異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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視線は南へ

PHASE-1787【兄弟関係】

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 ――激闘を振り返りそうになったところで、

「この地における向こうさんの代表が出てきたようだ」
 ゲッコーさんのこの発言に軍議室はシンッと静まる。
 この地におけるとなれば――ラダイゴロスか。
 ハリエットからの報告では、メッサーラの負傷を聞いて文字通り飛んでやって来たという。
 人間と違って感情が表情からは読み取りにくいそうだが、間違いなく慌てふためいていたそうで、メッサーラが深手であっても命に別状はなく、治療を済ませれば問題なく行動できるということを知れば安堵したそうだ。
 目付役で指南役のメッサーラに対してラダイゴロスは心底、信頼を寄せているというのが分かるというもの。

 先生は褒めることもあれば愚かとも言うので、俺では総領息子を見極める事は出来ないが、現状だと姿を見たことはなくても俺の中では好印象である。
 この面子はデミタスの言う蹂躙王ベヘモトの軍勢とは違った連中だというのが分かるというもの。
 
 現在はメッサーラに命の危機はないと分かり、周囲の兵達も安心したのか、ひりつくような緊張感は薄れ、笑い声が生まれるというくらいには緩んでいるという。
 緩みはメッサーラの発言によって直ぐに締められたとのこと。
 直ぐに指示に従えるところから精兵だというのが分かる。
 末端はまだ収拾がついていないようだが、中枢の兵達は優秀なようだ。
 よくもそんな連中を押し返せたもんだよ。
 流石は高順氏とゲッコーさん達だな。

『進展があります。オーバー』
 ハリエットの声には緊張感があった。
 一帯が騒然となっているそうだ。
 通信機からはわずかな騒がしさが聞こえてくる程度。いい単一指向性のモノを使用しているようだな。
 この騒ぎに乗じて接近を試みるとのこと。
 ゲッコーさんと目を合わせれば問題ないという余裕ある視線を向けてくれる。
 S級さんに抜かりはないだろうからな。お願いしますと首肯で返す。

「接近を許可する」
 と、ゲッコーさん。
 光学迷彩と気配を消し去る歩法と潜伏術。
 こうれらをフルに活用しての接近。
 対象となる者達の十メートル地点まで近づいてから様子見とのこと。
 マイクを相手側に向けるとこちらに報告したところで、

『兄上。あまりにも不甲斐ないですね』
 と、ご立腹な声が通信機からこちらに届く。

『何が言いたい――ガガドムサ』
 ガガドムサ? 視線をジージーへと向ければ、

「現在、継承権四位の十四男殿です」
 なるほど。
 ここで十四男のご登場か。

『いま言ったでしょう。あまりにも不甲斐ない――と』

『返す言葉もないな』
 前者は傲慢と自信に溢れ、後者は冷静な声音で対応ってところか。

『返せないとは情けない。そんなことだから十万も率いていたのに、寡兵が守る要塞を占領することも出来ずに追い払われてしまうのですよ』
 嘲笑を込めた発言。周囲も押し黙るのは、自分たちが実際に逃散してしまったことによる不甲斐なさがあるからか。
 
 そんな中で、

『発言、宜しいでしょうか』

『かまわないよ』
 某の声に十四男が応じる。
 内容は――今回の戦いにメッサーラ様が同行しなかったことが大きかった――というもの。
 ――ガガドムサ様に今後の戦いについて話し合いがあるからという事から急遽、不参加となってしまったことが敗走の原因――だったみたいだ。
 なるほどね。だからメッサーラは要塞攻略に不参加だったわけだ。
 来訪時の問答で、歯を軋らせながら戦場外から眺めていた。とか、随伴したかった。と、怒気を口から吐き出そうとしたところで怒気それを飲み込んだ理由が分かったよ。

「要塞を突破してしまえば総領息子の手柄となるからな。大方、少しでもそれを妨害したいから、白銀の竜人に理由をつけて下がらせたのだろう」
 高順氏の推測には皆して頷く。
 三百万を有していても一枚岩じゃないからこんな事になる。
 十四男ことガガドムサからすれば、メッサーラを欠くだけで攻略の失敗に繋がると画策したんだろう。
 で、はたして正にその通りとなったわけだ。

『情けない弁解だな。メッサーラ一人を欠いただけで不甲斐ない戦いになるのは、そもそもお前達が脆弱だからだろう』

『し、しかし……』

『しかしも何もあるか!』
 静々としたところから急転しての怒号。
 次にはバシリッ! といった強烈な音が通信機から響く。

『自分の配下である。お前に打擲の権限はない』

『ふんっ! ならば規律を正すためにも躾けはしておくべきですね』

『案は受け入れよう』
 どうやらラダイゴロスが自身の部下を守ったようだな。
 出来た指揮官だ。

『まったく! なによりもメッサーラ!』

『ハッ!』

『単独行動という身勝手な振る舞い。そして戦いを挑んだあげくにその深手。貴様は我らが父の顔に泥を塗ったのだぞ!』

『面目次第もございません』
 ガガドムサに低頭平身にて失態を詫びているとのこと。
 生意気な十四男には――誠にごめんなさい――で十分なのに。

『兄上による前線指揮の大失態。部下もこのガガドムサに対して非礼ある発言。そして側仕えであり四天王最強のメッサーラもこの体たらく。どうです兄上。ここは自分と立場を代わってみては?』

『断る』

『ハッ! どうしてそんなことが言えるのか。本来ならば責任を取って後ろに下がるべきでしょう。身内贔屓になりますが、兄弟だからそれで済むのですよ。本来なら死罪もありえるのですからね』
 静寂の訪れ。
 通信機の向こう側では、バチバチと互いの目から電撃を迸らせているってところだろうか。

『――まあいいでしょう。後ろに下がらなくてもいいですが、我々も戦線に立たせてもらいます』

『ガガドムサ!』

『声を荒げても無駄です。これは兄上の為でもありますよ。失態を弟である自分が拭ってやると言っているのです』

『不要だ!』

『兄上が不要と言おうが聞き入れませんよ。これは父上からのご命令でもあります。兄弟で上手く連携を取ってみろということですよ。これ、その指示書です』

『ぬぅ……』
 目を通しているとのことで総領息子は押し黙る。

『兄上、受け入れてもらいますよ。それとも体躯同様、器量も小さいのですか?』

『貴様っ!』

『自分は兄上の倍はありますからね。そして――このまばゆいばかりの黄金の鱗。父の血を色濃く引き継いでいるという何よりの証』
 言われればギリリ――といった軋り音。
 兄弟の関係性は宜しくないようだな。
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