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悪魔との出会い

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私はその日、悪魔に声を売りましたーーー。

悪魔が現れたのは数日ほど前のこと。夕焼けに染まる校舎。生徒達の笑い声。教室に一人残った私は、ぼーっと机の隅にある文字を見ていた。
「荻野 歌」
これが私の名前。小さい頃から歌うこと、話すことが大好きで将来は歌手になりたい。と当たり前のように思っていた。だけど、現実はそんなに甘くなかった。何回もオーディションに落ち続け、いつしか夢を語ることさえ怖くなった。自分の名前を見るたびに涙がこみ上げてくる。
「苦しい、悲しい、、。」
感情のまま、教室を飛び出すと私の足は屋上に向かっていた。キィと重たいドアを開け、校舎を見渡せるフェンスギリギリのところまでやってくる。フェンス越しには校庭を走るサッカー部員達や野球部員。校舎の空き教室からはトランペットの音が聞こえてくる。これらの事象全てが青春という二文字を私に否応なしに感じさせた。
「何で、、、」
唇を噛みながら、声を押し殺すように泣いていた。
「どうして、私はこんな惨めな気持ちにならなきゃいけないの、、、?」
フェンスに手をかけ、私は気づけばのぼりきっていた。
目の前には晴れ渡った青空が広がっている。泣いているからか余計に青さが目に染みた。下を向くと、四階ほどある校舎はやはり高く、足がすくんでしまう。
「死ぬにはちょうどいいなぁ。さよなら、歌。」
そう自分に告げ、片足を宙に投げ出そうとした時だった。

凄まじいほどの勢いで風が吹き、耳元を横切っていった。私は思わず目をつぶってしまった。
「おい。」と男の人の声がして目を開けると風は止んでいた。しかし、カラスのような翼を大きく広げ、スーツ姿の男がこちらを睨んでいる。翼からは火の粉が舞い、まるで子供の頃に読んだ悪魔そっくりだった。当時の私には夜も眠れないほどに恐ろしかったことを思い出した。恐怖で腰を抜かした私の目からは乾ききったはずの涙が一滴こぼれ、頬を流れるのだった。

つづく
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