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十二話 真実に近づく時

●浮かんでしまった可能性

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 視界と意識が点滅する。力が奪われていく。
 片手で華侯焔の背中にしがみつくのが限界で、俺は口元から手を離して抱きつく。

 唇が緩んで開きかけた時、華侯焔の唇で塞がれる。
 隙間なく重ねられ、俺のくぐもった声と舌が蕩け合う音が頭の奥に響く。

「ン……っ……ん、ぐ……ン――」

 絶え間ない口づけが、俺の声を聞かれたくないという憂いに応えてくれていることを教えてくれる。

 だから安心して堕ちればいい、という華侯焔の囁きが聞こえてくるようだ。
 快楽の高みを目指しながらも引っかかっていたことが消え、俺の意識は華侯焔だけに向く。

 自らも腰を揺らし、突き上げに合わせて俺の芯を華侯焔に染めていく。
 背筋を伝い、頭の奥まで甘美な痺れが届いてしまう。全身が昂るほどにそれは強く俺を貫き、快感だけを糧に生きる獣に変えてしまう。

 己の変わり果てた姿を、俺は心の内側から見つめる。

 男を受け入れることが当たり前になってしまった身体。
 自分からも気持ちよくなりたがり、淫らな姿を晒すことも、羞恥を厭わぬことでも悦んでしまう――ゲームをする前の俺がこの姿を見れば、頭を抱えながら自我を壊してしまう気すらしてくる。

 しかし、今は華侯焔に乱されることに幸せすら覚えてしまう。

 他の将とのまぐわいですら、華侯焔が俺に望み、刻みつけたこと。
 こうして華侯焔が夢中で俺を貪ることで、どこまでも淫らになっていく自分が良いのだと受け入れられる。

 もう華侯焔を――東郷さんを身体に招かない日など考えられない。

 これから先、もし目の前から消えてしまったら、俺はもう――。

 一抹の不安がよぎった瞬間、俺の芯がキュッと縮む。
 絶頂を迎える間際、俺は今出せる力をすべて使い、華侯焔に強くしがみついた。

「ンン……んっ、ッッ……ん、ン――……ッ!」

 俺が大きく弾けた瞬間、華侯焔が俺の奥に熱を注ぐ。
 よがり疲れた俺に栄養が恵まれるようで、その温かさに安らぎすら覚えてしまう。

 快楽の大波が過ぎ、俺はぐったりと華侯焔の胸に寄りかかる。

 無防備な姿を晒す俺の頭を、華侯焔は優しく撫でた。

「俺のために、こんなに変わってくれて……愛している」

「……焔、俺も……」

「今夜はもっと変わり果ててくれるか? これだけじゃ、まだ足らない。もっと誠人が欲しい」

 なんの抵抗もなく、俺はコクリと頷く。
 もう毎日のように快感の嵐を味わい続けた身体は、一度や二度の絶頂では物足りなさすら感じるようになってしまった。

 そして本気で求められて、俺も本気で返す快感を知った今。湧き上がる多幸感が長く身の内に留まり、何もされない時ですらじっくりと俺は華侯焔に染まっていく。

 繋がったまま、俺は顔を上げて華侯焔に口づける。

 クス、と。小さな笑いが華侯焔から溢れる。

 なぜか不意に、なぜ華侯焔と澗宇のやり取りに引っかかりを覚えたことを思い出す。

 この世界を悪用する者に気づかれないため、今まで準備を進めてきた華侯焔たち。

 慎重に、多くの者を自分たちが望んだ道に乗せ、解放の機会をうかがってきた。

 ――そんな用意周到に道を作ってきたのならば、俺が『至高英雄』を始めたことも計画通りだったのか?

 俺がここまで堕ちて、身も心も華侯焔に囚われてしまうことも……。

 浮かんでしまった可能性を無理やり消すかのように、俺は華侯焔に何度も口づけ、自らの身体を煽った――。
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