異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1748【詰所へ】

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 ――眠気を覚ますために冷たい水で顔を洗い、身だしなみを整える。
 それが終わったのを見計らったかのようにノック音が二回、室内に響く。
 荒々しさがないからガリオンではないようだ。

 大方、

「おはようございます。ルーフェンスさん」
 廊下に立っていたのは冒険者然とした装備ではなく、本来の姿である騎鳥隊の出で立ち。

「昨晩のご活躍お見事でした。休息も必要な中、早くからの訪問お許しください」

「構いませんよ。戦闘後の後始末や洋館の調査などにも励んでくださっていたルーフェンスさんこそまともに休めていないでしょう」
 目の下の隈の濃さからみるに、俺なんかよりも大変だったようだ。
 後始末の前には激戦にも身を投じていたしな。

 ――馳せ参じた騎鳥隊と駐屯兵は皆、寝ずに励んでくれたという。
 ソドンバアム達のような私兵にも協力を求めればもっと楽だったんだろうけど、流石に製造所サイドだから難しいよな。
 俺たちに協力はしてくれたけど、カイメラの息がかかっているという可能性が完全に払拭されない以上、参加はさせられないからね。

「内相も残りの騎鳥隊と共にアサードアズへと来ております」

「想像以上の大事でしたからね」
 カイメラが製造所に潜伏していただけでなく、製造所の代表であるムアーことバルバダイがアサードアズで蜂起を画策していたんだからな。
 しかも魔王軍の手の者となって。
 凶報を耳にすればタークさんもすっ飛んでくるよね。

「今後の事を考えると忙殺に身を投じることになるでしょうから、俺の都合に合わせなくてもいいですよ」
 今すぐにでもこちらから窺います。と続けて言えば、非常に助かりますとルーフェンスさんは笑顔。
 一階のロビーでお待ちしておりますと言って去っていく。
 
 さて、じゃあ準備をしますかね。
 ――装備を身に纏いジージーと共に部屋を後にする。
 出て直ぐに、

「ルーフェンス殿が来ていたようだな」

「おう、ベル。おはよう」

「私たちも同行しようか?」

「ああ、うん……。ジージーとガリオンだけでいいかな」

「そうか」
 幸せそうで何より。
 ゴロ太を抱っこし、左肩にはミルモンを座らせている。
 愛らしいのに囲まれてご満悦である。
 それにしても――、

「どうした?」

「いや~踊り子の服をずっと着てくれてても良かったのにな」

「それは御免こうむる」
 普段の軍服に戻ってしまいましたな~。
 眼福だったのに。
 冗談口調で本気の願望を言ってみたけども、断られるだけですんだ。
 蹴りが飛んでくることも覚悟していたから、大腿四頭筋に力を入れてたんだけどな。

「じゃあ、行ってくる」
 ベルへと言えば、

「トール君」

「あ、ワックさん」

「僕も行くよ」

「シュネーは?」

「ゴロ太とベルさんにお願いしてもいいかな」

「もちろんだよ」と「無論です」が同時に返ってくる。
 昨晩は流石にベルも空気を読んだようで、就寝時はゴロ太をシュネーに預けたという。
 だからなのか、今は抱っこして離したくないという思いが全身から出ている。

「そんじゃあ俺も行く事になるか」
 面倒くさそうにドアから頭だけを廊下側に出してのガリオン。

「ワックさんの護衛を頼むよ」

「護衛するような事は起きねえだろうけどな」
 ――ロビーで待ってくれていたルーフェンスさんに誘導されて駐屯兵の詰所へと到着。
 広間へと案内されれば、

「公爵様」

「タークさん」

「ロイル領にて起こった厄災の鎮圧、感謝いたします」
 片膝をついて最大限の感謝を体で示す姿勢。
 むず痒くなるので立たせてから話を進める。

「製造所はどうなるんです?」

「当面の間は我々の監視下に置くことになります」

「それなら安心ですね」
 駐屯兵だけでなく、動員可能な兵達も投入して隅々まで調べ上げると言うことだった。
 
 製造所を調べる間、スティミュラントの製造は限定的なものとするという。
 異な事だ。
 本来なら完全なる製造中止ってことでいいのでは? とも思うんだけども。
 首を傾げる俺の所作に苦笑いを浮かべるタークさん。

「それに関してはこちらの御仁に聞いていただきたく」

「こちら――?」
 タークさんの向ける手に沿って目を向ければ、俺たちが入室したドアとは別のドア。
 俺たちの視線がドアへと向けられたところに合わせてルーフェンスさんがドアを開けば、

「これは老公」
 入室してきたのは長身痩躯で柔和な笑みを湛えた大商人。

「ご無事で何よりです」

「これも貴方方と製造所の者達。そしてアプール殿たちロイル商人のお陰です」
 異変に気づいて老公や女性陣を守る為に会場に残ってくれたからね。
 今は正気を取り戻しているそうで、兵達の監視下に置かれつつ詰所医療室のベッドに寝かされているとのこと。
 金持ち連中だからか、安いベッドと質素な食事に結構な愚痴が飛んでいるそうな。
 老公曰く、愚痴が出るのは元気な証拠。

「いやはやしかし――」

「なんです?」

「オルト殿――と、お呼びすれば宜しいのか。それとも――」

「お好きなように」

「そう言われるのが一番、困るというものですよトール様」
 典雅な一礼。

「ですがやはり私の目に狂いはなかった。自惚れたくなる審美眼ですよ」
 と、得意げにヒゲをしごいて見せる。
 初対面の時から俺の正体に気づいていたんだろうな。
 じゃないとここまで協力はしないもんね。
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