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視線は南へ
PHASE-1793【身体的特徴がステータス】
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――俺の敗北宣言からお互い寸止めの姿勢をやめて残心。
「よければこちらが勝ちだという理由を聞きたいものだ」
「分かっているでしょうに」
俺は胴への一撃。
対して高順氏は俺の頭部への一撃。
ほぼ同時となれば、絶命となる可能性が高いのは高順氏の上段からの振り下ろしに軍配が上がる。
「なので俺の負けです」
あえて大きな声で全体へと伝えれば、残念な声や感嘆の声が上がる。
俺の立場ってのがあるからか、歓声を上げるということはなかった。
別に上げてくれてもいいんだけどね。
「ならば素直にこちらの勝ちとして受け取っておこう」
「どうぞどうぞ。次はきっちりと勝てるように、更なる精進に努めますよ」
「殊勝でよろしい。自分もより高みを目指さないとな」
木刀を収めて互いに一礼。
ここでようやく歓声が上がり、俺たちを称えてくれる。
配慮の出来る素晴らしい面々である。
「いやはや、良き勝負でしたね」
「え!? 先生!」
ヌルッと現れたな。
というか、
「なぜ要塞に?」
まだ準備は整っていないってのに。
「なにやら強者が来訪したということでしたので、報を受け急ぎ参上しました」
ひとっ飛びだったそうな。やはり地形無視の移動は陸路と違って移動が速い。
しかもヒッポグリフではなく、より移動速度を高めるためにツッカーヴァッテに協力してもらったという。
そら速いわな。
「何用だ知者?」
「陥陣営殿」
「なにかな?」
「そのお力を十全にて発揮する時です」
――ん?
「十全を発揮していますよ先生。常にこの地を守護してくれていますからね」
「いえいえ、真の力を発揮するのは泥濘の足場から解放された野戦。野戦における陥陣営殿のお力は絶大。それこそ一対一とは比較にならないほどです。陥陣営殿は騎兵を率いる時こそ輝く将」
――ええっと。つまりは――、
「予定より早く南伐に出ると?」
「南伐というわけではありません。南伐を円滑にするためにも要塞の南に陣取っている十万――目障りではありませんか?」
冷笑による発言が怖いですよ……。
「この上なくな」
高順氏も負けじとばかりに冷たい笑みを湛えてみせる。
やはりなんだかんだで関係性がよいようで。
「では打って出ましょう。十万と合流したであろう十四男殿のお力がどれほどかも確認したいですし」
「算段は?」
「報告を受け、ここへと来る間に考えておきました」
何とも短い時間で考えた策のようで。
並大抵の軍略家が考えたなら不安だが、先生なら俺は全幅の信頼を寄せるってもんだ。
「相手は次なる侵攻に十日前後を要するようだ」
「ですね。こちらもまだまだ時間を要します。ここは要塞の兵力と後方から移動してくるナブル将軍が引き連れてくる兵力だけでぶつかります」
「要塞防衛も考えると動かせる兵力は?」
問えば、
「強襲ですからね。速い方が良いです。速さとなれば移動だけでなく伝達も重要。となれば兵力は――七千くらいでしょうかね」
十万に七千とか……。
「それで十分に戦果が出ると判断してのことなのだな」
「無論」
「ならば従ってやろう」
「頼りになります」
朗らかな笑みの先生。
大半の女性がその笑みを向けられれば心を奪われていることだろうが、高順氏は短い鼻息で返すだけ。
でもまあ、
「関係性はやっぱり向上しているようだな」
今度は思っていたことを口に出す。
――軍議室へと戻って今後の事を話し合う。
先生の突発的な策だということで、今ごろ王都では王様たちがその報告を受け、てんやわんやしている事だろうと想像。
そういった状況だからまず間違いなく、王都からの派兵はないってことでいいな。
そもそもまだ準備段階だからな。
だが先生が言うように南伐へと移行するためには、どうしても要塞の南に展開されている十万の敵軍をどうにかしたい。
こいつらを蹴散らさないと南への道が開かない。
叩くなら再編の最中にある今こそが好機。
と、高順氏やコクリコも同じ考えではあったよな。
でもこうも先生が急いで来るってのは――、
「十四男殿がここにきて前へと出てきてくれるとは思いませんでしたので」
と、どうも十四男のガガドムサだったかな? コイツの登場が喜ばしいようだ。
「そんなに強いんですか? 早急に対処したいようですけど」
「対処は難しいかと。強大なるガガドムサ殿と戦うとなればこちらも決死。精鋭にて当たらねばなりませんからね」
「そんなになんですか」
「ええ! 継承四位まで上り詰めたほどの実力者。この者が総領息子なら蹂躙王カルナックもどれほど喜んでいたことか」
随分と褒めちぎるね。
先生のこの言い様に高順氏を初め随伴のロンゲルさん達が鷹揚に頷いて発言に賛同している。
それほどなのか……。
「高順氏たちは戦ったことはありますか?」
「いや、まったく」
「ですよね」
先生の言い様からしてようやく後方からやって来たという感じだったからな。
なのにこの脅威度の高さたるや……。
こちらが分かる事は、父親譲りの黄金の鱗を持っているってことと、ラダイゴロスよりも体格に恵まれているってこと。
それを誇ることが蹂躙王の息子としてのステータスに繋がるというのも分かった。
誇らしく述べたガガドムサと、それを耳にして悔しそうにしていたラダイゴロス。
通信機越しからでも聞こえるほど後者は歯を軋らせていたからな。
父親と身体的特徴が近しいほど跡目として周囲から認められやすくなるのかもな。
「よければこちらが勝ちだという理由を聞きたいものだ」
「分かっているでしょうに」
俺は胴への一撃。
対して高順氏は俺の頭部への一撃。
ほぼ同時となれば、絶命となる可能性が高いのは高順氏の上段からの振り下ろしに軍配が上がる。
「なので俺の負けです」
あえて大きな声で全体へと伝えれば、残念な声や感嘆の声が上がる。
俺の立場ってのがあるからか、歓声を上げるということはなかった。
別に上げてくれてもいいんだけどね。
「ならば素直にこちらの勝ちとして受け取っておこう」
「どうぞどうぞ。次はきっちりと勝てるように、更なる精進に努めますよ」
「殊勝でよろしい。自分もより高みを目指さないとな」
木刀を収めて互いに一礼。
ここでようやく歓声が上がり、俺たちを称えてくれる。
配慮の出来る素晴らしい面々である。
「いやはや、良き勝負でしたね」
「え!? 先生!」
ヌルッと現れたな。
というか、
「なぜ要塞に?」
まだ準備は整っていないってのに。
「なにやら強者が来訪したということでしたので、報を受け急ぎ参上しました」
ひとっ飛びだったそうな。やはり地形無視の移動は陸路と違って移動が速い。
しかもヒッポグリフではなく、より移動速度を高めるためにツッカーヴァッテに協力してもらったという。
そら速いわな。
「何用だ知者?」
「陥陣営殿」
「なにかな?」
「そのお力を十全にて発揮する時です」
――ん?
「十全を発揮していますよ先生。常にこの地を守護してくれていますからね」
「いえいえ、真の力を発揮するのは泥濘の足場から解放された野戦。野戦における陥陣営殿のお力は絶大。それこそ一対一とは比較にならないほどです。陥陣営殿は騎兵を率いる時こそ輝く将」
――ええっと。つまりは――、
「予定より早く南伐に出ると?」
「南伐というわけではありません。南伐を円滑にするためにも要塞の南に陣取っている十万――目障りではありませんか?」
冷笑による発言が怖いですよ……。
「この上なくな」
高順氏も負けじとばかりに冷たい笑みを湛えてみせる。
やはりなんだかんだで関係性がよいようで。
「では打って出ましょう。十万と合流したであろう十四男殿のお力がどれほどかも確認したいですし」
「算段は?」
「報告を受け、ここへと来る間に考えておきました」
何とも短い時間で考えた策のようで。
並大抵の軍略家が考えたなら不安だが、先生なら俺は全幅の信頼を寄せるってもんだ。
「相手は次なる侵攻に十日前後を要するようだ」
「ですね。こちらもまだまだ時間を要します。ここは要塞の兵力と後方から移動してくるナブル将軍が引き連れてくる兵力だけでぶつかります」
「要塞防衛も考えると動かせる兵力は?」
問えば、
「強襲ですからね。速い方が良いです。速さとなれば移動だけでなく伝達も重要。となれば兵力は――七千くらいでしょうかね」
十万に七千とか……。
「それで十分に戦果が出ると判断してのことなのだな」
「無論」
「ならば従ってやろう」
「頼りになります」
朗らかな笑みの先生。
大半の女性がその笑みを向けられれば心を奪われていることだろうが、高順氏は短い鼻息で返すだけ。
でもまあ、
「関係性はやっぱり向上しているようだな」
今度は思っていたことを口に出す。
――軍議室へと戻って今後の事を話し合う。
先生の突発的な策だということで、今ごろ王都では王様たちがその報告を受け、てんやわんやしている事だろうと想像。
そういった状況だからまず間違いなく、王都からの派兵はないってことでいいな。
そもそもまだ準備段階だからな。
だが先生が言うように南伐へと移行するためには、どうしても要塞の南に展開されている十万の敵軍をどうにかしたい。
こいつらを蹴散らさないと南への道が開かない。
叩くなら再編の最中にある今こそが好機。
と、高順氏やコクリコも同じ考えではあったよな。
でもこうも先生が急いで来るってのは――、
「十四男殿がここにきて前へと出てきてくれるとは思いませんでしたので」
と、どうも十四男のガガドムサだったかな? コイツの登場が喜ばしいようだ。
「そんなに強いんですか? 早急に対処したいようですけど」
「対処は難しいかと。強大なるガガドムサ殿と戦うとなればこちらも決死。精鋭にて当たらねばなりませんからね」
「そんなになんですか」
「ええ! 継承四位まで上り詰めたほどの実力者。この者が総領息子なら蹂躙王カルナックもどれほど喜んでいたことか」
随分と褒めちぎるね。
先生のこの言い様に高順氏を初め随伴のロンゲルさん達が鷹揚に頷いて発言に賛同している。
それほどなのか……。
「高順氏たちは戦ったことはありますか?」
「いや、まったく」
「ですよね」
先生の言い様からしてようやく後方からやって来たという感じだったからな。
なのにこの脅威度の高さたるや……。
こちらが分かる事は、父親譲りの黄金の鱗を持っているってことと、ラダイゴロスよりも体格に恵まれているってこと。
それを誇ることが蹂躙王の息子としてのステータスに繋がるというのも分かった。
誇らしく述べたガガドムサと、それを耳にして悔しそうにしていたラダイゴロス。
通信機越しからでも聞こえるほど後者は歯を軋らせていたからな。
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