俺はVR中華風戦闘SLGで、体を褒美に覇者を目指す

天岸 あおい

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四話 追い駆ける者、待つ者

狐と狐1

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 人払いをしているのか、才明がいると思われる幕舎の周りは静かだった。

「どうなっているんだ? 見張りが一人もいないなんて……」

 俺がぽつりと漏らすと、華候焔が俺の肩を叩き、一歩前へ出る。

「俺が先に出て罠が張られていないか確かめてくる。少しでも何かあれば迷わず逃げてくれ」

「華候焔を置いて逃げる訳には――」

「大丈夫だ。ひと暴れしてすぐに合流する……何もなかったら合図するぞ」

 頼もしいことを言いながら、華候焔は藪を出て幕舎へ近づいていく。

 辺りを見渡しながら気配を殺して進み、途中で首を傾げ、幕舎の元へ辿り着く。

 そっと幕内を覗き込んで様子をうかがった後、華候焔は俺を手招いた。

「えっ、大丈夫なんですかー? 本当にー?」

 白鐸があからさまに疑いの声を上げる。

 まったく何もないことに、俺も引っかかりを覚える。

 本当に大丈夫なのか?
 警戒しながら俺も藪を出て幕舎の元へ向かうと、華候焔が口端を引きつらせて苦笑していた。

「誠人……どうやら俺たちは、この中の人間にハメられたらしい」

「……! すぐに逃げなければ――」

「逃げなくていい。あっちも俺たちに会いたかったようだ」

 会いたかった? つまり、ここへ来るように仕向けられた?

 目を瞬かせるばかりの俺の背を、華候焔がポンと押した。

「こっちに興味を持っていたなら願ってもないことだ。さっさと話をつけて拉致するぞ」

 物騒なことを言いのけ、華候焔が幕舎の中へ入っていく。
 俺もすぐ後に続いて入っていけば、一人の男が中で椅子に腰かけ、机に広げた何かを見つめる背中があった。

 燭の灯りに照らされた彼は軍師ではないが、見るからに文官のような衣装をまとっている。頭上で黒い後ろ髪をまとめて丸く留めている髪型もそれらしい。
 ゆったりとした黒の着物。夜のくつろぐ時間にしては着崩れせず、恰好が整えられているように思えた。

「よく来て下さいました。お待ちしておりましたよ」

 にこやかな声と共に振り向いたその顔は、狐のような吊り上がった糸目で微笑んでいた。

「既にご存じだとは思いますが、私の名は才明。ここより西の領主・太史翔たいししょう様に仕え、此度の戦に送り出された者です。そちらの雄々しき武人は華候焔殿とお見受けしますが、貴殿は?」

 才明が俺に視線を送ってくる。もう見定めが始まっている気配を感じながら、俺は真っ直ぐに彼を見据えて視線を受け止める。

「俺の名は正代誠人。この地で領主をしている」

「なんと、貴方が! お会いできて光栄です……ああ、失礼しました」

 演技めいた驚き方をしたかと思えば、才明は椅子から降りて俺に跪き、手と拳を合わせて拝礼してくる。
 歓迎しているようだが、どこか仰々しくて鵜呑みにできない怖さがある。

 英正や顔鐡のような真っ直ぐで含みのない態度とは違う。
 本心がまるで読めないという意味では華候焔に近いタイプだが、それでもまだ華候焔からは意図が読める。さりげなく本心を覗かせ、自身の狙いを伝えてくれる。

 しかし才明は何も見せてはくれない。
 考えの見えない怖さに俺は気圧されてしまう。
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