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二話 初めての戦

早朝、駆ける

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   ◇ ◇ ◇

 山際が明るくなり始めた頃、俺は馬で山中を駆けていた。

 馬に乗るのは初めてだったが、ゲームで何かしらの補正がかかっているのか、それともよく訓練された馬だからなのか。道なき道を馬は軽やかに、そして力強く駆けた。

「そろそろ目的地に着きますよー。しばらくは休めますから、もう少しだけ頑張って下さいー」

 俺の肩で白澤が教えてくれる。
 一見すると風圧を無視してちょこんと座っているように見えるが、足でしっかりと服にしがみついている――足、あったんだな白澤。

 白い毛に覆われた体の構造を気にできるほどには、心に余裕がある。

 偵察から帰った者の話では、敵は領地の間近で陣を組み、宿営で酒盛りをしていたとのこと。

 兵の数は、およそ一五〇〇。
 俺が動かせられる兵数は五〇〇。三倍差だ。

 白澤いわく、ゲーム開始時は誰であってもそこからスタートする。だから兵数は調べる間もなく把握されてしまうらしい。

 これが通常なら二倍差もあれば、余裕で勝てる案件だ。そこを三倍差まで増やしたのは、華候焔の存在が大きい。

 最強と裏切りの諸刃の剣。それだけ危険視されている存在。そして俺の所にいるというのを知っているということは、やはり情報が筒抜けという証。

 だから華候焔は俺に絡み、密やかに耳打ちし、色事に見せかけながら準備を進めていった――彼が裏切っていなければ、不意を突いて優位に戦いを進めることができる。

 裏切りが常の男を信じられるのか? と問われると――。

 じわり。手綱を握る手に汗が滲んだ。

「本当に大丈夫なんでしょうかねー。あの華候焔の策ですからねー。あっちと通じていたらどうしましょうかー?」

「……そうだとすれば、俺は最初から詰んでいたことになるな。どの道、華候焔がいなかったら負けていたと思う」

「命運をあの裏切り大王に賭けるなんて、誠人サマは度胸がありますよー、本当にー」

 呆れ半分なため息をつきながら、白澤がぼやく。

 思わず笑いが込み上げて、俺は小さく吹き出した。

「自分でもそう思う。ああいう人種が現実にいたら、絶対に近づかなかった……ただ――」

 昨日間近で見た、華候焔の熱を宿した目を思い出す。

 勘弁してもらいたいと思う反面、あれが俺に確信を与えてくれる。

「あの男は、俺を喰らい尽くすまでは裏切らない。あの目が俺に熱をぶつけている間は、おそらく……」

「……それってつまり、抱き飽きるまでは味方ってことですよねー。ああ、嘆かわしいー」

 わざとらしいほど白澤が大きなため息をつき、フルフルと体を横に揺らした。
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