異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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PHASE-1795【内の毒】

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 ――某暗黒神官みたいな姿のコクリコ。
 拳程度の球体からなる黒と白のタリスマン――アドンとサムソンに座ることでその雰囲気をかもしてはいるが、

「全くとか返してきたけど、絶対に痛いに決まってるよな――尻」

「痛くありませんよ! 後、気安く尻とか言わないように! 私は乙女ですよ!」
 ほら、すでにしんどそうだもの。二個の球体に乗るってのはバランスのいいコクリコであっても痛いに決まっている。
 全体重を球体二つに預けてんだからな。
 こんな事も出来ますよ。というのを得意げに見せたいってのがあけすけなんだよ。

「もっと使い方があるだろうに」

「ほう。その使い方というのに耳を貸してあげてもいいですよ」

「やっぱ辛いんじゃねえか」
 要塞に来てから編み出した技法なんだろうから日が浅い。   
 正に一朝一夕ってレベルだ。得意げになってもボロってのは出るというもの。
 メッサーラ戦の時に見せたホバー移動は凄かったけど、長距離移動を可能とするにはまだまだ技量不足ってところだな。
 極めればレビテーションを使用しなくても飛行も可能にはなりそうだけどね。

「見てないで早く提案を言ってみてください」

「おう。もっと楽なやり方は別の物を使えばいいと思うぞ」
 ――アイデアを提供すれば、

「トールはこういった知恵の周りは早いですね」

「さもあろう。さもあろう」
 翼幻王ジズから賜った羽衣トヨウケビメの両端でアドンとサムソンを包ませてから高い位置で浮かせ、たるんだ中央部分に座らせるってのは成功のようだ。
 一定の高さを飛行できる空中ブランコみたいなもんだな。
 これなら尻も痛くないと喜びながら本音も漏らしていた。
 魔道具も工夫次第で、本来の使用方法とは違ったことも出来るというお手本を見せてくれる。

 ――しばらく進めば、

「初めての風景だな」
 湿地からなるリオスを抜ければ、木々に覆われた土道が現れる。
 いままで瘴気が支配していた道は存外、荒れてはいなかった。

「当然か。こちらへと攻めてくる連中がいるんだから」

「その通りです」
 整地してくれていて助かる。と、先生。
 魔王軍が行軍をスムーズにするための整地。
 舗装に要する労働と出資が抑えられると喜んでもいた。
 
 おおざっぱな連中かと思っていれば、こういった繊細さもある。
 大方メッサーラの指示だろう。
 移動の負担を軽減したいのは、どの軍でも最重要なことだと高順氏も続く。
 悪路を歩かせて体力を消耗させた者達を前線に展開するのは誰だって避けたいよね。
 反面、相手側に攻められる時には有利な状況を与えてしまうことになるけど。

「この整地状態からして、相手方は我々が当分の間、仕掛けてこない。もしくはずっと籠もっているだけと見ているようですね」
 浄化は進んでも兵力は整っていない。
 なので大きな動きを起こすことは出来ないと油断していると推測する先生。
 物見がいないのもいただけない。
 逃散した後の再編制中とはいえ、こちらを監視する者がいないというのは油断も甚だしい。
 余程、自分たちの方へは攻めてこないと思っているのか。
 再編制に手間取っているのか。
 それとも両方か。

「瘴気の恩恵に甘えていた証拠。それに頼り続けていたことが油断へと繋がってくれているなら、こちらとしては万々歳」
 先生がこう言うってことは、相手側は木々に囲まれた土道に偵察や伏兵を本当に配置していないようだな。
 
 なんだろう。十万を超えているとはいえ、こういったところで粗が目立つようなら大したことないと思ってしまう。
 整地した土道とは違って杜撰だ。

「メッサーラが補佐役だと考えれば、こういった場所には必ず配置してそうだけどな」
 疑問を零せば、

「前回の戦いに参加できていないところからして、向こう側では足の引っ張り合いがあるようですね」
 と、先生。
 引っ張り合うから油断が出来ない。
 そんな引っ張り合いをするのと今度は一緒に行動するとなれば、どこで何を仕掛けてくるか分からない。
 攻めてくる気配が無いこちら側よりも、内側の方に警戒をしないといけないわけだ。

「内側に毒か」

「その通りです」
 こちらも既に毒――しかも猛毒になりえるだけのS級さんを二人忍び込ませているけどね。
 
 総領息子殿が今まで以上に警戒を強めるのは当然と先生が発せば、高順氏たちが頷く。
 
 そうだよな。
 十四男なんだもんな。
 なのに継承の序列は四位ときている。
 どう考えても普通じゃあり得ないからね。
 
 そんなのが総領息子と一緒に行動するとなれば、総領息子のラダイゴロスもそうだろうが、腹心であり大手、搦手の両方に精通している戦上手のメッサーラも心中穏やかじゃないはず。
 何をされるか分かったものじゃないからね。
 心許せる実力者たちと一緒になって総領息子の周囲を守らないといけない。

「監視はないですが、ここからは慎重に進みましょう」
 とのこと。
 土道を抜ければ、見えてくるのは緩やかな起伏からなる草原地帯。

「絶景だな」

「確かにな」
 ベルが続いてくれる。
 寒さが緩和してきたこの頃。大地は薄緑に染まっている。
 ちょっと前まで瘴気が蔓延していたとは思えない美しい風景だった。
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