上 下
163 / 343
九話 新たな繋がり

強く残ったままの余韻

しおりを挟む
   ◇ ◇ ◇

 ゲームを中断してゴーグルを外した後、俺はベッドの上でぐったりと横たわる。

 体は回復している。もしケガをしても中断さえできれば、完全に回復して普通にVRゲームを楽しんだと錯覚させられるのだろう。

 しかし、どうやら精神面の疲れは回復できないらしい。
 あれだけ華候焔に深く愛されて、身も心も感じ入りながら気を失い、眠りについてしまった。そんな状態で中断したせいか、現実に戻っても頭の中がフワフワとしてしまい、情事の後の心地良さに身を委ねてしまう。

 手加減してあの調子だ。
 強化合宿を終えた後、遠慮しなくてもいいとなったらどうなってしまうんだ?

 一瞬本気の華候焔と交わることを想像してしまい、俺は全身を熱くさせる。
 そして慌てて首を振り、少しだけ理性と気力を取り戻す。

 体を起こして枕元に置いておいたスマホで時間を確認すれば、部屋へ戻ってゲームを始めてから十分ほどしか経過していない。

 これなら午前の練習開始までに、まだ時間がある――仲林アナの所へ行くことができる。

 俺は気だるい体を起こし、両頬を軽く叩いて気合を入れる。
 どれだけ華候焔に愛されたとしても、自分の目的を忘れてはいけない。

 行方知れずになった坪田を探し出すこと。
 この『至高英雄』の覇者となって、理不尽なゲームを終わらせること。
 決して領主として認めてくれる男たちと、愛欲の日々を送るためにゲームを続けているのではない。

 大きく深呼吸してから立ち上がり、部屋を出ようとする。

 ――不意に華候焔の囁きと、体の奥深くまで繋がった感触が俺の中によみがえる。

『また後で、な。あっちでも愛してやる――』

 ……現実でも華候焔に抱かれてしまったら、俺はどうなるんだ?

 もう数多くの快楽を体は刻み、心は強く掴まれてしまっている。
 手を伸ばされたなら避けられない。きっとそのまま受け入れ、悦んでしまう自分しか想像できない。

 きっと現実の華候焔はそれを望むし喜ぶだろう。

 だが――なぜだろうか。喜びながらも心が離れていきそうな気がするのは。

 受け止めることと、流されることは違う。
 華候焔は俺に受け止めてもらいたいのであって、愛されるまま溺れて欲しいとは望んでいない。

 強くあることを忘れないようにしなければ……。
 情事の余韻から自分を引き離し、俺はしっかりと地に足を着ける。

 ドアを開けて廊下に出る頃には、快楽に浮ついていた自分は成りを潜め、試合に挑むような面持ちで仲林アナの所へ向かうことができた。
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

グッバイシンデレラ

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:115

諦めは早い方なので

BL / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:53

呪われた第四学寮

ホラー / 完結 24h.ポイント:852pt お気に入り:0

狂愛アモローソ

BL / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:5

宇宙は巨大な幽霊屋敷、修理屋ヒーロー家業も楽じゃない

SF / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:65

十年目の恋情

BL / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:42

愛及屋烏

BL / 連載中 24h.ポイント:392pt お気に入り:5

メロカリで買ってみた

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:10

処理中です...