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一話 『至高英雄』に強さを求め

褒美の摘まみ食い1

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 パタン。扉が閉じた後、英正の足音が遠ざかっていく。

 華候焔は気配を確かめるように白澤たちが向かった先を見つめ、小さく息をついてから俺を覗き込んだ。

「てっきり逃げると思ったんだが……応えてくれるとはな」

 俺の顎をそっと掴んで顔を上げさせ、ニイィィ、と華候焔の口端が大きく引き上がる。

「何も知らないから応えてくれたのか、それとも最初から興味があったのか。どっちなんだろうな?」

 色めき立った目が間近になり、俺は思わず呼吸を忘れる。
 絶対に逃がさないという肉食の獣のような執着に、体が絡め取られてしまったような気になる。硬直して動けない。

 それでもどうにか唇に意識を集中して、俺は言葉を紡ぐ。

「……戦に出るだけでなく、何も知らない俺を導いてくれた。それに対して何も応えないというのは、無銭飲食するのと同じことだと思う。だから……」

「ほう。気前がいい領主は好かれるぞ。何より俺のしたことの価値を分かってくれているというのは嬉しい限りだ。愛と勇気のある判断、嬉しく思うぞ」

「勇気……戦に勝った後の褒美よりは、まだ勇気はいらなかったが……」

「ん? なぜだ?」

「明日勝とうとしているのに、俺の心身を追い詰めて力が入らぬような真似はしないと思ったからだ。どんな事情があっても、負けは耐えられない……そんな人種だと感じたが、違ったか?」

 実際に手合わせして、少しは華候焔という人間を理解できたと思う。

 どこか世を舐めたような言動を取りながらも、戦いに勝つことに対しては目の色が変わる。
 下心がどれだけあっても、戦いのことが絡めば邪な気配はなりを潜め、貪欲に勝ちを求める武人の顔を見せる。

 だから自ら勝ちの目を潰すようなことは避けるはず。今は俺に手酷いことをしない。
 そんな確信があったから、華候焔が今望んでいる褒美の摘まみ食いを受け入れたのだ。

 俺がここまで考えているとは思っていなかったのか、華候焔の目が意外そうに丸くなる。

 そして子供が宝物でも見つけたように、目を弧にして微笑んだ。

「ちゃんと俺のことを見ているようで何より。ならばもっと知ってくれ。明日、俺と息が合わせられるように……」

 ゆっくりと雄々しい唇が俺の口を塞ぐ。

 隙間なく合わさり、すぐに熱く分厚い舌が口内を弄ってくる。こそばゆさに身じろぎそうになるが、いつの間にか腰に回された手に動きを封じられる。

「ん……っ……ぅ……」

 息ができず苦しさを覚えてしまう。
 華候焔も気づいているはず。しかし息継ぎは許されず、俺の体から力が抜けていく。

 思わず膝が折れて華候焔にしがみつけば、ククッと喉の奥で人の悪い笑いを奏でる気配がした。
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