異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1654【面識がある模様】

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「主殿、そろそろ」
 主殿と発するベル。

「――ん? ああ! そうだな。準備をしようかアップ」
 主殿という言葉にワンテンポ遅れた老公。
 自分を指す言葉ってのを理解していなかったようだ。
 
 それを誤魔化すとばかりに、ベルの細い腰に腕を回して密着してから歩くという姿を周囲に見せつけてくる。
 自分が雇い主であるというのをひけらかすかのように。
 これには余裕あった武王アプールも悔しそうに眉根に皺をよせ、周囲の連中も羨ましそうに眺めていた。
 皆して老公に嫉妬を向けている。
 ――かく言う俺も他の追随を許さないほどに嫉妬を纏い、ギリギリと歯を軋らせてしまう……。

「怒りが溢れ出ていますよ……」
 ルーフェンスさんから苦言。

「兄ちゃんもあのくらいの事を自然に出来ないとね」
 と、雑嚢から頭だけをひょこりと出してのミルモン。
 あんな風に出来るものならやっていますとも……。
 
 ――密着して歩く二人の二歩後方で護衛をしつつ、周囲に気を配る。
 護衛という役目なので、そこは真剣に向き合わせてもらい、ベルへと向けてくる嫌らしい視線に対して睨みを利かせるが、やはり未だに馴染んでいないレザーアーマーによる装備は初々しく見えるのか、半笑いで返されるだけだった。
 装備って大事だな。 
 まあ、普段の装備でも小馬鹿にされるけども……。
 やはり男として内面をもっと磨き上げないと、周囲からの視線も一目置くというモノにはならないようだ。
 
 励む事を己の中で誓えば、

「今回、前座のために絶世の美女の舞を提供していただき感謝いたします。それにしても――」
 と、ムアーが再び登場。
 踊り子となったベルを目にすれば、降車の時とは比べものにならないほど見開かれた目となる。
 眼窩からこぼれ落ちそうな勢いだった。

「お美しい……」
 ベル本人はそんなつもりはないんだろうけども、パッシブで漏れ出ている色気は絶大。
 普段、研究なんかに勤しんでいるであろうムアーは免疫がないのか距離感がバグったようで、ベルに飛びかかりそうな勢いで接しようとする。
 そこを老公が前に出て遮り、それよりも速く俺が二人の前へと立って遮る。

「ご老公の随伴者への急な接近はおやめください。舞姫が怖がってしまいます。そうなればこの後の催しにも影響が出ますよ」
 と、丁寧に対応する俺氏。
 自分が思ってた以上に目が鋭いものになっていたのか、他の金持ち連中が見せた小馬鹿にした態度とは違い、ムアーは足を止めて直ぐさま後退。

「これは失礼。ご老公の大切な女性であるにもかかわらず」

「お気をつけください」

「申し訳ございません」
 平謝り。
 ムアーには老公の大事な情婦に見えたようだ。
 そんな風に見ることを俺は許さないですけどね!

「少しの間、ここで待っていてください」
 そう言うとムアーは足早に立ち去る。
 居心地が悪かった――というものではなく、進行のためといったところ。
 向かう先は俺たちが立つ場所よりも数段上の壇上。
 周囲で談笑していた出資者たちもそれに気づいて会話を一時中断。
 皆して壇上へと目を向け、それを受けたムアーは、

「本日、お集まりくださった皆様、有り難うございます」
 痩躯でひ弱そうな体からは想像がつかないほどの大声。

「皆様の貴重なお時間を我々に割いてくださったことに重ねてお礼を申し上げます。そして、皆様が期待していた開発の進捗も順調でございます」
 堂々とした姿勢からの発言に、集まっている連中がどよめく。
 嬉々とした声によるソレを受け、ムアーは笑みを顔に貼り付けつつ、

「しかしまだ完成には至っておりません。そこは平にご容赦を」
 継ぐ発言に今度は不満からなる声が漏れる金持ち連中。
 ムアーの発言に不満ある声を漏らすのは、見た感じ成金タイプが大部分を占めていた。
 老公のような落ち着きある服装組からはそういった声はわずかに上がる程度だった。

「皆様のご不満は重々承知しております」

「ならば結果を出さないか! 出来てもいないのにここに呼び寄せたのか!」
 一人の派手な服が声を荒げれば、それに数人が呼応。
 声を上げた者達が壇上へと上がって問い詰めようとするところで、製造所の私兵達が直ぐさま動き壁となって堰き止める。
 素早く揃った動きから伝わってくる練度の高さ。

「お静かに。まだ開発責任の発言は終わっておりません」
 自己紹介は済ませたけど役職までは聞いていなかったな。
 ムアーが開発責任者――つまりはこの製造所のトップと判断していいな。

「オルト殿!」

「ルーフェンスさん?」
 小声であるけども急を知らせるような焦りのある声音。

「宜しければその兜をお貸し頂きたい」
 何かしらの理由があるというのが分かるので、なんで? などと返さずに、顎のベルトを外して未だ馴染んでいないレザーヘルムをルーフェンスさんへと手渡せば、手早く頭に装着。
 目深に被って目元を隠す勢いだった。

「どうしました?」
 壇上付近のやり取りを横目にしつつ問えば、

「私兵の一人。中央で詰め寄った者達を言葉にて止めた一人――兜を被っていない者がいますよね」

「ええ、はい。中々に覇気がありますね。詰め寄った数人も足を止めるどころか、あの人物の圧に一歩後退しましたね。小柄な体であってもあの威圧感。かなりの場数を経験しているようです」

「あいつ!」
 怒りの感情が含まれた短い発言。

「一体、どうしたというんです?」
 ルーフェンスさんに接近し更に小声で問えば、

「兜を被っていないあの男。名前をソドンバアムといいます」

「なんか厳つい名前ですね」

「厳ついかどうかは個人の感想でしょう」

「すいません……」
 怒気のある声音につい謝ってしまう。
 壇の前に現れた人物が原因で表情が変わるルーフェンスさん。
 ソドンバアムなる男とは面識があるようだ。
 苛立つ感情をむき出しにした姿からして、良い関係性ではないようだけど。
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