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十一話 大きな前進

ゲームと現実の想い人

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 東郷さんが眉間を寄せながら小さく唸る。

「正代君……こっちで迂闊なことは言わないほうがいい。いくら相手が才明でも」

「えっ?」

 まだ仲林アナが才明だということは伝えていない。気づいていたことに俺が驚きを見せていると、東郷さんの顔に苦笑が浮かぶ。

「雰囲気で分かった。糸目でなくとも、掴みどころのない顔をしている」

「全国放送で顔を出すのですから、ポーカーフェイスは基本ですよ」

 仲林アナの顔にも苦笑が浮かぶ。そして心なしか二人の間に緊張感が流れている。ゲームでは意思疎通が上手くできていただけに、現実でも問題ないと思ってたが……。

 ゲーム内で教えたほうが良かっただろうかと悩む俺をよそに、二人は駆け引き的な会話を重ねていく。

「最初から正代君を狙っていたから、声をかけてきたのではないか?」

「それは貴方のほうではないですか、東郷選手? 何度も試合でぶつかり合ってきましたからね。正代選手がゲームを初めて真っ先に配下になっていますし」

「あれは鉄工翁に会いに行っていただけだ。邪な気持ちで近づいた訳じゃない」

「でも早々に手を出されていましたよね? 何も思っていなければ、そんなことはしないと思いますが?」

「前から気になっていたのは確かだが、正代君を奴隷にしないために手段を選べなかったんだ。他に有効な手があったなら、それを選んでいた」

「過ぎたことなら何とでも言えますね。ゲームの中であんなに好き勝手されて――」

「ならば仲林アナも最初から別の褒美を望めば良かっただろう。そうすれば、正代君がここまで引き返せない身体にはならなかった――」

 話の応酬が次第に俺との関係に切り込んでくる。

 待ってくれ二人とも。今それは重要なことじゃない。頼むから俺に羞恥を押し付けないで欲しい。それと東郷さん、いつから俺のことが気になっていたんですか!?

 穴があったらすぐさま入って土を被せて埋まりたい。
 頭を抱えていると、突然東郷さんが俺の肩を抱き寄せてきた。

「あのゲームのせいでおかしな状況になっているが、この責任は俺が取る。正代君に大きな負担を強いるんだ。目的を果たした後も支えたい」

 ゲームの中で俺と華侯焔は恋仲だ。つまり現実では東郷さんと付き合っていることになる。

 気持ちは嬉しい。憧れていた東郷さんと、ここまで深い仲になれたことが未だに信じられない。だが、華侯焔と東郷さんは何もかもが違いすぎて、現実が受け入れきれない。

 共通するのは最強なことと、俺と身体を重ねる時の愛し方が同じだということ。

 現実でクスリを盛られた後の介抱がてらの情事を思い出してしまい、いよいよ俺は耐え切れずに熱くなった顔を手で覆った。

 そんな俺と東郷さんを見て、仲林アナが笑った。

「ちゃんと両想いなようですね。それなら私からは何も言うことはありませんね」
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