異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1788【俺の心をよく読んでくれる】

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 兄弟がバチバチと火花をぶつけ合っているところに、

『ウッドストック。今ならこの地のトップ二人を同時にやれます。オーバー』
 と、冷徹さのある声。

「駄目だハリエット。予定が狂う。そいつらをやったところで意味はない。大本が健在となれば三百万を掻き乱せなくなる。オーバー」
 即、却下される。
 食い下がることなく指示を受け入れるハリエットは再び息を潜める。
 こちらのやり取りの最中であっても当然、相手側のやり取りも進んで行く。
 歯を軋らるほどなのだからラダイゴロスは不快感を隠すことなく表情に出していたようだ。
 対してガガドムサはそれに動じることなく嘲り笑いが混じった声音で、

『攻める時には自分が陣頭指揮をとります』
 そう発してから立ち去った。

『不愉快な弟だ』
 ポツリと通信機越しに聞こえてくる。
 関係性が最悪なのはこちらの付け入るところにもなりそうだな。

『若君よりも上に立ちたいと必死なようで』

『苦労をかけるな。メッサーラ』

『さて、なんのことか』

『身勝手な単独行動と、身勝手な一騎討ち。そして手傷を負っての敗北。俺の逃散の失態を誤魔化すかのような立ち回りではないか。愚弟の声もお前の失態に対して最も強くなっていたしな。気を遣わせてしまった』

『若君にはお見通しのようで』

『道化を演じさせてしまった』
 ふむん。

「なるほどね。泥を被るために単独で要塞まで来たってことか。撤収が潔すぎたのは、手傷を負って敗北の理由が出来たから戦闘はもういいって事だったんだな」

「忠義の武人である」
 高順氏もこれにはご満悦。
 敵であれ清廉潔白という四文字が似合う存在には敬慕の念を抱かずにはいられないようだ。
 いいように利用された俺とコクリコはおもしろくないけどな。
 
『ガガドムサ様にはどう対応するので?』

『手柄が欲しくてたまらないようだが、それはこちらも同じこと。競い合いになるだろう』
 そうなればまとまりのない軍勢となり、勝てなかった相手に対して次は今回以上の痛手を負うことになる。と、メッサーラが苦言。
 ラダイゴロスもそこは分かっているからか、混成軍として動けるようになるだけの連携――または攻め入る場所を分担し、互いが互いの足枷にならないようにしなければならないと続けた。
 これにメッサーラは賛同。
 嫌ではあるが軍編制の為には弟とはまた話さないといけない言い、再編成からの再攻撃には十日前後はかかるだろうと述べれば、ここでも賛同するメッサーラ。
 
 寡兵である要塞側――つまりは俺たちの方に時間を与えるのはよくないが、信が置けないガガドムサと行動するとなれば、警戒のためにも時間を要することになる。
 共に行動など不本意だが、父親である蹂躙王ベヘモトの命令は聞き入れないとならない。
 ガガドムサを増長させるわけにはいかないから絶対に自分たちが手柄を取る! 
 ――通信機から聞こえてくるラダイゴロスの力強い声を最後に連絡を終えた。
 
 ――十日前後か。

「この事を王都へと報告してほしいね。ミルディさんがいればいいけど」

「任せておけ」
 あ、そうか。通信機があるってことは王都にもあるんだな。
 じゃあミルディさんの仕事って……。

「通信だけじゃなく直接、目で確認ってのは大事なんだぞ。現場の人間達が怠惰に耽っていないかというのは、通信だけのやり取りじゃ分からないからな」
 見事に俺の心を読んできますねゲッコーさん。
 いいね。俺の心底を読んでくれる面子って感じがメインパーティーってところを感じさせてくれますね。
 
 ――ゲッコーさんが王都への報告を終えれば、

「荀彧殿は委細承知だそうだ。とても声が悪そうだった」

「一計を案じるってことでしょうね」

「そういう事だ。相手が十日前後で整えてくるとなれば、それ以上の速さでこちらは対応しなければならないだろう」

「この地の面子は、兵やギルドメンバーに野良冒険者だけでなく、要塞補強に携わってくれている非戦闘員の方々も士気が高いですからね。迅速に動けることでしょう」

「ああ。語末に至っては高すぎて戦闘に参加しようとする者もいるくらいだからな」

「そこは勘弁ですね」
 戦闘経験が無い方々に参加されても足並みが乱れるだけだからな。
 お気持ちだけを受け取ってしっかりと後方でのみ励んでいただきたい。

「十日前後。ならばこちらは七日ほどで整えないとな。その間に諸々を実行しなければならない」
 高順氏のこの発言にロンゲルさんが快活良く返事をすれば駆け出す。
 自身の配下である統一性のない方言を話す面々だけでなく、要塞全体にこれからのことへの備えを伝達。
 現状だとこの地における戦闘要員だけで打って出るというのは難しい――のか?

「要塞における戦闘要員って現在はどれほど?」

「後方も入れれば二万ほどになる」

「おお!」
 二万はでかいな。
 現在、要塞に駐留する戦闘要員は一万五千。
 これに心の友、ダンブル子爵のところに五千。
 合わせて二万。
 休息を与える為に五千ずつをローテーションで回しているといことだった。
 これに王都と他の貴族や諸将が動いてくれればもっと多くなるが現状では――、

「打って出るには頼りない数」
 十万に加えてガガドムサの軍も合流すると考えておかないといけないから間違いなく増える。
 野戦って訳にはいかないよな。

「今回、休息を取る者達は残念である」

「その程度で不平不満を漏らすようなのはいやしないさ」

「兵達に恵まれていることはいい事だ」

「全くだな」
 と、高順氏と高順氏命名の白煙殿という渋くて格好いいおっさんコンビが語り合う。
 いつの間にか手に酒を持つゲッコーさん。
 勧められるも丁重に断ってお茶を口にする高順氏。
 どちらの所作も格好いいけども、

「ゲッコー殿、最前線ですのでほどほどに。指揮官殿を見習うべきかと」

「あ、はい」
 風紀と言えばベル。
 そんなベルにガッツリと注意を受けるゲッコーさん。
 最近は指摘をする人間がいなかったからグビグビといってたんだろうが、スッパスッパ同様、今回で終わりだ。
 場が締まることはいい事だ。

「場が引き締まるね」
 ここでシャルナが俺の思っていることを口にする。
 本当、メインパーティーって感じだよ。俺の心をすぐに代弁してくれる面子が多いこと多いこと。
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