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十話 至高への一歩
誠人の狙い
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次第に息がしやすくなり、フッ、と全身に浮遊感を覚える。
そして風が収まると同時に、俺の身体は落下を始めていた。
「ヒィィィィー、ま、誠人サマー、お、落ちるぅぅっ」
耳元で白鐸が大声で騒ぐ。
「落ち着け、お前は飛べるだろ」
「そ、そうですけれどー! でも、誠人サマは――」
「考えがある。このまま落ちて攻撃に転ずる」
顔から落ちながら、俺は竹砕棍を強く握り、眼下を見据える。
下では太史翔を始め、周囲の兵士たちが俺を見上げている。
距離が近づいてくると、太史翔の唇が不敵に引き上がるのが見えた。
槍の切先が俺を捉え、間合いに入った瞬間を逃さずに穿とうと待ち構えている。
背筋にヒヤリと悪寒が広がる。
しくじれば終わりだ。だが、これを決めれば――。
落ちながらも目を凝らし、集中力を高めていく。
間もなく、太史翔の間合い。
入った瞬間、俺は竹砕棍を突き出した。
狙いは竹砕棍の端を、槍の切先に当てること。
ガチィッ、と強くかち合った刹那――竹砕棍が八方に裂ける。
「な……っ!」
太史翔が身を後ろに引き、目前に広がった光景に動揺する。衝撃で手から槍は落ち、隙が生まれる。
竹のように金属製の棍は裂け、一瞬、虚空に鈍色の円が広がる。良い目眩ましだ。
そして反動で軽く上に浮かび、落下の勢いが弱まった時。俺は身を翻し、蹴りを繰り出した。
「はぁぁぁっ!」
馬上の太史翔の頭を目がけ、足の裏で押し込むように全力で蹴る。
頭部の兜は斬撃から身を守ってくれる。だが単純に力が加われば、生身よりも兜の重量分だけ負荷がかかる。その結果、
「うぐ……っ」
太史翔の身体がよろめき、馬上から落ちる。
丁度良く俺の手に、元の形の竹砕棍が戻ってくる。それをしっかりと掴み、俺は太史翔の上に着地して組み敷いた。
「太史翔、降参するか? いくら鎧をまとっていても、この至近距離で顔に技を喰らえばただでは済まないはずだ」
竹砕棍で首を押さえ、のしかかって身体を抑え込みながら太史翔の顔を覗き込む。
怒りで興奮しているのか、太史翔は歯を剥き出しながら俺を睨みつける。
しかしその瞳からは怯えに揺れていた。
「だ、誰が降参など! ……今だ、やれ!」
唐突に太史翔が大声を上げる。
ビュッ、と。風切り音が聞こえ、俺は咄嗟に頭を下げる。
――何も来ない。
素早く辺りを見渡すと、真横に立ち臨む人の影が見えた。
顔を上げてみれば、そこには剣を手にした華侯焔の背中があった。
「ったく、一騎打ちに余計なことをしてくれるな。無粋なんだよ」
「華侯焔! 何が起きたんだ?」
「近くに潜んでいた伏兵が誠人様を狙って矢を射たから、叩き落してやったんだ」
忌々しげに息をつくと、華侯焔は振り向き、太史翔を見下ろす。
その目はいつになく冷ややかで、人の情を無くした修羅を覗かせていた。
そして風が収まると同時に、俺の身体は落下を始めていた。
「ヒィィィィー、ま、誠人サマー、お、落ちるぅぅっ」
耳元で白鐸が大声で騒ぐ。
「落ち着け、お前は飛べるだろ」
「そ、そうですけれどー! でも、誠人サマは――」
「考えがある。このまま落ちて攻撃に転ずる」
顔から落ちながら、俺は竹砕棍を強く握り、眼下を見据える。
下では太史翔を始め、周囲の兵士たちが俺を見上げている。
距離が近づいてくると、太史翔の唇が不敵に引き上がるのが見えた。
槍の切先が俺を捉え、間合いに入った瞬間を逃さずに穿とうと待ち構えている。
背筋にヒヤリと悪寒が広がる。
しくじれば終わりだ。だが、これを決めれば――。
落ちながらも目を凝らし、集中力を高めていく。
間もなく、太史翔の間合い。
入った瞬間、俺は竹砕棍を突き出した。
狙いは竹砕棍の端を、槍の切先に当てること。
ガチィッ、と強くかち合った刹那――竹砕棍が八方に裂ける。
「な……っ!」
太史翔が身を後ろに引き、目前に広がった光景に動揺する。衝撃で手から槍は落ち、隙が生まれる。
竹のように金属製の棍は裂け、一瞬、虚空に鈍色の円が広がる。良い目眩ましだ。
そして反動で軽く上に浮かび、落下の勢いが弱まった時。俺は身を翻し、蹴りを繰り出した。
「はぁぁぁっ!」
馬上の太史翔の頭を目がけ、足の裏で押し込むように全力で蹴る。
頭部の兜は斬撃から身を守ってくれる。だが単純に力が加われば、生身よりも兜の重量分だけ負荷がかかる。その結果、
「うぐ……っ」
太史翔の身体がよろめき、馬上から落ちる。
丁度良く俺の手に、元の形の竹砕棍が戻ってくる。それをしっかりと掴み、俺は太史翔の上に着地して組み敷いた。
「太史翔、降参するか? いくら鎧をまとっていても、この至近距離で顔に技を喰らえばただでは済まないはずだ」
竹砕棍で首を押さえ、のしかかって身体を抑え込みながら太史翔の顔を覗き込む。
怒りで興奮しているのか、太史翔は歯を剥き出しながら俺を睨みつける。
しかしその瞳からは怯えに揺れていた。
「だ、誰が降参など! ……今だ、やれ!」
唐突に太史翔が大声を上げる。
ビュッ、と。風切り音が聞こえ、俺は咄嗟に頭を下げる。
――何も来ない。
素早く辺りを見渡すと、真横に立ち臨む人の影が見えた。
顔を上げてみれば、そこには剣を手にした華侯焔の背中があった。
「ったく、一騎打ちに余計なことをしてくれるな。無粋なんだよ」
「華侯焔! 何が起きたんだ?」
「近くに潜んでいた伏兵が誠人様を狙って矢を射たから、叩き落してやったんだ」
忌々しげに息をつくと、華侯焔は振り向き、太史翔を見下ろす。
その目はいつになく冷ややかで、人の情を無くした修羅を覗かせていた。
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