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視線は南へ
PHASE-1786【将器も有る】
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――さてさて、
「随分と静かになったな」
要塞正門の前に立ちつつ言えば、
「勇者であり公爵が五月蠅いと怒気を飛ばせば、誰もが押し黙るのは当然だろう」
と、開門と同時にそう言ってくるのは高順氏。
これまでの戦歴を目にし耳にすれば、怒らせてはいけない人物ってことらしい。
勇者と名乗れば疑われるほどの俺だってのに、威厳が出てきたと考えてもいいのかな。
勇者の証である六花のマントは現在ガリオンに貸しているから余計に勇者としての威厳はないのにね。
「公爵様の戦いに水を差してしまい、誠に申し訳ございません……」
顔面蒼白でロンゲルさんがジャパニーズ土下座スタイル。
泥濘に顔をつけるのはやめていただきたい。
「もういいですから。それとコクリコ。これがちゃんとした謝罪だから。誠にごめんなさい――じゃないから」
「はいはい。疲れたのでそんなことはどうでもいいです。さっさと入りましょう」
最前線の要衝の地で最も重要な門を頭を下げることでいつまでも開き続けるのは、要塞防衛にとって問題だと至極真っ当な事を言ってくる。
真っ当な中に謝罪を止めさせようとする思いも含まれていた。
こういうところで姐御肌を出してくるんだよなコイツ。
もう問題にしていないと分かれば、ロンゲルさんは泥にまみれた顔を起こして安堵の表情。
――軍議室へと戻れば、
「どうだった?」
お茶が注がれたカップを俺とコクリコの前に出してくれるベル。
「ありがとう」
一口口に含んで――ゆっくりと嚥下。
砂糖入りの紅茶。甘さが疲れを癒やしてくれるし、鼻孔には優しく豊かな風味。
ベルが入れてくれたといこともあって疲れが一気に吹き飛ぶってもんだ。
余韻を楽しみつつ、
「どうもこうも強すぎだ。あれで加減してんだからたまったもんじゃない。俺がまだまだだと痛感させられる。逆立ちしても勝てねえよ。分かったことがあるとするなら、攻撃と防御には秀でているけど、回復にはポーション使っていたから回復系は習得していないようだったな。だとしてもぶっ飛んだ強さだった」
「自らの力量を素直に言えることは良いことだ。だがそんな相手に対して深手を負わせたのだからトールの刃は十分に届く」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、全力じゃないヤツに深手を負わせてもね。誇ることはできないね」
「良い心がけだ」
と、ここでも柔和な笑みと共に褒めてくれる。
嬉しい限りです。
「なんか妙に仲がいいですね」
一気にお茶を飲み干すコクリコは不機嫌。
「そうだね」
と、これにシャルナも同様の感情で続く。
「どうした。まずは再会を喜ぼうぜ」
「再会ってほど長い間、離れてたわけじゃないでしょ。でもそんな短い期間でえらく近しい関係になってるような気がする」
やはりご立腹のシャルナ。
なんかえらく喉が渇くじゃないの……。
「とりあえず話題を変えようよ。お茶も飲んだことだし、まずは今後の事を優先しないとね」
場をまとめてくれるのはベルの左肩に座るミルモン。
「そうだな。急な来訪だったが、今度はあのメッサーラと名乗ったドラゴニュートも参加した軍勢が押し寄せてくることも考えられる」
と、ゲッコーさん。
前回は参加してなかったようだけども、
「あいつは個の武だけでなく全体を指揮するのも有能と見ていいでしょうね。豪快でありつつ規律も重んじているようでしたから。で、あの性格。あいつを慕う兵は多いでしょう。なのであいつが指揮する兵は強くなる」
「勇者の言は正しい」
指揮する騎兵の強さを理解している高順氏が鷹揚に頷く。
「今回あいつは軍律を違反しての単独行動。間違いなく罰を受けるんでしょうが、その罰に対してどれだけの兵が減刑の嘆願をするかで将器ってのも分かるかもしれなせんね」
「その辺はハリエットからの報告を待てばいい」
「と、ウッドストックが言っています」
「ちなみに大本営扱いであるトールはスパーキーだから」
メッサーラ来訪の報告の時もそうだったけど、勝手につけられたコールサインはなんのこっちゃ――である。
言ってくる当人がノリノリだがらまあいいですけども。
――今まで以上に南からの侵攻には警戒しないとな。
汚名返上のために決死の覚悟で攻めてくることだろうからな。
相手側に比べればこっちは寡兵。
いくら練度が高く強いとはいっても体力は無限じゃない。
押し寄せてくる大軍勢の攻撃を防ぎきるのだって限界はあるからな。
南伐の為の軍勢が集結すればそこからは相手の準備が整う前に一気に動かないといけないだろうが、それは先生や荀攸さんの頭の中で既に考えられていることだろうから、こちらが動くには結局は集結待ち。
集結後も難しい戦いの連続だ。
メッサーラクラスと思われる残りの四天王。
その四天王を含めた百からなる近衛。
近衛に入れなかったドラゴニュートだっている。
種族として上位の存在。並のドラゴニュートであっても状況を覆せるだけの力を持っていることだろう。
「お?」
ここでトゥルル――トゥルル――と、軍議室に響く通信機からの音。
ゲッコーさんが対応。
もちろん相手は潜入してくれているコールサイン・ハリエットの一人から。
内容はメッサーラが帰還したというもの。
腕に深手を負っていることから周囲の者達が大騒ぎであり、回復魔法を行う者達に直ぐに囲まれたそうだ。
ここから分かるのは、メッサーラの将器が本物だということだな。
声による報告だけど、心配した表情で集まってくるという光景は容易に想像できる。
堂々とした立ち居振る舞いとそれに裏打ちされた強さに崇敬の念を抱いている者は多いようだ。
俺も思ってしまったし。
エルウルドの森で対峙したグレーターデーモン・ヤヤラッタを思い出す格好いい武人だ。
「随分と静かになったな」
要塞正門の前に立ちつつ言えば、
「勇者であり公爵が五月蠅いと怒気を飛ばせば、誰もが押し黙るのは当然だろう」
と、開門と同時にそう言ってくるのは高順氏。
これまでの戦歴を目にし耳にすれば、怒らせてはいけない人物ってことらしい。
勇者と名乗れば疑われるほどの俺だってのに、威厳が出てきたと考えてもいいのかな。
勇者の証である六花のマントは現在ガリオンに貸しているから余計に勇者としての威厳はないのにね。
「公爵様の戦いに水を差してしまい、誠に申し訳ございません……」
顔面蒼白でロンゲルさんがジャパニーズ土下座スタイル。
泥濘に顔をつけるのはやめていただきたい。
「もういいですから。それとコクリコ。これがちゃんとした謝罪だから。誠にごめんなさい――じゃないから」
「はいはい。疲れたのでそんなことはどうでもいいです。さっさと入りましょう」
最前線の要衝の地で最も重要な門を頭を下げることでいつまでも開き続けるのは、要塞防衛にとって問題だと至極真っ当な事を言ってくる。
真っ当な中に謝罪を止めさせようとする思いも含まれていた。
こういうところで姐御肌を出してくるんだよなコイツ。
もう問題にしていないと分かれば、ロンゲルさんは泥にまみれた顔を起こして安堵の表情。
――軍議室へと戻れば、
「どうだった?」
お茶が注がれたカップを俺とコクリコの前に出してくれるベル。
「ありがとう」
一口口に含んで――ゆっくりと嚥下。
砂糖入りの紅茶。甘さが疲れを癒やしてくれるし、鼻孔には優しく豊かな風味。
ベルが入れてくれたといこともあって疲れが一気に吹き飛ぶってもんだ。
余韻を楽しみつつ、
「どうもこうも強すぎだ。あれで加減してんだからたまったもんじゃない。俺がまだまだだと痛感させられる。逆立ちしても勝てねえよ。分かったことがあるとするなら、攻撃と防御には秀でているけど、回復にはポーション使っていたから回復系は習得していないようだったな。だとしてもぶっ飛んだ強さだった」
「自らの力量を素直に言えることは良いことだ。だがそんな相手に対して深手を負わせたのだからトールの刃は十分に届く」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、全力じゃないヤツに深手を負わせてもね。誇ることはできないね」
「良い心がけだ」
と、ここでも柔和な笑みと共に褒めてくれる。
嬉しい限りです。
「なんか妙に仲がいいですね」
一気にお茶を飲み干すコクリコは不機嫌。
「そうだね」
と、これにシャルナも同様の感情で続く。
「どうした。まずは再会を喜ぼうぜ」
「再会ってほど長い間、離れてたわけじゃないでしょ。でもそんな短い期間でえらく近しい関係になってるような気がする」
やはりご立腹のシャルナ。
なんかえらく喉が渇くじゃないの……。
「とりあえず話題を変えようよ。お茶も飲んだことだし、まずは今後の事を優先しないとね」
場をまとめてくれるのはベルの左肩に座るミルモン。
「そうだな。急な来訪だったが、今度はあのメッサーラと名乗ったドラゴニュートも参加した軍勢が押し寄せてくることも考えられる」
と、ゲッコーさん。
前回は参加してなかったようだけども、
「あいつは個の武だけでなく全体を指揮するのも有能と見ていいでしょうね。豪快でありつつ規律も重んじているようでしたから。で、あの性格。あいつを慕う兵は多いでしょう。なのであいつが指揮する兵は強くなる」
「勇者の言は正しい」
指揮する騎兵の強さを理解している高順氏が鷹揚に頷く。
「今回あいつは軍律を違反しての単独行動。間違いなく罰を受けるんでしょうが、その罰に対してどれだけの兵が減刑の嘆願をするかで将器ってのも分かるかもしれなせんね」
「その辺はハリエットからの報告を待てばいい」
「と、ウッドストックが言っています」
「ちなみに大本営扱いであるトールはスパーキーだから」
メッサーラ来訪の報告の時もそうだったけど、勝手につけられたコールサインはなんのこっちゃ――である。
言ってくる当人がノリノリだがらまあいいですけども。
――今まで以上に南からの侵攻には警戒しないとな。
汚名返上のために決死の覚悟で攻めてくることだろうからな。
相手側に比べればこっちは寡兵。
いくら練度が高く強いとはいっても体力は無限じゃない。
押し寄せてくる大軍勢の攻撃を防ぎきるのだって限界はあるからな。
南伐の為の軍勢が集結すればそこからは相手の準備が整う前に一気に動かないといけないだろうが、それは先生や荀攸さんの頭の中で既に考えられていることだろうから、こちらが動くには結局は集結待ち。
集結後も難しい戦いの連続だ。
メッサーラクラスと思われる残りの四天王。
その四天王を含めた百からなる近衛。
近衛に入れなかったドラゴニュートだっている。
種族として上位の存在。並のドラゴニュートであっても状況を覆せるだけの力を持っていることだろう。
「お?」
ここでトゥルル――トゥルル――と、軍議室に響く通信機からの音。
ゲッコーさんが対応。
もちろん相手は潜入してくれているコールサイン・ハリエットの一人から。
内容はメッサーラが帰還したというもの。
腕に深手を負っていることから周囲の者達が大騒ぎであり、回復魔法を行う者達に直ぐに囲まれたそうだ。
ここから分かるのは、メッサーラの将器が本物だということだな。
声による報告だけど、心配した表情で集まってくるという光景は容易に想像できる。
堂々とした立ち居振る舞いとそれに裏打ちされた強さに崇敬の念を抱いている者は多いようだ。
俺も思ってしまったし。
エルウルドの森で対峙したグレーターデーモン・ヤヤラッタを思い出す格好いい武人だ。
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