293 / 604
トレジャーハントに挑む、三人の公務員
PHASE-35
しおりを挟む
「サージャスさんみたいには――なれないね」
は? なんでここでサージャスさん?
「矢面に立てる存在に、なってみたいかな~って」
ああ、そういう事か。
何かあるにつれ、僕がロールさんを守ってたってのもあって、ロールさんも、僕の事を救いたい立場になりたかったみたいだ。
僕がバラクーダの二人に威圧されてた時、サージャスさんが華麗に救ってくれたし、そういう話を聞いて、ロールさんの中にある、正義感と先輩としての立場に火が付いたのかな?
「サージャスさんは勇者。ロールさんは僕と同じ公務員ですからね。いいじゃないですか。職が違うんですから」
「うん……」
あれ? なんか嫌だったのかな? どうしても僕を守りたいとか考えてるのかな? なんで? サージャスさんに対抗意識もってます?
「ここで話してたら遅刻しますから、歩きながらで」
「うん」
これでいいんだ。仲直りして、一緒に仕事場に行く。
周囲から見たら、恋人同士の仲直りに見えてたかな。
羨ましいとばかりに視線をこちらに向けつつ、足早に僕たちの横を通り過ぎていく。
男性の往来が通り過ぎる度に、チッ。チッ。チッって、舌打ちが僕の耳朶によく届いた朝の通勤だ――――。
「最悪、僕は免職でしょうね」
「そんな事にはならないよ。何も悪くないから。暴力はよくないけど……大公様も証言してくれるよ。暴行と脅迫を受けたんだから」
暴力はよくないけど。の部分は、凄く弱々しい語り方だった。また、僕が怒るかもと思ったんだろうな。
怒りませんよ。実際、暴力は駄目でしたから。
怒りに我を忘れて、ノムロのおっさんと同じ土俵に立った時点で、負けなんだよな……。もっと、精神を磨き上げていかないと――――、って、反省を挟んでしまう。
証言があったとしても、貴族の力ってのは、真実を曲げる事が可能な世界だからね。大公様の威光があっても、目に届かない影の部分で、チクチクと嫌がらせをしてくるもんだ。
そのチクチクが、庶民にとっては大ダメージ。簡単に潰される。
「もし、こんな事なんかでピート君が免職されるなら――――私も辞める」
「え!?」
「だって、そんな間違った事がまかり通るような所なら、こっちから願い下げだよ」
いやいや、優秀な方が辞めたら駄目でしょ。
正直、整備局の大半の仕事をこなしてると思ってるんですけど。そんなロールさんが辞めたら、局内は阿鼻叫喚だよ。
「辞めてどうするんですか? 無職ですよ。当てもないのに、そういった発言はしない方が――」
「知り合いのつてもいいだろうけど、蓄えもちょっとはあるし、どうせなら自営をやってみるのもいいかな。街商を始めてみるとか。ワギョウのおでんが美味しかったから、屋台を出してみたいな」
なんて場当たり的な……。
確かにロールさんの料理は美味しい。それこそ、そこいらの店なんて太刀打ち出来ないレベルだ。もちろん、ケーシーさんやバッカスは除くよ。
加えて作り手が傾城クラスの美人様とくれば、一人やもめが足繁く通って、お金を落としてくれるのは間違いないだろう。
でも、商売ってそう簡単なものじゃ――――、
「もし、ピート君に予定がないなら、お店の手伝いをしてほしいな。少なくて申し訳ないけど、ちゃんとお給金は出すから」
「ボ、ボク。ヨテイナイカラ、ダイジョウブデスヨ」
「なんで片言……」
あれ、最高じゃない? 今の職場みたいに安定してるわけじゃないけど、幸せな職場環境だよね。
人生最大の幸福が舞い降りるんじゃないの?
むしろ、今の仕事を即、辞めたくなったんだけど。
ロールさんと二人きりとか―――――。
二人で協力し合ってさ、屋台から始めて、成功を収めていきつつ、ちゃんとした店を構えてね~。
贅沢は言わない。場末じゃなければいい。庶民街の一角にひっそりとでもいいんだ。ケーシーさんのお店みたいにさ。常連さんや、たまたま立ち寄ったお客が笑顔になって帰っていくみたいなね。
いずれはさ、ピート君から、【あなた】とか、【旦那様】とかにね、一人称が変わるっていうね――――。
なにこれ、最高じゃないですか。
最高じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!
こういう分岐ルートが出来ると前もって分かっていたなら、自室を出る前にでも、辞表を書いて持参したのに――――。
「トリップしてるの?」
「トリップしてました!」
呼び戻されたけど、これは現実にしたいな。
さっきまで重たかった足だったけども、俊足の神が宿ったかのようだ。とても軽い!
局までスキップで行ってもいいよ。周囲の視線なんて気にしないでスキップやれますよ――――。
は? なんでここでサージャスさん?
「矢面に立てる存在に、なってみたいかな~って」
ああ、そういう事か。
何かあるにつれ、僕がロールさんを守ってたってのもあって、ロールさんも、僕の事を救いたい立場になりたかったみたいだ。
僕がバラクーダの二人に威圧されてた時、サージャスさんが華麗に救ってくれたし、そういう話を聞いて、ロールさんの中にある、正義感と先輩としての立場に火が付いたのかな?
「サージャスさんは勇者。ロールさんは僕と同じ公務員ですからね。いいじゃないですか。職が違うんですから」
「うん……」
あれ? なんか嫌だったのかな? どうしても僕を守りたいとか考えてるのかな? なんで? サージャスさんに対抗意識もってます?
「ここで話してたら遅刻しますから、歩きながらで」
「うん」
これでいいんだ。仲直りして、一緒に仕事場に行く。
周囲から見たら、恋人同士の仲直りに見えてたかな。
羨ましいとばかりに視線をこちらに向けつつ、足早に僕たちの横を通り過ぎていく。
男性の往来が通り過ぎる度に、チッ。チッ。チッって、舌打ちが僕の耳朶によく届いた朝の通勤だ――――。
「最悪、僕は免職でしょうね」
「そんな事にはならないよ。何も悪くないから。暴力はよくないけど……大公様も証言してくれるよ。暴行と脅迫を受けたんだから」
暴力はよくないけど。の部分は、凄く弱々しい語り方だった。また、僕が怒るかもと思ったんだろうな。
怒りませんよ。実際、暴力は駄目でしたから。
怒りに我を忘れて、ノムロのおっさんと同じ土俵に立った時点で、負けなんだよな……。もっと、精神を磨き上げていかないと――――、って、反省を挟んでしまう。
証言があったとしても、貴族の力ってのは、真実を曲げる事が可能な世界だからね。大公様の威光があっても、目に届かない影の部分で、チクチクと嫌がらせをしてくるもんだ。
そのチクチクが、庶民にとっては大ダメージ。簡単に潰される。
「もし、こんな事なんかでピート君が免職されるなら――――私も辞める」
「え!?」
「だって、そんな間違った事がまかり通るような所なら、こっちから願い下げだよ」
いやいや、優秀な方が辞めたら駄目でしょ。
正直、整備局の大半の仕事をこなしてると思ってるんですけど。そんなロールさんが辞めたら、局内は阿鼻叫喚だよ。
「辞めてどうするんですか? 無職ですよ。当てもないのに、そういった発言はしない方が――」
「知り合いのつてもいいだろうけど、蓄えもちょっとはあるし、どうせなら自営をやってみるのもいいかな。街商を始めてみるとか。ワギョウのおでんが美味しかったから、屋台を出してみたいな」
なんて場当たり的な……。
確かにロールさんの料理は美味しい。それこそ、そこいらの店なんて太刀打ち出来ないレベルだ。もちろん、ケーシーさんやバッカスは除くよ。
加えて作り手が傾城クラスの美人様とくれば、一人やもめが足繁く通って、お金を落としてくれるのは間違いないだろう。
でも、商売ってそう簡単なものじゃ――――、
「もし、ピート君に予定がないなら、お店の手伝いをしてほしいな。少なくて申し訳ないけど、ちゃんとお給金は出すから」
「ボ、ボク。ヨテイナイカラ、ダイジョウブデスヨ」
「なんで片言……」
あれ、最高じゃない? 今の職場みたいに安定してるわけじゃないけど、幸せな職場環境だよね。
人生最大の幸福が舞い降りるんじゃないの?
むしろ、今の仕事を即、辞めたくなったんだけど。
ロールさんと二人きりとか―――――。
二人で協力し合ってさ、屋台から始めて、成功を収めていきつつ、ちゃんとした店を構えてね~。
贅沢は言わない。場末じゃなければいい。庶民街の一角にひっそりとでもいいんだ。ケーシーさんのお店みたいにさ。常連さんや、たまたま立ち寄ったお客が笑顔になって帰っていくみたいなね。
いずれはさ、ピート君から、【あなた】とか、【旦那様】とかにね、一人称が変わるっていうね――――。
なにこれ、最高じゃないですか。
最高じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!
こういう分岐ルートが出来ると前もって分かっていたなら、自室を出る前にでも、辞表を書いて持参したのに――――。
「トリップしてるの?」
「トリップしてました!」
呼び戻されたけど、これは現実にしたいな。
さっきまで重たかった足だったけども、俊足の神が宿ったかのようだ。とても軽い!
局までスキップで行ってもいいよ。周囲の視線なんて気にしないでスキップやれますよ――――。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる