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十話 至高への一歩
進軍
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◇ ◇ ◇
朝を迎え、俺たちは北へ進軍した。
太史翔からすでに奪取した城や砦を通過し、本城の手前の城へと攻め込んだのは進軍を開始して三日後だった。
ここを破られてしまえば討ち取られてしまう。その危機感から、太史翔が抱える有力な将たちと大量の兵が投じられた。
規模だけで見れば圧倒的な差がある。
だが俺が手にしてしまったものは、数の差を凌駕する力。
「弓を構え! 右翼の敵旗に向けて……撃て!」
才明の合図でコンパウンドボウの弓隊が一斉に矢を放つ。
広い射程距離と威力を誇る矢は、敵の矢が届かぬ位置から敵隊を射る。
その矢が収まった頃を見計らい、右翼の英正が崩れた敵隊へ斬り込んでいく。
騎乗して敵城へ俺が向かう最中、槍を振るう英正の姿を垣間見る。
槍がしなる度に小さな閃光が走り、武器を交えた敵がバチィッと光が弾ける。どうやら雷獣化する手前になって雷の力を槍に宿し、理性を残したまま戦っているらしい。
また強くなったな、と内心嬉しく思いながら俺は敵城へ駆ける。
城を落とそうと攻める味方と、奪われまいと抵抗する籠城の敵がぶつかる最前線へたどり着く頃。
「誠人サマ、そろそろ華候焔と合流しますよー。準備はいいですかー?」
俺の首を守るようにやんわりと巻き付いていた白澤が、緊迫感なしの間延びした声で俺に尋ねてくる。
「ああ、頼む。一気に攻め落としてしまいたい」
「分かりましたー。神獣の加護を誠人サマにー」
ぱたり、と白澤が尻尾を動かした瞬間、俺の体を薄い膜のようなものが包む。
肌に触れると膜はすぐに馴染み、かすかな温もりと微光を俺に宿らせた。
「これで守りはバッチリですー。でも名のある将の攻撃は防ぎきれないので、気を付けて下さいねー」
「いつも助かる、白澤」
「……ワタシはこれぐらいしかできませんからー。ご武運をー」
そんなことを言いながら、いざとなれば体を張って俺を守れるよう襟巻き状態になっているのだから、白澤の献身が本当にありがたい。
感謝と労いを込めて白澤の体をポンと叩いてから、俺は手綱を強く握り、体を前に倒して馬の足を速めた。
俺の進軍に気づいた敵兵たちが、討ち取ろうと集まってくる。
顔があるはずなのにぼやけてよく認識できない顔の群れ。
どこまでも現実的なのにあやふやな存在の彼らへ、俺は竹砕棍を振り回し、込み上げる力をそのまま宿らせる。
「炎舞撃――三連……っ!」
技を立て続けに発動させ、炎の渦を三方向へと散らす。
片方の先端を外した竹砕棍は無数の鉄線となって無軌道にしなり、辺りへ炎を広げながら敵を打ち付ける。
「うわぁぁぁ――っ!」
「太史翔様ぁぁ……ッッ」
方々から末期の悲鳴が聞こえてきて、俺は思わず顔を歪める。
よく耳を澄ませば声や言葉の種類は少なく、作られたものの名残りが覗く。それでも臨場感は凄まじく敗者の演出に胸が痛む。
朝を迎え、俺たちは北へ進軍した。
太史翔からすでに奪取した城や砦を通過し、本城の手前の城へと攻め込んだのは進軍を開始して三日後だった。
ここを破られてしまえば討ち取られてしまう。その危機感から、太史翔が抱える有力な将たちと大量の兵が投じられた。
規模だけで見れば圧倒的な差がある。
だが俺が手にしてしまったものは、数の差を凌駕する力。
「弓を構え! 右翼の敵旗に向けて……撃て!」
才明の合図でコンパウンドボウの弓隊が一斉に矢を放つ。
広い射程距離と威力を誇る矢は、敵の矢が届かぬ位置から敵隊を射る。
その矢が収まった頃を見計らい、右翼の英正が崩れた敵隊へ斬り込んでいく。
騎乗して敵城へ俺が向かう最中、槍を振るう英正の姿を垣間見る。
槍がしなる度に小さな閃光が走り、武器を交えた敵がバチィッと光が弾ける。どうやら雷獣化する手前になって雷の力を槍に宿し、理性を残したまま戦っているらしい。
また強くなったな、と内心嬉しく思いながら俺は敵城へ駆ける。
城を落とそうと攻める味方と、奪われまいと抵抗する籠城の敵がぶつかる最前線へたどり着く頃。
「誠人サマ、そろそろ華候焔と合流しますよー。準備はいいですかー?」
俺の首を守るようにやんわりと巻き付いていた白澤が、緊迫感なしの間延びした声で俺に尋ねてくる。
「ああ、頼む。一気に攻め落としてしまいたい」
「分かりましたー。神獣の加護を誠人サマにー」
ぱたり、と白澤が尻尾を動かした瞬間、俺の体を薄い膜のようなものが包む。
肌に触れると膜はすぐに馴染み、かすかな温もりと微光を俺に宿らせた。
「これで守りはバッチリですー。でも名のある将の攻撃は防ぎきれないので、気を付けて下さいねー」
「いつも助かる、白澤」
「……ワタシはこれぐらいしかできませんからー。ご武運をー」
そんなことを言いながら、いざとなれば体を張って俺を守れるよう襟巻き状態になっているのだから、白澤の献身が本当にありがたい。
感謝と労いを込めて白澤の体をポンと叩いてから、俺は手綱を強く握り、体を前に倒して馬の足を速めた。
俺の進軍に気づいた敵兵たちが、討ち取ろうと集まってくる。
顔があるはずなのにぼやけてよく認識できない顔の群れ。
どこまでも現実的なのにあやふやな存在の彼らへ、俺は竹砕棍を振り回し、込み上げる力をそのまま宿らせる。
「炎舞撃――三連……っ!」
技を立て続けに発動させ、炎の渦を三方向へと散らす。
片方の先端を外した竹砕棍は無数の鉄線となって無軌道にしなり、辺りへ炎を広げながら敵を打ち付ける。
「うわぁぁぁ――っ!」
「太史翔様ぁぁ……ッッ」
方々から末期の悲鳴が聞こえてきて、俺は思わず顔を歪める。
よく耳を澄ませば声や言葉の種類は少なく、作られたものの名残りが覗く。それでも臨場感は凄まじく敗者の演出に胸が痛む。
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