異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1734【人間水切り】

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 終わらせるにはなによりも重要になるのが――、

「ゴロ太を救い出したい」
 最終目標であるゴロ太を無事に救い出さないと勝利を得たことにはならない。
 シュネーへと伝えると、

「問題ないですよ」
 簡潔に返してくれる。
 
 ワックさんに大切に抱きかかえられながらゴロ丸の体の上で――、

「クゥゥゥゥゥ――」
 鳴き声を上げる。
 最初に耳にした時は寂しさと優しさの混ざったようなものだったけど、今回のは優しさだけに満ちた温かな鳴き声だった。
 
 ――温かな鳴き声からややあって、
 
「ん、ん~」
 ゼリー状の内部から目を擦りながら声を出すのはゴロ太。

「あれ? ここは何処だっけ?」

「おお!」
 明らかにリアクションがこれまでとは違う。
 ジストマ・ブレーンで支配されていたシュネーがバルバダイの指示に従いゴロ太を支配。
 この地での俺たちとのやり取りは別人――別クマだった。
 俺たちの事は記憶していてもバルバダイを優先していたゴロ太だったが、シュネーの今の鳴き声でその支配が解かれたと考えていい。

「ジュニア!」

「あ、おじさん」

「こっちへ来るんだ! そこは危険だ! 早く私のところに来なさい!」 
 ゼリー状の内部でゴロ太へと手を伸ばすバルバダイ。
 必死な形相で手を伸ばすその姿にゴロ太は危機を感じ取ったようで後退り。

「ゴロ太!」

「あ! ワックさん!」

「こっちにおいで!」

「わかったよ」
 にこやかな笑顔でこちらへと体を向けるも、モーモーチャーチャーの内部では動きが妨げられる。
 そこにバルバダイの手が伸びる。
 
 俺が動こうとするところで、

「ゴロ太に触れるな!」
 俺以上に過保護で庇護欲に支配されておられる、ゴロ太に首ったけなベルがショートソードを振るう。
 振るえば横に寝かせた柱を思わせる炎が顕現し、一直線に進みゴロ太を包む。
 ゴロ太の支配が解けたのが分かった時点で容赦なし。
 
 今まではモーモーチャーチャー本体にダメージを与えれば、内部のゴロ太は支配された状態から戻らなくなるというバルバダイの発言もあって手が出せなかったが、シュネーを救い出し、そのシュネーがゴロ太の支配を解いてくれたことでこっちはもう容赦なく攻撃が可能となった。
 
 俺たちの中でもっとも怒りを抱いていたベルが容赦ない一撃を見舞えば、

「脱出部分の出来上がりってね」
 炎によってモーモーチャーチャーにぽっかりと穴が空く。

「ゴロ丸、ゴロ太を救出だ」

「キュウ!」
 言われずともとばかりに、ミスリルからなる右手は既にゴロ太の方へと伸びていた。

「ありがとう」
 お礼を一言述べてからゴロ丸の掌にピョンと飛び移るゴロ太。

「ジュニア! ええい!」
 伸ばした手を直ぐさま引っ込めて無事だったバルバダイが悔しそうに声を吐き出し、ゴロ丸の掌に飛び移ったゴロ太を捕まえようとするも、

「はぅわぁ!?」

「キュウゥゥゥゥゥ~」
 おっとこの右手は一人乗りなんだ。だからテメーは駄目だぜ~。みたいな感じで左手でむんずとバルバダイを掴む。

「はぇぁぁぁ!? 放せ!」

「キュゥゥゥゥゥ――」
 つぶらなお目々でジッとバルバダイを睨むゴロ丸。
 ミスリルゴーレムによる拘束。痩せた体で非力なバルバダイがそこから抜け出すことなど不可能。ひたすらに悲鳴を上げながらゴロ太に助けを求めるという状況。

「なんと見苦しい男だ」
 ベルの冷え切った目。
 侮蔑の眼差しだったけども、

「とう!」
 元気よくゴロ丸の上へと着地すれば、

「ゴロ太!」
 表情が変わる変わる……。
 ポンコツモードですわ……。
 渋い声とは真逆の愛らしい子グマの無事と、今までお預けをくらっていたからか強く抱擁しておられる。
 まずはワックさんが抱きしめたかっただろうけど、ベルは我慢できなかったようだ。

「お姉ちゃんいつもと違う格好だね」

「これもゴロ太の為だ」

「ボクのため? よく分からないけどありがとう」

「ああ! ああ!」
 凄く嬉しそうで何よりですよ。
 恐怖で声を上げているバルバダイの事なんて全く見えていないし、聞こえてもいないという空間が出来ているようだな。

 でも流石に五月蠅いので、

「ゴロ丸」

「キュウ?」

「ポイしちゃいなさい」
 言えば、俺の左肩ではバルバダイに向けて悪い笑みを作りつつ、可愛い拇指で首を掻っ切る所作からの――サムズダウン。

「キュ!」
 俺とミルモンの言動の後、短く力強い返事をしてからの――、

「「わぁお!」」
 二人で声を合わせて投げる様を見守れば――、「げべ!?」「ごへ!」「にゅん!?」などなどバリエーション豊かな素っ頓狂な声を上げてバルバダイが水面を跳ねていく。

 ――その様は人間水切り。
 
 平たい石を投げる水辺の遊びをゴロ丸は人間で実行。
 水面に何度も叩き付けられながら俺たちから強制的に離れていくバルバダイ。
 
 最終的に湖のほとりで五体投地スタイル。
 いくつもの波紋の軌跡を生み出しながら湖畔でピクピク。
 中々にタフなおっさんである。

「さてさて、人間水切りによる跳ねた回数は――」

「十二回だね」
 
「十二回か。残念だったなゴロ丸。異世界のカート・スタイナーにはなれなかったようだ」
 流石に八十回以上も水面に叩き付けられたら死んでしまうか。
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