異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1730【敵味方識別】

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「よし」
 自信に満ちた声が背中に届く。
 瞥見すればベルと目があった。
 そして次には声同様の表情を俺へと見せてくれる。

「グァァァァァァア!」
 威嚇するシュネーの頭にベルが手を置く。

「いま解放するからな」
 優しい声でシュネーの額部分を優しく撫でる。
 それでも威嚇は止まらない。
 そんな頭部を包むように――、

「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっぁあ!?」
 発狂。
 目を血走らせて叫ぶバルバダイ。
 ベルによってシュネーの頭部が炎に包まれる。その光景を直視したことが発狂の原因。
 この状況に叫ぶバルバダイは意識が飛びそうになっていた。
 卒倒しそうな強いショックに襲われながらもゼリー状の内部でなんとか踏ん張り、

「女! 何をしている! 貴様は何をしているのか分かっているのかぁひゅゅゅ!」
 吐血しそうな勢いでベルへと言葉を叩き付けるもベルはどこ吹く風。
 完全に無視のスタイル。

「勇者!」

「俺に問うてくるなよ」

「貴様等! ジュニアの仇となるわけだな!」

「ならねえよ。むしろお前が仇だろうが!」

「女が出した炎に包まれている! モーモーチャーチャーの触手同様、消滅! 間違いなくジュニアの仇となるわけだ!」

「だからそうはならねえよ」

「何を言っている!」

「よく見ろマッド」
 シュネーの頭部を包む炎は、俺のブレイズのような荒々しいものではなく、とても優しくて温かみのある炎。

「――ん? なぜシュネーは消滅していない?」

「消滅はしていると思うぞ」

「はぁ?」
 なにを言っているのだと俺を見上げてくるバルバダイ。
 仕方ない。

「ベルの炎は俺の炎とは違って敵味方の識別が出来るっていうものでね」

「なにを馬鹿げたことを! 炎は炎だ! そのような芸当が出来るものか! 神だとでも言いたいのか!」

「神は神だろうね。美の女神ってポジションで」

「ふざけた事を言ってくれる! 貴様等は絶対に許さん! 虚言を吐きよって! どうせその炎でシュネーはほどなくして消滅するのだろうからな! 絶対に許さんぞぉ!」

「許さなくて結構。俺たちはお前以上にお前を許さないしな!」

「わ、私の救世主の片方を奪っておいて! どうしてくれる……。私の計画が頓挫してしまったではないか! ……わ、わだじの……」
 うわ……。
 号泣だよ……。
 自分のプランが崩壊したことによるショック。
 完璧主義者の精神部分に大痛打。

「ハハハッ! ざまぁ!」
 大泣きするおっさんの顔を見て心の底から感情が出てしまった。
 俺の心はスッキリとしている。
 もちろんそういった思いは俺だけじゃない。
 ガリオンも悪そうに嗤うし、ジージーもグレートヘルムの奥側で籠もった哄笑を上げている。

「この悪魔共めぇぇぇえ!」

「悪魔のような人間に悪魔と言われてもね~」

「返せ! シュネーを返せぇぇぇぇぇぇえ!!」

「返さねえよ。これからシュネーは俺たちに心を開くんだからな」
 ――俺の発言に静寂が訪れる。

「何を言っているんだ貴様は……」

「見ろよバルバダイ」
 ベルへと向けて指させば、

「消滅の炎に包まれているのに、未だにシュネーが消滅していない。本当に神の炎だとでもいうのか?」

「そもそもが間違いなんだよ。ベルの炎は消滅の炎じゃねえ。浄化の炎だ。もちろん悪に対しては消滅の炎にもなるだろうけど」

「訳が分からん!」
 未だに理解できていないバルバダイ。
 ベルの炎の特性が理解できないと分からないのも仕方ないか。
 特に初見となれば。
 
「もう一回言うからちゃんと受け入れろよ。ベルの炎は敵味方識別が可能なんだよ」

「そんな事が可能な炎など……」

「天才なら様々な不可思議に直面しても柔軟に受け入れないとな」

「ぬぅ……そうれはそうだ」
 受け入れるところはすんなりと受け入れる事が出来るおっさんでもあるんだよな。
 王様もコイツの琴線に触れるポイントを理解していればな。
 もしかしたらこっちサイドにとって、有用な存在になっていたという世界線もあったのかもしれない。
 今となっては友好的な関係を構築しようなんて微塵も思わないけど。

「問題ない」
 バルバダイとのやり取りを行っている間にベルがここでもう一度、俺を見てくる。
 柔和な笑み。そして包まれていた炎が消える。
 
 と、同時に、

「静かになったな」

「成功だ」
 威嚇していたシュネーが今では大人しくなっている。

「何をしたのだ!」

「敵味方識別が出来るって言ったろ。三回も言わせんな! 天才って名乗るなら一を聞いて十を知れ!」

「だから敵味方の識別とは何処を指している!」

「今までの会話の流れから理解しろよ」
 ここまでさんざっぱら似たような内容でこちらを見下してきたからな。同様の内容で意趣返し。
 悔しさをにじみ出した渋面となりつつも、頤に手を当てて考えれば、

「……んんっ!? まさか! そんな事が可能なのか……」

「可能なんだよ。こっちサイドの最強様だぞ」

「シュネーだけを救って、頭部に埋め込んだジストマ・ブレーンだけを消滅させたのだな!」

「やるだろう」
 胸を張って返してやる。
 別に俺がやった訳じゃないけどね。
 こういう時、ベルって自分の功績を誇らないからね。コクリコの百分の一くらいのリアクションで誇ってもいいと思うんだけど。
 バルバダイのようなプライドの高い奴には、自身の予想を超えた現実を叩き付けてやって、徹底的に見下してやるのが一番効果があるというもの。
 なのでベルが誇らない分、俺とミルモンがドヤ顔で見下してやりますよ。
 見下せば悔しそうに頭を掻きむしっていた。

「ハゲそうな勢いだね♪」

「そうだな♪」

「「ハハハハハハハハ――――ッ!!」」と「キュキュキュキュキュ――!」
 俺とミルモン。そして俺とリンクするゴロ丸の高笑いが、月明かりが照らす湖によく響きました。
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