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十二話 真実に近づく時

澗宇の素顔

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   ◇ ◇ ◇

 目が覚めると、もう日は高く昇っていた。
 気だるい身体を起こし、しばらくぼうっとしてから俺は大きく息をつく。

「……どうしてあんなに体力があるんだ、焔は」

 昨晩のことが頭に浮かび、思わず独り言を漏らしてしまう。

 露天風呂を出て部屋に戻った後、俺は延々と華侯焔に抱かれた。
 どれだけ果てたかなど覚えていない。途中からはずっと絶頂の上を歩き続けているような感覚で、訳が分からず喘いでいたような気がする。

 何度も意識は途絶えたが、その間もゆっくりと俺を愛撫して、かすかに浮上した意識を再び快楽の底に沈めてきた。

 ようやく眠りの世界へ行くことを許してくれたのは、窓の外が白ばみ始めた頃。

 そんな夜を過ごしておきながら、すでに華侯焔は起床して部屋を出ていた。

 今までの中で一番執拗に抱かれてしまった。
 我慢させるとここまで酷くなるというなら、毎日構って発散させたほうがいい。

 胸の奥にむず痒さと熱を覚えながら、俺は寝台から離れた。



 身支度を終えて部屋を出た時、隣の部屋から同じように出てくる人影があった。

 俺が顔を向けるよりも先に、朗らかな声が俺を呼んだ。

「誠人さん、おはようございます。よく眠れましたか?」

 そこには緩やかな衣服をまとった澗宇が、どこか気恥ずかしそうに微笑んでいた。

「あ、ああ、おはよう澗宇。こんな時間まで寝てしまって面目ない」

「そんな、僕も今起きたところですから。せっかくですし一緒に食堂へ行きましょう」

 どこか焦り気味に言うと、澗宇は俺の隣に並んで見上げてくる。

 襟から覗く澗宇の細い首筋に、赤い痕。
 昨夜、隣の部屋で何があったのかを察してしまい、俺の頬が熱くなった。

 おそらく相手は侶普なのだろう。
 常に身近に控え、特別な情を交わしている間柄であることは見て取れる。

 頭では理解していたつもりだったが、いざ生々しい痕跡を見つけてしまうと動揺してしまう。

 そんな俺を見つめながら、澗宇は苦笑しつつ頬を掻く。

「安心して下さい。ここの壁は厚いですから、声は聞こえておりません。こちらの声も聞こえていなかったと思いますし」

「あ……す、すまない。この世界で必要なことなのは分かっているんだが、人のこととなると免疫がなくて……」

「動揺して当然ですよね! いえ、あの実は僕も、こういうことに慣れている訳ではないので――」

 俺の羞恥心が移ったように、澗宇も頬を赤くしてしどろもどろになってしまう。

 この世界に馴染み切っていた澗宇から、素の顔が覗く。
 落ち着かなくなりながらも、その一面が見えて嬉しく思う。

 弱肉強食と陰謀の中、それらとは縁を感じさせない存在。配下ではなくとも、俺も守りたいと心から望みたくなる。
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