拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4

文字の大きさ
449 / 604
集結

PHASE-12

しおりを挟む
「いい匂いですね」
 気配には気付かない僕でも、両手に持った倹飩箱けんどんばこから漏れてくる、胃袋を刺激する香りは感知できる。
 これは、美味いやつだ。
 
 ふたをスライドさせてテーブルに並べるのはフレンチトーストに似た、チーズやハムが挟んで焼いてあるクロックムッシュだ。
 目玉焼きがのっかっているのはクロックマダムだな。さて、どちらをいただこうか。
 ローストビーフを食べていた面々も興味津々だ。
 
 ――――美味かった。ただただ美味かった。皆さんも満足したという表情。

「では、紅茶を」
 いつの間に準備したのか、ゲイアードさんが皆に紅茶を振る舞ってくれる。
 カップが全員の前に置かれたところで、話が始まった。
 
 ――――いまから十六年前。ゲイアードさんこと、ノイエ・イルマン・ユーティライネン氏が十五歳のころ。
 魔術の昇華に、新たなる術式の研究に没頭していた若きノイエ少年。
 
 十五歳という若さにして、歴代でも最高の死霊魔術師ネクロマンサーとして称され、将来を期待されていたそうだ。
 幼少の頃より死者の魂と語り、知恵を授かる。
 その頃から、従来の死霊魔術師ネクロマンサーが行う、魂の支配ではなく、信頼関係を強めるという、他とは違う切り口から新術開発に取りかかる。
 
 リューディアさんとは幼少からの付き合いで、将来を双方の親により決められていたそうだけども、本人達もそれに関しては否定的ではなかった。
 つまり、相思相愛だったわけだ。充実している……。
 
 ノイエ少年は魂を隷属する事を嫌い、使用する事を嫌った。
 苦しむ魂を傀儡とする死霊魔術師ネクロマンサーとしての、当たり前を当たり前ではないとして、幼少期からの考えを一貫し、両親も新しい事への転換を目指す息子に期待をし、新たなる道の開拓と開花を望んでいた。
 共に学んでいた方々も、ノイエ少年のひたむきさと誠実のもとに集まり協力。
 周囲には常に心を許せる方々がいた。
 現状に胡座をかく事をよしとせず、努力し前に歩む姿勢が、人々を魅了したようだ。
 常に新たな事に挑戦し、新術の開発の合間に、多彩な魔法を習得、各属性と大魔法の習得数は、一族の中でも抜きん出ていた。
 才能をあらん限り発揮出来る環境下で存在感を輝かせるノイエ少年。
 
 だが、輝きが強ければ、影はそれだけ濃くなるもの。その影となるのがヘイターこと、ルネア・ドルヴァル・ユーティライネン。
 
 ルネアの目指したものは、現状の魔法をさらに進歩させ、死者を無理矢理に効率よく使役するスタイルを通していった。
 弟は、新たに踏み出していった兄とは違い、現状からの導きから進歩させようと努力した。
 しかし、すでにあるものから生み出そうという考えには魅力を感じなかったのか、周囲はルネアに期待していなかった。

 両親は、兄と同様に愛情を注ぎ込んでいたそうだけども、どうしても新術を開発していた兄の死霊魔術ネクロマンシーへの期待が大きかったようだ。
 
 その頃からルネアの妬みは強いものになっていった。
 もともと、そういう性格だったそうだけど、それが顕著になったのがこの時からだそうだ。
 ルネアの恐ろしいところは、魔力量だけならノイエ少年を凌駕しているところ。
 更に恐ろしいのが、魔力量以上の妬み嫉み。
 
 誰もが自分を見る事なく、兄ばかりに期待をしていた事に対し、幼い考えの楽観的な思考で、ルネアは溢れた嫉妬心から暴挙に出た。
 数多くの魂を一気に使役し、力として行使した。
 それはノイエ少年が数日間、家を離れた時に実行された。
 ノイエ少年の周囲の人々を次々と殺害していき、その魂を我が物とした。
 
 そして――――、ルネア最大の暴挙――――。親殺しである。
 
 両親の魂を得ると、次ぎに襲ったのがリューディアさん。
 命を奪い、亡者として使役しようとしたところで、ノイエ少年が報を聞きつけ、残った仲間達共にルネアを倒し、奪われていた魂を可能な限り解放したそうだ。
 とどめとなった時、兄としての心が、弟の命を奪う事を躊躇った。
 霊体となったリューディアさんの制止もあり、ルネアにとどめを刺す事をせず、拘束しようとしたが、一瞬の隙を突かれてルネアを逃がしてしまう。
 
 月日が経つにつれ、ノイエ少年の中で負の感情が大きくなり支配していった。
 それに比例して、弟を殺めたいという気持ちも大きくなっていく。
 リューディアさんは、このままではノイエ少年が弟同様に、力を暴走させてしまうのでは? と、心配し、生前の魔力で未だ現世に留まる事が可能な自らの魂を使って、新術の開発を完成させようと提案した。
 
 失敗すれば、魂自体がどうなるか分からないと反論するも、このままだと闇に飲み込まれてしまうと考えたリューディアさんは、持ち前の強気でノイエ少年を説得。
 幼少からの経験をすべて出し切り、支配、使役でなく、対等な関係性を持ち、召喚するのでなく、常に現世へと留まる事が可能な降霊術をここで成功させた。
 これにより、ノイエ少年が怒りに支配されても、リューディアさんがそれを堰き止める立場となった。

 
 
 ――――王都で、ヘイターと出会い、怒りのままに動き、視界が狭くなったゲイアードさんを救ったのはリューディアさん。
 彼女の思いは死してもちゃんと貫徹されている。
 たまに見せるヤキモチで、ゲイアードさんからは想像が出来ない、情けない声を出させるのも得意だ。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...