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四話 追い駆ける者、待つ者

戦いの後が本番?

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 戦は俺たちの完勝だった。

 ギリギリまで俺の動きを待っていた華候焔は敵が殲滅しない程度に戦いをこなし、俺と英正が駆け付けたと分かった後は、自軍の兵を休めて自分一人で敵兵を相手にしていた。報告によると、顔鐡も同様の行動を取っていたらしい。

 俺と英正は敵将をそれぞれ一人ずつ討ち、経験値を稼ぐことができた。
 正直なところ、暴走した英正を相手にしたほうが力を使ったし、前の戦で戦った顔鐡のほうが強かった。

 才明は俺たちの隊に指示を出して、領内へ敵兵が深く入り込んでしまわないよう動かしてくれていた。そこまで気が回る将はいなかったから、彼の行動と軍師級の能力は本当にありがたい。

 敵兵が撤退していく姿を見て、俺は心から安堵の息をつくことができた。が――。



「今日も無事に勝ち抜けられたなあ。さすが俺が見込んだ領主だ!」

 城の広間で先勝の宴を開いて間もなく、早々にできあがってしまった華候焔が俺の隣に来て肩を組み、にこやかに話しかけてきた。

「あ、ああ、ありがとう。今回も色々と華候焔に助けられた」

「だろ? ちゃんと褒美を貰えるだけの仕事はしないとな。あー、早く欲しいな」

 上機嫌に酒で顔を赤らめながら言う華候焔と反対に、俺は内心血の気が引いていく。

 考えないようにしていたことを突きつけられて、言葉を失うしかなかった。しかも、

「ちゃんと勝てましたねえ。約束のものを、どうかお忘れなく」

 酒を注ぎに回るようなフリをしながら、才明が私の目前に現れてにんまりと笑う。
 糸目で瞳はさっぱり見えないのに、獣のように飢えたギラついた視線を感じてしまう。そしてさらに、

「領主様、準備は既に済ませてあります。自室へ戻られる際は、いつでも声を……」

 英正が華候焔と反対のほうへ現れ、身を寄せて俺に囁いてくる。

 ……戦いは終わった。
 だが今、俺は戦う直前の戦場にいた時よりも心臓が早まり、緊張で手が汗ばんでいる。

 俺はこれから三人に褒美をあげなくてはいけない。

 現物支給――領内の財を節約し、より必要なことにお金を回せるのはありがたいが……俺の体と心を大きく犠牲にしている気がしてならない。

 それぞれの言動で互いの意図が伝わったらしく、三人の間で目線がぶつかり合う。

 妙な緊張感が生まれ、俺を含めた全員が動きを止めて固まった。

「俺が最初に貰うんだからな。なんと言っても一番最初に登用されたからなあ」

 誇らしげに胸を張りながら華候焔が俺を抱き寄せる。しかし、その手を才明がピシャリと叩く。

「忘れないで頂きたいのですが、私は引き抜かれてここへ来たのですから、特別に歓迎して頂かないと困りますねえ」

「今こうして皆で歓迎しているではありませんか、才明殿。私は敵将を討った時に褒美が欲しいと望み、領主様に肯定の返事を頂きました。私には権利が――」

 庇うように英正が俺の頭を抱え、自分の元へ寄せてくる。

 もう三人ともやる気がある状態なのだと肌で感じてしまい、俺の意識が遠のいた。
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