異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1749【取り仕切るね】

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 俺を見つつ――隠居の身ではあるが、せがれ達にとってよい繋がりが出来たと独白のように零す中で、

「ムートン殿。如何にロイル領にて大成した御仁とはいえ、弁えなければならないこともあります」
 と、公爵に対する態度ではないと釘を刺すタークさん。
 これに対して柔和な笑みを崩すことなく軽い会釈だけで返す老公。
 弁えてはいるってことなんだろう。
 それはいいとして、

「なぜ製造中止ではなく、一定数は生産すると考えているんです?」

「無論、金を生みますので」

「大成している商人の言い様ではないような」

「大成するには様々なことに着手しなければなりません。法に触れるか触れないかのところを攻めるのが一番、富を産みますので」
 公爵である俺だけでなく、ハダン伯に代わってロイル領を取り仕切る内務の長を前に堂々と言い切るもんだよ。
 内相に睨まれてもどこ吹く風。

「冗談はさておき」

「冗談なんですね」

「スティミュラントは今現在、大半が間違った扱われ方で使用されております」
 ベルセルクルのキノコから作られたエッセンスを元にした興奮剤。
 戦いの場で使用すれば脅威を前にしても臆することなく挑む事が出来るのは魅力的。
 恐怖に呑まれて動けなくなるという事が軽減される事で士気の維持が可能だからな。
 だが、今現在の主な使用方法は酒と一緒に口にすることで、性目的での興奮剤として使用されているというのが殆ど。
 合意の元で服用するならいいが、ブリオレみたいなのが使用すれば問題でもある。

「だからこそ禁止にすればいいと思うんですが」

「禁止にすれば別の者が別の物を生み出すだけです」
 だからこそ、現状ある代物を利用すればいい。
 スティミュラントは副作用がある事は確認されていない。
 だが、別の者が代替品を生み出せば、スティミュラント以上に過激な効能を! より興奮を! そういった謳い文句で売り出すことにもなり得る。
 スティミュラントを規制せず、それ以外の類似品が出た場合はノウハウもない粗悪な製品になる危険性もあるので取り締まる。
 他を取り締まりつつ一定の販売だけは行う。
 もちろん優先すべきは戦いに赴く者達。法に則り売り出せばよいという。
 今まであった物を急に取り締まれば、それこそ反発も大きくなる。

「うぬぅぅ……」
 なんか言っている事は正しいようだけども……。
 薬物とまではいかないが、それに近いものでもある代物を売買するのはな~。
 だが取り締まりがキツくなれば老公の言っている事にもなる。
 禁酒法でマフィアが大儲けした事例もあるしな。

「現状、問題はおきておりませんよ。そもそも中毒性がある。後遺症が残るなどの危険物ではありませんので」
 俺が沈思黙考となれば、ここぞとばかりに畳み掛けるように言ってくる。
 心なしか生き生きとしておられる。
 隠居してもそこは商魂たくましい商人ってことか。
 限定的な販売。戦いに赴く者達には優先してくれる。
 これからの戦いを考えれば奮い立たせてくれるアイテムは回復アイテム並に必要でもある。
 何たって三百万を超える大軍勢とぶつかることになるかもしれないからな。

「考えておられるということは、迷っているということ。真っ向から拒絶せず、話を聞いてくださるだけの器も有しておられる。流石は大陸において第二位のお力を持っておられる御方」

「おべっかですか」

「いえ、事実を」
 食えない爺さんだ。年齢にて刻まれたシワが笑顔で更に深くなっている。
 俺と対面してからはずっと笑顔を崩さない。
 こういうのは先生との話も重要になるけども、それは大陸にスティミュラントを展開した場合。
 ロイル領内だけに流通させるなら、それは領地の統治者が解決する案件。
 内政干渉なんて嫌われるだけだしな。
 でも、やり取りからして間違いなく大陸全土に展開したいのは伝わってくる。
 戦闘時の補助アイテムとしては魅力的でもある。
 この辺りは先生に任せておけば折衷案を出してくれるだろうか?
 というか、なんでクルーグ商会でもない老公が得意げに語ってるんだ?

「公爵様、富を生み出すことは今後の事も考えれば必要でしょう」

「財を築くにしてもこの大陸が無事じゃないなら意味はないですよ」

「無論。我々ロイル領の商人達は見返りを求めることなく、決戦に向けて王都で準備を行っている皆様に惜しみない協力を約束します。惜しめば我々も全てを失ってしまいますので」

「採算度外視でお願いしたいですね」

「今のお言葉、見返りとして製造許可を確約してくれたと判断しても宜しいですかな?」

「自分の一存では決められないことなので、口添え程度と受け取ってもらえれば。何よりまずはロイル領の統治者に話を通すべきでしょう」

「それはそうですね」
 ヒゲをしごきつつ口角を上げる老公は、

「戦いとなれば真っ先に矢面に立つようですが、内政となれば慎重なようで」
 と、継ぐ。

「対処が難しい案件と判断すれば、対処可能な人物に任せるスタイルなので」

「人の使い方が上手いのは良いことですよ。口添えを頂けたことに感謝いたします」
 深々と頭を下げてくる。
 それに対して、俺も深々と頭を下げる。

「今後の事は有能な人物達に任せるとして、これまでの協力には改めて感謝します」

「お気になさらず。私としては公爵様と懇意な関係性を築けましたので」
 懇意ね。老公は俺と強い結びつきが出来たと考えているようだ。
 こうなることまで見越していたのなら、先生も感嘆する切れ者だな。

「スティミュラントを製造するとしても、母体であるクルーグ商会はどうなるんでしょうか?」
 ここでタークさんへと言葉を向ければ、

「当然ながらアサードアズだけでなく、商会全体を調べなければなりません」
 これだけの事をやらかしているわけだしな。
 今回の事がバルバダイ達カイメラだけによる企てだったとしても、上の連中は戦々恐々で対応しないとならないだろう。
 なんたって目の前の老公だけでなく、アプールのおっさんやこの領内で財を成している面々を死に追いやる可能性があったからな。
 それが商会の製造所で起こったとなれば、ロイル領全体から敵対される。
 というか、既にそうなっているだろう。
 商会からすれば、それは全力で回避、収拾したいよな。
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