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十話 至高への一歩
葛藤
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◇ ◇ ◇
コンパウンドボウの演習を終えて城へ戻ってすぐ、才明から正式に太史翔の所へ攻め込もうと提案された。
この世界で勝ち上がることが目的である以上、戦うことは避けられない。
俺が勝ち続けることを望んでいるから、才明も華候焔も俺の力になってくれている。今さら戦えないと怖気づいて引き下がることはかった。
気づいてしまった可能性に動揺していることを気づかれぬよう、俺は普段通りを心掛けながら伝える。
「……分かった、直ちに準備を進めてくれ」
「ありがとうございます。既に準備を進めていましたから、明日にはここを出立し、進軍することができるかと思います!」
ニヤリ、と才明の口端が不敵に引き上がった。
「私の力を過小評価し、不遇してきたこと……忘れておりませんから。どれだけ人を見る目がなかったかを思い知らせてやろうと望んでいたことか」
「頼もしいですねー! サクサク進軍して目にもの見せちゃいましょうー!」
白澤が才明の隣に並んでくるりと虚空を回る。彼らのやり取りを見る限り、ウマが合っているようで何よりだと思う。
ただ、今は戦に対して引っかかりを覚えてしまうせいで、人と戦うことを喜んでいるように見えて辛い。思わず表情が陰りそうになっていると、
「明日には進軍を始めるなら、誠人様にはしっかり休んでもらわんとな。人選や兵糧の手配なんかは、お前たちでやっておけよ」
ポン、と華候焔が俺の肩に手を置き、隣に並びながら告げてくる。
瞳だけ動かして見上げれば、目が合った瞬間に華候焔が小さく苦笑する。
俺の心を読んでこの場から離そうとしてくれているのだろう。その気遣いが嬉しくもあり、己の不甲斐なさに泣きたくもあった。
「承知しました。明日の準備は私たちですべて行いますから、誠人様は明日に備えられて下さい。いくら強力な武器があるとはいえ兵力差は歴然。兵たち士気を高める誠人様の参戦もまた大切な武器ですから」
才明もまた俺の状態を察したらしく、華候焔の提案をすんなりと受け入れる。
唯一、白澤だけは不満げに唸った。
「んー……華候焔、誠人サマのお休みの邪魔はしないで下さいよー? なんだかんだ言って誠人サマに手を出して、明日に響くようなマネをしないで下さいー」
「少しは信用しろ長毛玉。いくら俺でも手を出していい時と悪い時ぐらいはわきまえる」
「どう見ても普段からわきまえていないんですけどー。信用できるワケがないでしょー」
相変わらずな華候焔と白澤の言い合いが始まり、少しだけ俺の胸が安堵で軽くなる。
それでも淀んでしまった心の内は晴れず、俺は小さく息をついた。
コンパウンドボウの演習を終えて城へ戻ってすぐ、才明から正式に太史翔の所へ攻め込もうと提案された。
この世界で勝ち上がることが目的である以上、戦うことは避けられない。
俺が勝ち続けることを望んでいるから、才明も華候焔も俺の力になってくれている。今さら戦えないと怖気づいて引き下がることはかった。
気づいてしまった可能性に動揺していることを気づかれぬよう、俺は普段通りを心掛けながら伝える。
「……分かった、直ちに準備を進めてくれ」
「ありがとうございます。既に準備を進めていましたから、明日にはここを出立し、進軍することができるかと思います!」
ニヤリ、と才明の口端が不敵に引き上がった。
「私の力を過小評価し、不遇してきたこと……忘れておりませんから。どれだけ人を見る目がなかったかを思い知らせてやろうと望んでいたことか」
「頼もしいですねー! サクサク進軍して目にもの見せちゃいましょうー!」
白澤が才明の隣に並んでくるりと虚空を回る。彼らのやり取りを見る限り、ウマが合っているようで何よりだと思う。
ただ、今は戦に対して引っかかりを覚えてしまうせいで、人と戦うことを喜んでいるように見えて辛い。思わず表情が陰りそうになっていると、
「明日には進軍を始めるなら、誠人様にはしっかり休んでもらわんとな。人選や兵糧の手配なんかは、お前たちでやっておけよ」
ポン、と華候焔が俺の肩に手を置き、隣に並びながら告げてくる。
瞳だけ動かして見上げれば、目が合った瞬間に華候焔が小さく苦笑する。
俺の心を読んでこの場から離そうとしてくれているのだろう。その気遣いが嬉しくもあり、己の不甲斐なさに泣きたくもあった。
「承知しました。明日の準備は私たちですべて行いますから、誠人様は明日に備えられて下さい。いくら強力な武器があるとはいえ兵力差は歴然。兵たち士気を高める誠人様の参戦もまた大切な武器ですから」
才明もまた俺の状態を察したらしく、華候焔の提案をすんなりと受け入れる。
唯一、白澤だけは不満げに唸った。
「んー……華候焔、誠人サマのお休みの邪魔はしないで下さいよー? なんだかんだ言って誠人サマに手を出して、明日に響くようなマネをしないで下さいー」
「少しは信用しろ長毛玉。いくら俺でも手を出していい時と悪い時ぐらいはわきまえる」
「どう見ても普段からわきまえていないんですけどー。信用できるワケがないでしょー」
相変わらずな華候焔と白澤の言い合いが始まり、少しだけ俺の胸が安堵で軽くなる。
それでも淀んでしまった心の内は晴れず、俺は小さく息をついた。
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