異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1653【戦闘ゼロで武王と呼称される人】

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 ――テンションが上がり騒がしくなった場から二人を護衛し、用意された部屋へと移動。

「随分と大風呂敷を広げてくれましたね」
 部屋へと入って真っ先に言葉を発するベル。
 情熱はともかく色情はどうなのか。と、ご立腹だ。

「広げても問題ないと思いましたので」
 何かを成し遂げるためには自分に出来る事を全力で実行し、成功を自分たちの方へと手繰り寄せる事こそが第一。
 含蓄深いのか、体の良い言い訳なのかは分からんが、ベルを納得させるには十分だったようであり、ご立腹だったベルも自分に言い聞かせるかのように数回、小さく頷いていた。

「準備をしますか?」

「いいでしょう」
 成功を手繰り寄せるためには全力で事に当たる。
 これは軍人であるベルなら理解して当然。
 だからだろう、老公に対しての返事には力強さがあった。

「やってやろう!」
 俺だってベルと同じ気持ちだからな。
 ゴロ太を無事、俺たちの元へと帰ってこさせる。

 ――。

「何度見ても素晴らしいという感想しかありません。君もそう思うでしょう」

「あ、あ。え、ええ……」
 ワンピース姿から踊り子へと変わるベル。
 成功させるために覚悟はしていてもやはり恥ずかしそう。
 踊り子の衣装となったベルの姿を目にしても、老公は落ち着いた物言い。
 対してルーフェンスさんは美人様の露出の高い姿と向き合い、目のやり場に困りながらも、語りかけてきた老公に上擦りながら懸命に返事。

「フ、フフフフフン♪」

「お前だけ不愉快だな! オルト!」

「蹴らないでいただきたい。これからの事を考えると無駄なダメージは負いたくないので」

「言い訳が上手い事だ!」
 お怒りのベルではあるが、

「やるだけの事はやろう」
 真剣な声へと早変わり。
 俺もエロい思考でばかりいないで、真剣に事に当たりましょう。

「一々とこちらを見るな!」
 真剣になったとしても、どうしても視線がベルへと向いてしまうのは、健全な男子だからね。仕方ないね。

 ――うむ。

「先ほど以上に視線を釘付けだな」

「五月蠅い」
 小声でのやりとり。
 先ほどの場に戻り、老公を先頭に俺とルーフェンスさん、ベルと続く。
 護衛対象を守るように左右へと位置について周囲を見ながら歩くが、金持ち連中の視線はオリエンタルな衣装を身に纏ったベルに一点集中。

「システトル殿」
 横から語りかけてくる男。

「これはお久しい」
 老公は足を止めて対応する。
 そうするだけの存在か。
 服装は老公に似て派手さはないが金がかかっているモノ。
 ゆったりとした袖口からなる白地のラフな上着と黒のボトム。
 町中を歩いている平民のような身なりだが、質が高いのは俺でも分かる。
 この人物も成金とは違って、代々続く由緒ある家柄って感じ。

「アプール殿、ご健勝で何より」
 老公が口に出したアプールなる壮年の男。
 
「このような美しい女性は見た事がありません」
 早速とばかりにお近づきになろうとしてくるおっさん。
 下卑た目を向けないところは紳士。
 派手な装身具で身を包んでいる周囲の連中とは違う。
 でもって、このおっさんが近づいた事で、ベルへと話しかけようとしていた下卑た表情連中が近づけなくなった。

「初めまして。アプール・フォンダン・ジョズと申します」
 踊り子のベルの前で片膝をついての恭しい挨拶。

「私のような者に大仰な挨拶は必要ありません」

「いえ、その美しさは天界に住まう女神そのもの。女神を前にして跪くのは地上に住む者として当然でしょう」
 老公もそうだが、真の金持ち連中は心と所作にゆとりがありますな。
 でもって口も上手い。クサい台詞のようで決まっている。
 誰が言うかで印象って本当に変わる。勉強になるよ。

「あのアプールなる銀髪の御方は?」
 ベルとの会話を弾ませているおっさんの隙を突いて老公へと問えば、主に中心都市メメッソで商いを展開している豪商と教えてくれる。
 メメッソにてクルーグ商会と双璧をなすジョズ家の現当主様だそうな。
 代々、鉱物採掘にて財を成しているそうで、ロイル領の兵士や冒険者の装備には、ジョズ家の鉱物か必ず使用されていると言われており、武具の根幹をなす素材を扱っている事から武王と称されているそうな。
 当人は戦いの経験がまったく無いそうで、仰々しい呼ばれかたには大層、困っているとのこと。
 鉱物の利権を持ち、武具生産の元になっている豪商。
 武王ってより鉄鋼王と呼びたい人物だ。
 でもって、お近づきになりたい人物でもある。
 南伐を考えれば、所有している鉱物なんかを格安でじゃんじゃか王都方面に流してほしいもんだな。

「踊り子殿。名はなんと?」

「アップ・ファウンテンと申します」

「良きお名前で。踊りを披露していただけること光栄に思います」

「あ、はい」

「デュオでの踊りもお得意で?」

「少々」

「ならば披露の後は是非ともこのアプールとも踊っていただきたいですね」
 ぐっと間合いに入ってくるおっさん。
 これが戦いの場であるなら、ベルは自分の間合いに踏み入らせることなくレイピアや蹴りによって相手を倒すんだけども、

「お時間があれば」
 営業スマイルを貼り付けて応対。
 それが社交辞令だと分かっていてもアプールのおっさんは有頂天とばかりに表情がほころんでいた。

「なにかございましたら是非に頼っていただきたい。このアプール・フォンダン・ジョズはシステトル殿よりも頼れますからね」

「本人を前に言ってくれますな」

「この様な美しい方を前にすれば渇望が強くなりますゆえ、つい心の奥底に沈めていた本音が出てしまいましたよ」

「はっはっは」
 軽い調子で挑発的な発言。
 これに対して笑いだけで応じる老公。
 二人の間にバチバチぶつかりあう電撃を幻視する。
 
 笑顔を向け合ってはいるが、お互い利権の拡大などでぶつかり合っている経験もあるんだろうし、これからもぶつかり合うんだろう。
  商人同士にしか分からない、俺たちとはまた違った戦いの世界。
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