~voice~

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取引

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「これによるとお前は今日、無事に自殺を遂げて死ぬことになっている。」
ポケットから分厚目の手帳を取り出し、話し始める。
「自殺だが、一応聞く。やり残したことはあるか?」
さっきまで笑っていたはずの目はもはや死んだように冷たい。
そうか、、私はもう死ぬのか、、いざその事実と向き合うとやけに悲しくなる。朝、もっと弟に優しくすればよかったなとか一度きりの人生、もっと青春すれば良かったなって馬鹿なことばかり頭に浮かぶ。
「どうせないだろ?お前みたいなやつ多いんだよな。なんか人生生きててもつまんないから死にます、みたいな。今月でお前が五件目だよ。」
ため息をつきながらチャラ男は言った。
「あるよ。歌手になるのが夢だった、、
。でっかいホールで歌うことが夢だった!」
自分でも驚くほど大きな声が出ていた。
「へぇ。じゃあ、なんで自殺しようとしたの?」
「オーディションは箸にも棒にもかからなくて、夢を追いかけるのが怖くなったから。」
「くそつまんねぇ理由だな。結局、今までの奴らと一緒かよ。普通に生まれてきて、親からも周りからも愛されて、夢まで追いかけるぐらいの余裕があって。とんだあまちゃんだな。」
吐き捨てるように彼が言った。
「うるさい!どうせわかんないでしょ。あんたに私の気持ちなんか!自殺なんかしなくたって喉頭がんで声が出なくなる。歌手になれないんだったら、生きる価値無い!!」
息を切らしながら、私は睨みつけていた。それをかわすように、
「がんってことはお前、自殺しなくたって死ねるのかよ。営業妨害だなぁ。」と少し笑った。
「おもしろい。お前みたいなやつ、すぐに死なせるとつまらないから、取引しようぜ。」
こいつは本当に何を考えているかわからない。私は死ぬはずの人間なのに、どうしてここまでおちょくられているのだろうか。悪魔の気まぐれだろうか。

「お前の喉頭がん、消してやるよ。」

へ?
あまりの出来事に驚きが隠せない。本当にそんなことが出来るのだろうか。そうだとしたら、私は手放しで喜ぶだろう。
「ただし、お前の声と引き換えだ。歌手になれなきゃ生きてる価値無いんだよな?一週間、声がだせなくてもお前が生きる価値を見いだせたら消してやるよ。」
本当に悪魔の囁きだ……。こうやって、暇つぶしの材料にするのだろうか?それならとても腹が立つ。
「もし見つけられなかったら?生きる価値を見いだせなかったら……?」
「その時は、そうだなぁ、声が出ないまま残りの余生を自由に?生きることだな」
さっきと同じくしゃっとした笑いだが、今度はなんの感情もこもっていない。
生きる価値……?そんなもの一週間で見つかるわけがない……
私は下を向きながら声がない人生を思い描く。怖い……。死ぬことより怖く感じてしまう。だけど……
「いいわ。その取引のった!」
顔を上げてチャラ男を睨みつけると私は無理にでも笑ってやった。そいつはヒューと口笛を吹いてニヤリとした。
私は死ぬことより声を失うことの方が嫌だ。一週間で見つけてやるよ、生きる価値を。

私はそうして声を売ったーーー。


つづく
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