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八話 本当の仲間は誰?

特別な存在

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   ◇ ◇ ◇

 眠りから意識が起き上がってもしばらくの間、俺は目を閉じながらぼんやりとしていた。
 体が行為に慣れてしまったことと、軟膏に含まれる催淫効果のおかげで痛みはない。ただ体の倦怠感がいつになく酷い。

 英正への餞別だからと長く相手をしたせいだろうか。
 ……いや。これは――。

「気落ちしているのか、誠人?」

 声がしてすぐにまぶたを開けると、寝台に腰かけながら俺を見下ろす華候焔と目が合う。

 頭の働きが鈍い。即座に話が頭へ入らず、俺はしばらく華候焔を見上げ続ける。
 そしてようやく意味を理解して短く頷いた。

「……もう英正は発ったのか?」

「ああ。夜が明ける前にここを出た。わざわざ俺に、後を頼むと頭を下げてな」

 華候焔の大きな手が俺の頭を撫でてくる。

「そう案じなくてもいい。無事に澗宇の元から英正は戻ってくる。朗報を持って来れるかは分からんが、澗宇なら使者の命を奪うことはない」

 いつもなら引っ掛かりを覚えても心に留めておくのに、心身のだるさが俺の口を滑らせた。

「よく分かっているのだな、澗宇のことを……」

 多くを語らなくとも、俺の引っ掛かりが零れた言葉から華候焔に伝わってしまう。

 いつも余裕を含んだ華候焔の目がスッと細くなる。
 裏切りの常習犯。過去に身を寄せ、離反した領主は数多くいるのだろう。おそらく澗宇もそのひとり。

 だが、過去の領主のことが話題に上がっただけで、これほど肌がヒリつく気配を出すなんて。
 本心を見せない男が隠せなくなるほどの相手。それは華候焔にとって特別な相手だと言っているようなものだ。

 心を許してはいけないと、華候焔本人にも言われていたのに。
 情けなく動揺してしまう自分をこれ以上曝け出したくなくて、俺は手の甲で目元を覆う。

「……すまない。変な言い方をした」

 どうにか揺らぎやすくなっている心を立て直そうと、深呼吸を何度も繰り返す。
 力の入らない俺の手を華候焔がそっと退かし、いつになく真っ直ぐに俺を覗き込む。

「俺の心が澗宇にあるとでも思ったのか?」

「……」

「ひとつ言っておくが、誠人が考えているような関係は一切ないからな。澗宇のことを他の将よりはよく知っているが……」

「やはり特別な存在なのだな」

「特別……なのは否定しない。誠人に対する特別とは違う特別だ」

 いつもなら笑みを浮かべそうなものだが、ずっと華候焔は表情を見せない。
 その顔を見ている内に、華候焔の顔が見知った人と重なっていく。

 何かが分かりそうになった時、華候焔が俺にささやいてくる。

「俺の真実を知りたいか? 俺の望みを聞いてくれるなら教えてやろう」

「望み、とは?」

「俺を特別に見ろ。体だけじゃなく、心も俺に捧げて欲しい」
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