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四話 追い駆ける者、待つ者

敵の宿営地へ潜入

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   ◇ ◇ ◇

 途中まで黒い馬に二人で乗り、敵陣営が近くになった所で馬を木に繋げて待機させ、森の中を自力で駆ける。

 敵に気づかれぬよう、明かりは一切使わない。
 その代わり、敵の宿営地から零れてくる松明の灯りが俺たちを導いてくれた。

 間近まで近づき、草木に身を潜めて様子を探る。
 兵士たちの談笑に耳を傾けると、笑い声に紛れて不満が聞こえてきた。

『それにしても、才明様の隊に入れられるとは……この戦、楽できんな』

『戦の開始場所から、いきなり戦場の端へと全軍突撃とか、相手の裏をかくのに山をいくつも走り越えるとか、本当にやるお人だからなあ』

『自分は馬に乗っているから楽できるだろうが、こっちは歩兵なんだ。もう少し加減しろっていうの』

 ……話を聞いていると、才明は華候焔に似た者なのか? と思えてくる。

 チラリと隣の華候焔を見やれば、ククッと声を押し殺した笑いが聞こえてきた。

「兵にはあまり喜ばれない将らしいな。面白そうだ」

「面白いかどうかで判断しないでくれ……本当にこちらへ招いていいか、判断が鈍りそうだ」

 俺の不安半分なぼやきに華候焔が肩をすくめる。

「役に立つかどうかは、連れ帰った後で判断できる。今は敵陣から将を離脱させられるだけでも意味がある」

「そうだな。とにかく直接会わなければ……」

 俺は目配せして、ひと際大きな幕舎へ移動しようと促す。

 華候焔が短く頷くのを見てから、なるべく枝葉に体を触れないよう気を付け、慎重に茂みの中を歩いていく。その最中に、俺の肩に乗っていた白澤が小声で呟いた。

「軍師がいると執政も楽になりますけどー……厄介な人はゴメンですー。ワタシとやり取りすることが増えますからー」

「できれば我慢してくれ、白澤。今は人材を選べるような状況じゃないんだ」

「分かってますー。でも、できれば華候焔以外の人材に頭を悩ませたくないですー」

 最強な裏切り常習犯に神経を尖らせながら、他の人間を相手にするのは大変そうだとは思う。しかし今回は外せないな登用。白澤には我慢してもらうしかない。

「上手くいったら白澤にも褒美を渡したい。何がいいか考えておいて欲しい」

 軽い労いのつもりで言った言葉に、白澤がンフーッと嬉しげな声を漏らす。

「嬉しいですねー。神獣にまで気を配って頂ける領主はあまり居りませんからー」

「そうだそうだ。ソイツに褒美をくれるぐらいなら、俺にたんまりくれ」

 話に割って入ってきた華候焔に、思わず俺は吹き出しかけて喉奥へ押し込む。うぐっ、と喉につっかえ、その痛みで咳き込みかける。だが今は目立った声は出せない。

 俺は「静かに」と唇の前に人差し指を立てて注意する。
 華候焔と白澤はまばらに頷き、潜みながら将がいそうな幕舎へと向かった。
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