異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1792【寸止め】

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 ――相手との経験値の差を埋めるとすれば、現状で可能となるのは――意外性。
 意外性で上回るしかない。
 コクリコみたいなトリッキーな動きが可能ならば、ソレによる接近戦で高順氏を少しは驚かせる事もできるんだが、コクリコの軽業師を彷彿とさせる芸当は俺には難しい。
 
 となれば、この戦いの場にある物を最大限に活用するだけだな。
 
 ――ある物を、

「考えていないで仕掛けないとな!」

「ほほうっ!」
 スゲー力ですよ……。
 上段からの振り下ろしを受け止めれば、再び俺の腰がキシキシと悲鳴を上げる。
 二本の木刀を掴んでいる諸手も腰と同様、痺れから悲鳴を上げそうだ……。
 
 普段、如何にマナ――ピリアでの身体能力向上にばかり頼っていたのかが分かるってもんだね。
 でも成長はしている。
 今までの俺なら痛みに耐えかねて、手から木刀を手放していただろう。
 握力に忍耐力。ちゃんと育ってるね――俺!

「受けて喜びの顔を浮かべるか」

「痛みを受けて喜ぶという性癖はないのであしからず」

「ならばこれ以上の痛みは不憫であるし、性癖に目覚める前に終わらせてやらないとな」

「冗談ではない! でもって高順氏もウイットに富んだ発言ができるんですね」
 再びの上段の構え。
 俺の得意とする構えで俺よりも豪快な風切り音と共に振り下ろしてくる。
 
 単純な振り下ろしは俺よりも断然、速い。上段の次に得意な抜き胴を狙いたくても高順氏の上段の方が速い。
 二の太刀いらずとばかりの全身全霊の一振りだってのに、その後も隙がないんだからね。
 
 困ったもんだよ――、

「ねっと!」

「なに!?」

「さっきのお返しですよ!」
 通路に転がる長棒。
 今度は俺が長棒を踏みつけてやる。
 勢いよく踏みつければ、高順氏の足元から勢いよく反対側が跳ね上がり、

「意外性による顎狙い!」

「なんの! 自分が先に見せた攻め方だ。焼き回しの意外性など届かん」
 裏拳一発で弾いてくる。

 けども、

「片手ですよ!」
 弾くために両手から片手となったところに、

「叩き込む!」

「ぬぅ……」
 狙ったのは片手で握っていた得物。
 カランカランッと音を響かせ、高順氏の木剣が通路に転がる。
 無手へと追い込んだ。

「決着!」

「そう思うところが――油断となる」

「いいぃ!?」
 空振り――からの宙を舞う俺。
 体勢を整えてから着地すれば、

「取られたか……」
 左手が無手の状態。
 必殺の間合いだと思ったのにな……。左手首を握られたと同時に宙を舞うという状況。
 無刀取りとはまた違う技巧。一本背負いに近い投げ方をされたと思えば左手が無手になってた。
 投げと武器奪取を同時にするとは恐れ入る。

「必殺へ繋げる時こそ慎重にならないとな。ずっと油断怠りなかったが、先ほどの一振りは勝ちに逸ってそこが疎かになった」

「耳が痛いですね……」
 俺から掠め取った木刀で軽く素振りをしつつの説教は本当に耳が痛かった。
 勝ちが見えて焦ってしまった。

「借りた勇者の得物で仕留めてやろう」

「上等!」
 ――お互い両手持ちにて数合打ち合う。
 激しさを増す木刀同士の音。
 このままだとどちらかの木刀に限界が来てたたき折れそうだな。
 加えて握力も限界に近い。
 
 だがそれは高順氏も一緒だと思いたい。
 如何に俺よりも経験があり、膂力があるとしても限界のはずだ。
 だからこそ俺の一撃で手から木剣が離れたんだろうからな。
 その後、慌てることなく俺から木刀を奪ったことは凄いことだけど。

「ふぅぅぅぅぅ――」
 と、長い呼気は高順氏。
 はたして正にと言うべきか、疲れが見えてきている。

「お互いに次の打ち合いで終わらせたいところですね」

「全くだな」
 わずかに微笑んでくれるので俺も同じ表情で返す。
 笑みを向け合いつつ同時に駆ける。
 双方共に上段。
 高順氏より先に打ち込むか、それとも回避してからか。

「南無三!」
 唱えつつ体を捻る。俺の真横を木刀が通過。これに合わせて、

「ふんすっ!」
 後の手で上段を打ち込むも、躱されてしまう。
 現在の姿勢は双方同じ。なので上段からの繋げる攻撃も一緒となった斬り上げは、お互いの木刀がふれ合い、勢いよく弾き合うというもの。
 弾き合い、腕が上がったところで高順氏が俺へと向かって強く一歩踏み込んでくる。
 腕の上がった状態を活かした上段にしては距離を詰めすぎている。
 
 となれば、

「柄当て!」
 居合いで鞘に収まったままの状態での攻撃手段だったり、刀身の間合いより更に内で使用される技。
 読み通りとばかりに、上段へと振り上げることなく柄頭を俺へと向けて打ち込んできた。 
 柄頭に対し柄で受け止める。
 俺から奪った木刀を握った拳に向けて柄を当て、力強く押し上げる。
 押したことで生まれた刀身の間合い。
 力で押し上げて高順氏の腕を無理矢理に上げ、がらんどうとなった胴へと目がけて横一文字――を寸止め。

「勝負あったな」
 立ち会い人が止めに入る。

「見事だった勇者」

「いや、そちらこそ」
 高順氏は上がった腕をそのまま振り下ろしてきての上段。
 俺の頭の手前で寸止め。
 結果は相打ち――に見えるのかな。

「決着はつかなかったな」

「そんなことは無いですよ」

「そうかな?」

「そうですよ。なあベル」
 立会人へと問えば首肯。
 高順氏は相打ちでいいと思っているようだけども、俺と立会人であるベルは高順氏の勝ちと判断した。
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