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十一話 大きな前進

現実での顔合わせ

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   ◇ ◇ ◇

 まだ十六時。夜の懇親会までは時間がある。
 東郷さんを連れて行ってもいいものかと迷ったが、ゲームの中で華侯焔と才明は協力し合っている。だから大丈夫だろうと判断した。

 俺は東郷さんを連れて、仲林アナの部屋へ向かう。午前中に顔を合わせた時、一旦デスクに戻ると言っていたが、またこっちに来ていて欲しいと願いながら、ドアをノックする。
 しばらくして、「少々お待ち下さい」と優しげな声が中から聞こえてくる。プライドが高そうな才明とは真逆の、柔らかな声だ。

 しばらくしてドアが開き、チェーン越しに仲林アナが姿を見せる。
 俺と東郷さんを目にした瞬間、ギョッと目を見開く。しかしすぐに人の良さそうな微笑みを浮かべた。

「柔道界のトップ二人が来てくれるなんて光栄です! 前に言っていた、一緒にインタビューしたいというお願い、覚えていてくれたんですね」

 確かに初めて顔を合わせた時、そんなことを言っていたような気がする。
 仲林アナの部屋に入れば、盗聴の妨害をしているから話が外部に漏れる心配はない。だから廊下にいる間は、『至高英雄』とは無関係のフリをする必要がある。

「は、はい。懇親会まで時間があるので、良い機会じゃないかと東郷さんと話をしまして……」

 特に打ち合わせはしていなかったが、東郷さんは特に戸惑う様子もなく、短く頷いて自然に振る舞う。

「個人的に正代選手とは色々話をしてみたかった。機会を得られて嬉しい」

 横目で見れば、かすかに東郷さんが笑みを浮かべながら俺を見てくる。目が合ってしまい、思わず顔がカッと熱くなってしまう。

 ゲーム内では何度も身体を重ねた深い仲だというのに、現実ではたったこれだけで頭が茹だりそうだ。

 妙な空気を出してしまった俺と、動じない東郷さんを見交わした後、仲林アナが吹き出した。

「フフ、どうぞ中へ。まずは打ち合わせして、後で別の場所でインタビューさせてもらいますね」

 チェーンを外して俺たちを手招き、中へ入るよう促してくる。

 ……不自然ではなかっただろうか?
 今まで生きてきた中で、芝居というものには縁がなかった。嘘を演じるというのはなんともやりにくいものだと思いながら、俺は部屋に足を踏み入れる。

 東郷さんと俺が中へ入り、手前のベッドに並んで腰掛ける。腕が触れ合いそうな距離。近い。こんなに人を寄せ付けない顔と雰囲気を漂わせているのに、距離感が華侯焔だ。

 俺たちの向かい側のベッドに仲林アナが腰掛けると、膝に腕を置き、身を乗り出して小声で話を切り出してきた。

「やはり貴方が華侯焔でしたか、東郷選手」

「知っていたのか」

「先に正代選手から話を聞いていましたから。華侯焔の正体は貴方かもしれない、と」
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