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九話 新たな繋がり
仲林アナの真実1
しおりを挟む前に貰った名刺に書かれていた番号の部屋の前まで行き、俺はドアをノックする。
中から人が歩いてくる気配。ドアの前で立ち止まった音はしたものの、しばらくそのまま動きはない。
誰が来たのかと様子を探っているのだろうか? かなり慎重になっているらしい。
周りを見渡し、人がいないことを確かめてから、俺はドアの向こうにいるだろう仲林アナに声をかける。
「おはようございます、正代です。取材の件でお話を伺いたくて来ました」
もし誰かが聞いていたとしても怪しまれない口実を告げると、ようやくドアが開いた。
「よく来てくれたねー正代君。立ち話もなんですから、部屋に入って下さい」
少しフレンドリーさを出しながら、仲林アナは俺を部屋へ入れてくれる。
招かれるままに足を踏み入れた瞬間、すぐにドアがバタンと閉められる。
そして――ギュウッ、と仲林アナは俺を抱き締めた。
「ああ、すみません。しばらくこのままで……嬉しくて、今はまともに話せなくて……」
まったく姿は違うが、ゲーム世界では才明をしている仲林アナ。
にわかに信じがたいことだが、現実とゲーム内で本人が認める発言をしている。
ゲームでは俺を華候焔と一緒に散々抱いてくる男。
しかし今、俺を抱き締め続ける仲林アナから下心は感じられず、ただ純粋に俺と会って話せることを喜んでいるという手応えがあった。
「……こうして話せる機会ができて良かったです」
俺も好意的に向き合っていることを伝えたくて、そっと背中に手を回して抱き締め返す。すると仲林アナから小さく吹き出す声がした。
「なんだか変な感じですね。あっちではお互いに知りすぎているんですけどね」
「……っ、あ、あの、俺、ゲームのほうでは、仕方なく褒美を体で――」
「分かっています。現実とゲームは違いますから。たとえ現実の体があっちに行っているのだとしても……」
仲林アナの声が落ち着いたものへと変わっていく。
おもむろに抱擁を終えると、俺に部屋へ行くよう顎で指して促してきた。
「私が把握できた範囲の真実をお伝えしますから、どうぞこちらへ」
ようやく『至高英雄』の真実に迫ることができる。
思わずゴクリと唾を飲み込んでから、俺はベッドルームへと向かう。
部屋は俺の所と同じ造り。
先に仲林アナがベッドの縁に腰かけ、その斜め向かいにある椅子へ座るよう手をかざす。
ゆっくりと俺が椅子に腰かけたのを見届けてから、仲林アナは微笑みながらも俺に強い眼差しを送ってきた。
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