異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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驕った創造主

PHASE-1762【溢れ出る】

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 ――王様達と挨拶を交わしギルドハウスへと戻れば、ギムロンや私兵であるラルゴ達が出迎えてくれる。
 兵だけでなくギルドメンバーもトールハンマーへと移動しているからか、一階の食事処は寂しい風景。

 ――って、

「なんでリンがいるんだ?」

「いちゃ悪いのかしら」

「トールハンマーにいるって話だったからさ」

「一戦交えたから私は後方でゆっくりしたいのよ」
 このわがままが通用するのも、ベルがその場にいなかったからなんだろうな。
 
 だがそれも今回まで。

「あまり皆に迷惑はかけないように。戦力として必須なのだからな」

「分かってるわよ」
 この世界で唯一、頭が上がらないであろうベルの忠告に唇を尖らせつつ返してくる。

「子グマも無事みたいで良かったわよ」
 本気でそう思っているのか、いつもの上から発言とは違って安堵したもの。
 自身の同胞であるスケルトンルインが護衛として失態をおかしてしまったからなんだろうな。

「でも丁度よかった。リンに相談がある」

「何かしら?」

「シュネーのことなんだけどさ――」
 ベルに抱っこされたゴロ太。その後ろではワックさんに抱きかかえられているシュネーの頭部。

「あらあら」
 さしものギムロンであっても、ワックさんの抱える熊の頭部には眉を顰める。
 だがアンデッドでも最上位であるアルトラリッチともなれば何も驚くことはない。

「頭だけみたいね」

「そうなのです」

「人語も話せると」

「はい、ゴロ太の母のシュネーです」

「ご丁寧にどうも。それでどうしたいのしら? 勇者のトール君」

「シュネーに新しい体を与える事は可能かね? 死霊魔術師ネクロマンサーのリン君」

「不可能ではないわね」

「そいつは朗報だな」
 素体さえ有ればなんとかなるそうだ。
 特にシュネーは強い魔力を持っているので、接合時に発生する魔力負荷にも堪えることが可能とのこと。なので生物の体なら種類関係なく適応できるということだった。
 バルバダイの事を強く否定してきた中でのこの説明内容となると、俺たちも大概、非人道ではある。

「もちろん、生物の亡骸でも問題ないわよ」

「そうなんだな」
 都合良く生物の亡骸――しかもシュネーの頭部サイズに合うような体型を探すのは難しいな。
 腐敗が進んでいるのも嫌だし。
 こういったデメリットをスキップする為に、カイメラの連中は生者を利用してたって側面もあるんだろうな。

 俺たちはカイメラの連中とは違う。
 シュネーには申し訳ないけど、

「当分はこのままかな」

「全くもって構いませんよ」
 と、当人も言ってくれるので気長に待つしかないか。

「それにしても――」
 なんだ?

「どうしたよ? ゴロ太になんかあるのか?」

「王都にいた時よりも力が強くなっているわね」

「力? 膂力じゃないよな。この場合はマナか?」

「ええ」

「バルバダイが良からぬ実験をしていたとかってわけじゃないよな」
 憶測を口に出せば、

「おう……」
 ベルの表情が一気に殺気立つ。

「問題ないわよ」

「だってよベル」
 直ぐにリンが訂正。
 
 ――ゴロ太自身の力が大きくなっているということだった。
 原因を知りたいからと、捕まっていた時のゴロ太の経緯を聞いてくる。
 なので知っていることを可能な限り説明した。
 シュネーがバルバダイに操られ、そのシュネーがゴロ太を操る。
 操られたゴロ太の力によって、他の生物を支配下に置いていたことを伝えれば、

「なるほど。今までは無意識に使っていたお願いというていでの能力だったけど、操られていたとはいえ自分の言動で他の生物を操った。それが切っ掛けとなって能力がお願いから支配へと完全に変化したことで力が覚醒した。と、見ていいわね」
 今まではただの水たまりでしかなかったが、切っ掛けを与えられたことで水たまりが湧き水へと変化し、水が外へと溢れ出すようになった。
 と、比喩的な表現で説明してくれるリン。

 とどのつまり――、

「ゴロ太の力がドンドンと大きくなって体から溢れ出ているってことか」

「そういうこと。力の制御も覚えないと暴走はないにしても溢れるマナが体に大きな負担をかけることになるかもね」
 この発言にベルの顔が一瞬にして青ざめれば、

「どうにかするんだ。リンは歴史上の大英雄であり、偉大なる魔術師なのだろう」

「近い近い近い……」
 鋭い睨みにリンは冷や汗。
 精神耐性があるアンデッドの中でも最上位の存在だが、ベルだけは別。

「力の制御は当人次第。修練に励むしかないわよ」

「ならば私が修練に付き合おう!」
 うん……。間違いなく修練にはならないな。
 常に抱っこして可愛がるだけで修練の進捗が遅れそうな気がする。
 いや、流石にそれはないか。ゴロ太が大きな負担に襲われることになると分かっているから真剣に取り組むだろう。

 けども、

「今後の戦いのために王都で待機というわけにはいかないんだよ。ベルがリンに言っていたけど、ベルも戦力として必須だからな」

「くぅ……」

「大丈夫だよお姉ちゃん! ボクは一人でも頑張れるから!」

「そんな……」
 拒絶された――と受け取ったようでベルは落ち込む。

「安心してください。私がしっかりと制御できるように尽力しますので」

「お母さんがいるから大丈夫だよ」

「そ、そうか。シュネーに任せておけば確かに大丈夫だな……」
 母親という存在には勝てないと更にヘコむ。
 安全圏で母親と一緒に過ごすのがゴロ太にとっても幸せだからな。
 ヘコんでいるベルには悪いけど、そこは我慢してもらわないとね。
 前線ではミルモンにベルのポンコツモード部分の相手を担当してもらおう。
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