異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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驕った創造主

PHASE-1649【オリエンタル】

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 ――。

「お待たせ致しました」
 黄昏時、老公が宿屋へと帰ってくる。
 
 後ろには――、

「アップ、踊り子の服は?」
 期待していた服装と違い、俺が買って上げた冒険者装備のままだった。

「あ、あんな恰好で常に歩き回ることなど出来るかっ!」
 と、ラウンジ全体に響くほどの声。
 お怒りの声にロビーとラウンジから衆目を集める事になる。
 周囲の視線を気にしないほどに不機嫌なベル。

 それほどお怒りになるってことは――、

「フッフフフフ――」
 かなりの破壊力を有した破廉恥衣装ということですかいの~。

「変な笑いをするな!」

「ぎっしゅっ!?」
 右のハムストリングスを襲う強烈な鈍痛……。
 先日に続いてのベルからの怒りの一蹴りにラウンジでのたうち回る俺氏……。
 未だ馴染んでいない兜が頭から外れれば、今の俺と同じようにゴロゴロと転がる……。
 
 ラウンジに集まる金持ち連中から冷ややかな目を向けられて目立つ目立つ……。
 先ほどから騒がしい冒険者たちだと不機嫌ですよ……。
 
 ――場所は変わってベルが宿泊する部屋。
 ――そう! ベルの部屋。
 この状況に俺のハムストリングスの痛みは吹っ飛ぶ――とはいかないが、アドレナリンがドバドバで軽減中。

「兄ちゃん鼻の穴が開きすぎだよ……」

「そうだろうね!!」
 興奮する俺の語気にミルモンは若干どころかかなり引き気味。
 だって興奮するじゃない!

「いいか、絶対におかしな目で見るんじゃないぞ!」
 閉じられた寝室からベルがドア越しに言ってくる。
 最高の金額を払うだけあって、俺たちが利用する部屋の間取りは、寝室と広いリビングからなる。
 そんなリビングで、俺はソファに座ることなく正座にて待機。
 
「俺は紳士ですよ。おかしな目で見るわけないじゃないですか。俺は紳士ですよ」

「なんで敬語なのさ……。なんで二度も言うのさ……」
 呆れるミルモンを横目に、開かれるであろう寝室のドアを今か今かと凝視。
 血眼とは今の俺のようなことを言うのでしょうね!
 許可さえあれば正座による全裸待機を実行したい!

 ――護衛という立場で製造所へと入ることから、ベルの踊り子姿を一応は見ておかないといけないという俺の邪な提案をラウンジで述べれば、意外にすんなりと提案が受け入れられたことで現在の状況に至る。

 一緒に護衛を担当するルーフェンスさんは俺に気を利かせてくれたのか、この場にはおらず、リビングには俺とミルモンだけ。
 で、寝室にはベルだけ。
 何かが起こってもいい最高のイベントですわい。
 まあ、間違いなくイベントは発生するんですけどね!

「ぬん!」
 稼働するドアノブからわずかに生じるカチャリという音を聞き逃さないトールイヤーは地獄耳!
 荒ぶる我が鼻息!
 開かれたドアの先から現れる美人様のお姿を我が目が捕捉せり!

「ポォォォォォォォォォォォォォォォォオオ!」

「うるさいよ兄ちゃん……。オイラのデリケートな耳が壊れるよ……」

「ポォ! ポォウ!」

「なんてことだい……。人の言葉を忘れてしまったんだね……」
 ちょこんとソファに座るミルモンは、今の俺の姿に大いに呆れておられる。

「お前は変な目で見るなと言っただろう! そして奇声を上げるな!」
 寝室から出て来る美人様、顔を真っ赤にしてお怒り。
 この真っ赤は怒りもだが、恥ずかしさからも来ておられるようですな!

「だって仕方ないじゃないか!」

「あ、人の言葉に戻った」

「なんと――素晴らしい! バニー以来の感動が再びってやつだよミルモン君!」
 と、バニーの時を知らないミルモンは何のことだかと肩を竦める。

「お前はあの時の痛みをまた味わいたいようだな……」

「落ち着けベル! 褒めてるんじゃないか! 凄く綺麗です!」

「う、ううん……」
 あれ? 蹴られない。
 というか照れてらっしゃる。

「兄ちゃん、案外するっと言えるんだね」

「――! お、そうだな!」
 この俺が女性に対してスマートに綺麗と言えたよ。
 普段ならフガフガとどもってしまうのに綺麗とすんなり言えてしまった。
 だからベルは照れておられる。
 可愛いのである。
 テンションって素晴らしい!

 ――それにしても、

「エロい……」

「ふん!」

「ぎぃぃじゅん!?」
 本日二度目のハムストリングスへの直撃弾。
 しかも同じ右。寸分の狂いがない同じ箇所を見事に蹴られれば、先ほどの痛みをまだ引きずっている俺は、アドレナリンがドバドバよりも涙がドバドバと流れ出てくる……。
 この涙には感涙も含まれていますけどね!
 目の前のベル様よ。
 バニー姿も良かったけど――これはたまらん。

「ほんなこつ、たまらんですばい!」

「お前はさっきから言葉に迷いがないな!」

「真実を言っているので」

「このっ!」
 床に転がる俺を踏みつけてきそうなので、咄嗟にゴロゴロ回避。
 ある意味、踏みつけられるとかご褒美ではあるけども。
 なんか寸止めはしてくれたけどね。

 それにしても、

「ええっと。なんてヤツだっけ? ベリーダンスで使用する衣装だっけ?」

「知らん!」
 質問しても荒ぶる短い言葉で返してくるだけ。
 真紅のベリーダンス衣装。
 胸を隠すのは面積少なめの真っ赤なビキニタイプ。
 肩から前腕にかけては薄地の赤で、雪肌がうっすらと見えている仕様。
 くびれた腹部は丸見え。
 ハーレムパンツっていうやつだっけ? 膨らみのある真紅のソレは太股部分から大胆にスリットが入っており、生足がよく見える。
 
 金色の金属にちりばめられた多彩な宝石による頭飾は赤い薄地のベールと一体化しており、白髪全体を覆い隠す。
 同色のフェイスベールで目から下の部分も覆い隠されていた。
 
 ――オリエンタルな女神が目の前に降臨なされた。
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