異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1763【米をたらふくいただこう】

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「シュネーはしばらくはそのままでもいいみたいだけど、支障とか出そうなら無理せず言ってよね」

「このような姿ですが、幸せな時間を過ごせそうです。改めての配慮に感謝いたします」
 うむ。流石はゴロ太のお母さん。とても礼儀正しいし、現状に悲観しないというのは手本とすべきところである。
 
 リンもそうだし、ルインの面々もそう。やはり上位のアンデッドは感情をしっかりと持っているようだな。
 感情は持っているのに精神耐性も有しているとかちょっと反則じゃないですかね。
 ベルいう存在は除くけど。

「本日はごゆるりとお過ごしください」
 トールハンマーのことは問題ないからと、王城でも言ったように、二、三日は休みを貰えるようだな。
 
 ――……うん……。まあ俺は違いますけどね……。
 剣戟の中で過ごさないだけでも今の俺には休みって事なんだろうけど……。

「中々に多いですね」
 私室兼執務室に入れば、これ見よがしに机の上に堆く積まれた紙や羊皮紙……。
 おかしいな……。こういったのって全部、先生が俺の代わりにやってくれるっていう話じゃなかったかな……。
 俺の視線を感じ取ってくれたようで、

「私も現状下で全てを一人でこなすのは中々に……」

「ですよね」
 南伐に備えての兵力を各地より集める。
 混成軍となることで齟齬が生じる事を防ぐ為の兵力の練度向上。
 その為に必要な資金と食糧。
 戦いに必須となる兵糧の調達と運搬。
 戦いとなった時には自身も軍略を講じ、将兵を指揮する立場にもならないといけないので、前に立つための準備もしないといけないとのこと。
 先生もいよいよ前に出るのか。
 
 策謀、軍の指揮、兵糧の運搬か――。

「凄いっすね。漢の三傑の役割を一人でやっているみたいじゃないですか」

「張良、韓信、蕭何と比べられれば、あまりにも頼りない脳漿と胆力ですよ」

「いやいや、我が子房とまで曹操に言われている時点で十分に比肩するだけの実力を先生は持っていますよ」
 我が子房――天才軍略家である三傑の張良に例えられるんだからね。
 尚且つこの世界では三傑の役割を一人でこなしてくれている。

「偉大なる才人にはお世話になりっぱなしです」
 改めて長身イケメンの先生に向かって深々と頭を下げる。

「本当に主は人垂らしですね」
 と、普段あまり見せる事のない照れた表情を見せてくれる。
 これはどんな女性も狂わせるレアリティの高い表情ですわ。

「多忙ではありますが、ミルディ殿の存在には大いに助かっております」

「おお!」
 ここでジージーが喜びの声。
 共に翼幻王ジズの元からこちらへと参画したってこともあるから、頼られていることが嬉しいようだ。
 そのミルディは自由に飛行できる体を活かして、王都とトールハンマーを行き来してくれているとのこと。
 現在、王都にいる混成軍の一部の調練を終え、要塞へと派兵する旨を伝えに出ているそうだ。
 
 兵に必要な物資の搬入場所と、後詰めの為の拠点作りを要塞手前に築くなどの指示も担当してくれているとのこと。

「有能で大助かりです。後々、公達も合流してくれるので更に楽が出来ますよ。それまでは大いに励みましょう!」
 力強い先生の発言。
 俺も頑張ろう!
 
 ――多忙と言いつつも、俺の作業は押印作業だけに留めてくれているのが有り難いです。
 
 ――解散後、執務室でミルモンと過ごす。
 俺が小休憩をしている時には、自分の体の半分ほどの印章をペタンペタンしてくれる。本人は紙に押印することが楽しいようだ。

「兄ちゃん」

「どうした?」
 ペタンペタンしながら話しかけてくる。

「あの不愉快なおっさんはどうなんのかな?」

「沙汰を待っているってところだな」
 どうやっても酷刑、死罪は間違いないと思う。
 リジェネポーションの知識は欲しいけど、あいつは喋らないだろうな。
 洋館捜索の兵から貰った木箱の中に入っていたから問題はないんだけどね。
 ゲッコーさんが蔵元をやっている酒蔵の面々なら成分分析も可能だろうからな。
 だが確実に知識を得たいというのもあるからそうなると――、

「拷問か――」

「最高だね♪」

「お、そうか……」
 流石は小悪魔ミルモン。
 こういったところは俺とは違った考え方になるな。
 とんでもない悪い奴が苦しむ。最高の負の感情を浴びることが出来るかもしれないと嬉々として喜んでいる。
 笑顔は凄く可愛いのに、考えている事は引いてしまう内容ですわ……。
 
 静かな執務室にはペタンペタンと押印の音だけが響く……。
 
 ――。

「いい天気になりそうだ」
 自室からバルコニーへと移動し、王都での久しぶりの朝をむかえる。
 天空要塞から帰ってきたかと思えば、ロイル領へと即移動だったからな。
 慌ただしい状況からわずかではあるが解放されるのは本当に有り難い。
 直ぐに南へと移動しないといけないけども、わずかであってもこのゆったりと出来る時間を満喫させてもらおう。
 
 視線を防御壁へと向ければ、いつものように防御壁を修復している白装束で全身を覆い隠したスケルトン達は――いない。
 休むことなく励んでくれているリンが使役するアンデッド達によって、王都の防御壁の修復と強化は十全となったようだな。
 住民達と一緒になって田畑を耕すことにだけ注力してくれているのかな?

 もしくは――、

「スケルトン達は要塞側にも移動しているんですかね?」
 着替えてから朝食を取りつつ先生に質問。
 首肯と一緒に肯定。
 王都でも一部が農業に従事しているそうだが、殆どが要塞側へと移動し補強作業。
 補強作業よりも最優先させているのは、リオス町一帯を大穀倉地帯とするための開発と、湿地帯を利用した水田での作物生産。
 瘴気から解放されて一年が経ち、水田部分にて米作りなどが進んでいるという嬉しい報告。

「米が腹一杯食べられるわけですね」
 ライ麦パンを喰らいながら言えば、

「ご満足いただける作物が収穫できているので楽しみにしておいてください」

「ウッス!」
 俺が思うような粘りあるジャポニカ米とは違うんだろうが、米は米! 兵糧としても使用しなければならないが、これまでのご褒美としてたらふく食べさせてもらおう。
 
 要塞の近くで作物栽培か。要塞で兵糧が枯渇しても直ぐに補充できる位置だな。
 そして南伐時はリオス一帯がこちら側の生命線になる。
 王都ではなく南方のリオスが兵糧輸送の中心地となるわけだ。 
 南への出兵の準備が整ってきているというのを実感する。
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