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七話 現実が繋がる時

ここは現実なのか?

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「私は柳生田邦彦。そこの東郷のスポンサーをさせてもらっている」

 確か東郷さんはスポーツ用品を作っている会社とスポンサー契約をしている。ということは、この柳生田さんはその会社の社長か何かだろう。

「初めまして、正代誠人です。このような機会を頂き感謝しております」

「君の活躍は東郷からかねがね聞いているよ。誰もが敵わぬと諦める中、唯一挑み続けている選手だと……大学を卒業したら、ぜひうちに来て欲しい」

 明朗に笑いながら柳生田さんは握手した手を振り、俺を勧誘してくる。

 たぶん光栄な申し出なのだろう。ただ俺の意識はスポンサーを得られるかどうかよりも、東郷さんの意見のほうに向いてしまう。

 まさか東郷さんが俺をそんな風に評価していたなんて……。
 思わず横目で東郷さんを見やれば、その顔は俺がよく知っているもの――一切の感情を無くした、冷え切った表情に変わっていた。

「柳生田社長、今から私たちは練習に向かいますので、失礼します」

「ああ悪い。すまなかったな邪魔をして。ではまた夕方の懇親会の時に……」

 おもむろに俺との握手を解き、柳生田さんは関係者たちとともに立ち去っていく。

 ふと関係者たちが俺たちとすれ違う時、やけにニヤついた目でこちらを見てきた。

「彼が例の――」

「いい体をしているではないか」

「これは――夜が楽しみだ」

 そんなヒソヒソ声が聞こえてきて、俺はわずかに顔をしかめてしまう。

 おそらくこれは、選手である俺の体を見て評価しているのだと思う。
 だが……ゲーム内で淫らな世界を垣間見てしまったせいか、関係者たちの目が色めき、下卑た意味合いを含んでいるように感じてしまう。

 ぞわり。俺の背筋に悪寒が走り、全身が総毛立つ。
 離れていく彼らの背を見つめている最中、ポン、と東郷さんに肩を叩かれた。

「着替えに行こうか、正代君。ロッカールームはこっちだ」

「あ……は、はい。ありがとうございます」

 俺は我に返り、歩き始めた東郷さんの後ろへ続く。

 ロビーから細い廊下へ入った時、東郷さんが背を向けたまま俺に告げる。

「……ここにいる間、俺の相手をずっとしてもらう。決して無断で動かないように。俺から離れる時は必ず一言教えて欲しい」

「それは……練習の後も、ですか?」

「そうだ。くれぐれも忘れないでくれ。もし約束を違えた時は――」

 東郷さんが振り向く。
 姿は見えているのに、気配を感じさせない動き。

 だから俺の頬に手を添えられたことを、すぐに気づくことができなかった。

 東郷さんがあまりにもささやかに、しかし間違いなく俺に笑いかける。
 冷たく妖しい笑み。唐突に滲み出た色香に、俺は全身を強張らせた。

「――お仕置きだ」

 低くて艶めかしい囁き声。何度もゲーム内で耳元で囁かれた、情欲に溢れた男たちの声色を思い出してしまい、俺の腰から力が抜けそうになる。

 ……ここは現実なのか? 俺は『至高英雄』から別のゲームに移ってしまったのか?

 崩れ落ちそうになる膝に力を入れ、俺はどうにか無様な姿を晒すまいと堪える。
 必死に平静であるように見せようとする俺を、東郷さんは舐め回すように見てから踵を返し、ロッカールームへ消えてしまった。
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