。ベルさん」
「ワック殿」
「ゴロ太がとてもいい子なのはベルさんも知っているでしょう。それなのに僕やベルさん達に挨拶もしないで出て行くなんてありえない。間違いなく自らの意思でここまで来たわけじゃないよ。ただ、ゴロ太が笑顔になるだけの環境がこの地にはあるということかもしれない。もしくはチャーム系の魔法という可能性も」
「ミルモン」
「流石に魅了魔法にかかっているかは分からないけど、現状、ゴロ太が危険な状況じゃないのは事実だよ。壁向こうの広い部屋で優遇されている感じだった」
「そうか。まずはゴロ太の居場所と安全が確認できただけでも大きな進展だ。だからこそ冷静に行動しないといけない。ベル――頼むからもう少しの間、堪えてくれ」
伝えるも眼前では下唇を噛んで苛立っている。
「おい、血が出てる!」
下唇から流れ出る血が顎の方へと伝う。
「駄目だよ。苛立っているからって自傷行為は」
ミルモンが飛んでベルの口元を小さなハンカチで拭き取ってやれば、
「すまない……」
礼を述べつつ、ミルモンに諭されて少しだが冷静さが戻ってくれる。
「さっきも言ったけど、ここまで堪えたんだ。もう少しの間、耐えてくれ。爆発させる時は必ずくるからさ。まずは調査だ。その広い部屋がどの当たりかを特定し、速攻による行動で救出する」
今のままだと中に突撃してしまえば、騒ぎを察して間違いなく逃げられるからな。と、ここでも釘を刺せば、
「分かった。トールに従おう」
「助かる」
「いや、トールが言うように、逃がす機会を与えないために外堀は埋めていかないとな」
「その通り。突き止めたからこそ繊細に行こう。そして動く時は大胆に」
「了解だ」
本当は今すぐにでも動きたいんだろうけど、ここで堪えてくれるのは有り難い。
直情型であり、そこがウィークポイントに繋がりそうなのがベルだからな。
留まってくれればそこを心配しなくていい。
「ほら」
ポーションを手渡す。
「ベルが流血とか初めて見たぞ」
「この程度、流血とは言わない。が、厚意は有り難く受ける」
言ってポーションを呷る。
「ふぅ」
と、小気味よく呼気を漏らせば、
「「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」」
と、同音の呼気であっても、後者のは重々しい……。
ガリオンとジージー。極寒のプレッシャーが薄まったことで安堵の息を吐き出していた。
――重々しく息を吐き出す二人の体が弛緩してから程なくして、
「問題ないそうです」
俺たちのやり取りを知る事のないエマエスが笑顔で伝えてくれる。
良い部屋を四部屋借りるという者達が現れたからか、エマエスの後ろには数人のベルマン。
ワインレッドの詰め襟スーツと黒のスラックス。
スーツと同色の円筒形の制帽。
俺の世界のホテルのベルマンそのものだな。
復興段階の王都の宿屋では目にする事のない整った制服だった。
――手荷物を手渡し、ベルマンの誘導で重厚ある黒煉瓦の四階建てからなる宿屋――フィールカームへとお邪魔する。
この地における俺たちの拠点は、俺の懐に優しくはない……。
「流石だな」
良い値段の宿泊費を取るだけある。
高い天井にはシャンデリア。
ファイアフライを封じているタリスマンでも使用しているのか、暖色ではなく明るい白色が受付やラウンジを隅々まで照らす。
ラウンジには俺たち冒険者スタイルとは明らかに違う客層。
富裕層と一目で分かる服装と装飾品を身につけた方々ばかり。
貴族や素封家ってところだろう。
お近づきになれれば、今後なにかと助力してもらえることも可能かもしれない。
「あの人達の目的は?」
ここいらには良い観光名所でもあるのかとエマエスに問えば、どうやら俺達と似たような理由のようだ。
スティミュラント購入だけでなく、開発者たちは様々な事に着手しているそうで、それに対して出資している者達がその状況と成果を目にしたいということから足を運んでもいるという。
「様々な着手ってのは何です?」
「噂では若返りの薬を作っているとか」
「ああ」
自分が築き上げてきたものを自らの手でより長く維持したいという欲ってのは、権力を持てば持つほど強くなるだろうからな。
エルフやドワーフと比べたら人間は短命だしな。
「眉唾もいいところだ」
と、ジージー。
言われるとエマエスは苦笑いだ。
どうやらエマエス自身もそう思っているようだった。
「アンデッドにでもなれば不老不死を手に入れられるからそっちを選べ」
一階の広間でくつろぐ他の客に向かって吐き捨てる。
有り難いのは俺たちにしか聞こえない程度に声を抑えてくれたことだ。
だがここに留まり続ければ、ガリオンの毒がいつ大きなものになるか分かったもんじゃない。
あの中には俺たちの協力者になり得る人達もいるかもしれないから悪印象は持たれたくない。
「あの先にいるのだ。動くさ」
「駄目だ。もし気取られて逃げられたら、どうにもならない」
「この間にゴロ太に何かが起こればどうするつもりだ」
抑揚がねえ……。
まだ声を荒げてくれた方がいいぞ……。
「だ、大丈夫だと思うよ」
ここでミルモンが間に入ってくれる。
「なぜそう言いきれるのだ?」
ミルモンに対しては、些かだが声が柔らかくなる。
「ゴロ太は動き回っていたよ。ある程度の自由があるみたいだし、笑顔でもあったよ」
「な!? 笑顔! 自分の意思で王都を出ていないという報告だっただろう」
「そういった話みたいだけど、オイラが見た光景は楽しげなゴロ太だったからね」
「ならば、本当は自らの意思でここへと来たのか……」
だとすればどうするべきか。
救い出すために来たはずが、もしかしたら無理矢理に連れ戻すという事になるのでは……。
ベルは頭をかかえてしまう。
「それはないよ。ベルさん」
「ワック殿」
「ゴロ太がとてもいい子なのはベルさんも知っているでしょう。それなのに僕やベルさん達に挨拶もしないで出て行くなんてありえない。間違いなく自らの意思でここまで来たわけじゃないよ。ただ、ゴロ太が笑顔になるだけの環境がこの地にはあるということかもしれない。もしくはチャーム系の魔法という可能性も」
「ミルモン」
「流石に魅了魔法にかかっているかは分からないけど、現状、ゴロ太が危険な状況じゃないのは事実だよ。壁向こうの広い部屋で優遇されている感じだった」
「そうか。まずはゴロ太の居場所と安全が確認できただけでも大きな進展だ。だからこそ冷静に行動しないといけない。ベル――頼むからもう少しの間、堪えてくれ」
伝えるも眼前では下唇を噛んで苛立っている。
「おい、血が出てる!」
下唇から流れ出る血が顎の方へと伝う。
「駄目だよ。苛立っているからって自傷行為は」
ミルモンが飛んでベルの口元を小さなハンカチで拭き取ってやれば、
「すまない……」
礼を述べつつ、ミルモンに諭されて少しだが冷静さが戻ってくれる。
「さっきも言ったけど、ここまで堪えたんだ。もう少しの間、耐えてくれ。爆発させる時は必ずくるからさ。まずは調査だ。その広い部屋がどの当たりかを特定し、速攻による行動で救出する」
今のままだと中に突撃してしまえば、騒ぎを察して間違いなく逃げられるからな。と、ここでも釘を刺せば、
「分かった。トールに従おう」
「助かる」
「いや、トールが言うように、逃がす機会を与えないために外堀は埋めていかないとな」
「その通り。突き止めたからこそ繊細に行こう。そして動く時は大胆に」
「了解だ」
本当は今すぐにでも動きたいんだろうけど、ここで堪えてくれるのは有り難い。
直情型であり、そこがウィークポイントに繋がりそうなのがベルだからな。
留まってくれればそこを心配しなくていい。
「ほら」
ポーションを手渡す。
「ベルが流血とか初めて見たぞ」
「この程度、流血とは言わない。が、厚意は有り難く受ける」
言ってポーションを呷る。
「ふぅ」
と、小気味よく呼気を漏らせば、
「「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」」
と、同音の呼気であっても、後者のは重々しい……。
ガリオンとジージー。極寒のプレッシャーが薄まったことで安堵の息を吐き出していた。
――重々しく息を吐き出す二人の体が弛緩してから程なくして、
「問題ないそうです」
俺たちのやり取りを知る事のないエマエスが笑顔で伝えてくれる。
良い部屋を四部屋借りるという者達が現れたからか、エマエスの後ろには数人のベルマン。
ワインレッドの詰め襟スーツと黒のスラックス。
スーツと同色の円筒形の制帽。
俺の世界のホテルのベルマンそのものだな。
復興段階の王都の宿屋では目にする事のない整った制服だった。
――手荷物を手渡し、ベルマンの誘導で重厚ある黒煉瓦の四階建てからなる宿屋――フィールカームへとお邪魔する。
この地における俺たちの拠点は、俺の懐に優しくはない……。
「流石だな」
良い値段の宿泊費を取るだけある。
高い天井にはシャンデリア。
ファイアフライを封じているタリスマンでも使用しているのか、暖色ではなく明るい白色が受付やラウンジを隅々まで照らす。
ラウンジには俺たち冒険者スタイルとは明らかに違う客層。
富裕層と一目で分かる服装と装飾品を身につけた方々ばかり。
貴族や素封家ってところだろう。
お近づきになれれば、今後なにかと助力してもらえることも可能かもしれない。
「あの人達の目的は?」
ここいらには良い観光名所でもあるのかとエマエスに問えば、どうやら俺達と似たような理由のようだ。
スティミュラント購入だけでなく、開発者たちは様々な事に着手しているそうで、それに対して出資している者達がその状況と成果を目にしたいということから足を運んでもいるという。
「様々な着手ってのは何です?」
「噂では若返りの薬を作っているとか」
「ああ」
自分が築き上げてきたものを自らの手でより長く維持したいという欲ってのは、権力を持てば持つほど強くなるだろうからな。
エルフやドワーフと比べたら人間は短命だしな。
「眉唾もいいところだ」
と、ジージー。
言われるとエマエスは苦笑いだ。
どうやらエマエス自身もそう思っているようだった。
「アンデッドにでもなれば不老不死を手に入れられるからそっちを選べ」
一階の広間でくつろぐ他の客に向かって吐き捨てる。
有り難いのは俺たちにしか聞こえない程度に声を抑えてくれたことだ。
だがここに留まり続ければ、ガリオンの毒がいつ大きなものになるか分かったもんじゃない。
あの中には俺たちの協力者になり得る人達もいるかもしれないから悪印象は持たれたくない。
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