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十二話 真実に近づく時
夢みたいな光景
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お互いに焦ってしまったが、澗宇と目が合い、どちらもピタリと止まる。
それから見つめ合った後、澗宇が吹き出した。
「困らせてしまってすみません。同じ領主同士、こういうことも共有できてちょっと嬉しいです」
「……前向きに捉えてくれて、その、助かる」
「僕も嫌な顔をされなくて嬉しいです。さあ、食堂に行きましょう」
気恥ずかしさで目を泳がせながら、俺は澗宇について行く。
食堂に行くと、俺たちの姿を見た給仕役の兵が駆け寄ってくる。
「おはようございます、澗宇様、誠人様。もうお出しできますので、そちらに座ってお待ち下さい」
「うん。いつもありがとう」
にこやかに兵とやり取りすると、澗宇は部屋の奥の長机の所まで行き、「どうぞおかけ下さい」と俺を促す。
並んで腰かけると、澗宇が少し申し訳無さそうに眉をひそめた。
「このような所で失礼します。なるべく近隣の領主に、私が居城から離れていることを悟られたくないので」
「気遣いはありがたいが、俺はこのほうが落ち着くから嬉しい」
本来なら兵士たちと同じ所で領主が食事するものではないかもしれないが、ここは作られた世界。変に偉ぶるよりも、庶民的な感覚をそのままに出せる澗宇に好感が持てる。
俺の言葉に澗宇の表情が晴れやかになった。
「僕も同じです。こうしていると、肩書きのないただの自分になれる気がして――」
話の途中に厨房から料理が運ばれてくる。
赤い実を散らした粥と青菜に、いくつかの果物。俺の所でも出てくる朝食だ。
談笑しながら食事をしていると、不意に澗宇が呟いた。
「……誠人さんが義兄になってくれたら、毎朝こんな感じなのかな」
最初は兄のように慕ってくれて光栄だと思うが、ふと別の意味に気づいて粥を吹き出しそうになる。
それは暗に俺が東郷さんと、恋人の先の関係になるという意味。
澗宇、気が早いぞ。浅い関係ではないと思うが、東郷さんはそこまでまだ見越していないと思う。このまま関係を重ねたら、人生を丸ごと抱き込んで住処に連れて行かれそうな気はしているが……。
否定して悲しい顔をさせることも、肯定して期待させることもできずにいると、
「やっと起きたか二人とも。仲が良いようで何よりだ」
気配なく背後から華侯焔が俺たちの肩を抱き、間に顔を入れてきた。
「兄様、おはようございます」
「驚いた……焔、食べている最中に気配を消して背後に回り込まないでくれ」
にこやかに挨拶する澗宇とは反対に、俺は胸の動悸を逸らせながら注意する。
華侯焔は離れるどころか、俺たちをまとめて深く抱き込みながら頭を撫でてきた。
「それはできん。こんな夢みたいな光景、逃したくないからな」
いつもの冗談じみた物言いをしているのに、視界の隅に映る華侯焔の目は、笑いながらもどこか悲しげだった。
それから見つめ合った後、澗宇が吹き出した。
「困らせてしまってすみません。同じ領主同士、こういうことも共有できてちょっと嬉しいです」
「……前向きに捉えてくれて、その、助かる」
「僕も嫌な顔をされなくて嬉しいです。さあ、食堂に行きましょう」
気恥ずかしさで目を泳がせながら、俺は澗宇について行く。
食堂に行くと、俺たちの姿を見た給仕役の兵が駆け寄ってくる。
「おはようございます、澗宇様、誠人様。もうお出しできますので、そちらに座ってお待ち下さい」
「うん。いつもありがとう」
にこやかに兵とやり取りすると、澗宇は部屋の奥の長机の所まで行き、「どうぞおかけ下さい」と俺を促す。
並んで腰かけると、澗宇が少し申し訳無さそうに眉をひそめた。
「このような所で失礼します。なるべく近隣の領主に、私が居城から離れていることを悟られたくないので」
「気遣いはありがたいが、俺はこのほうが落ち着くから嬉しい」
本来なら兵士たちと同じ所で領主が食事するものではないかもしれないが、ここは作られた世界。変に偉ぶるよりも、庶民的な感覚をそのままに出せる澗宇に好感が持てる。
俺の言葉に澗宇の表情が晴れやかになった。
「僕も同じです。こうしていると、肩書きのないただの自分になれる気がして――」
話の途中に厨房から料理が運ばれてくる。
赤い実を散らした粥と青菜に、いくつかの果物。俺の所でも出てくる朝食だ。
談笑しながら食事をしていると、不意に澗宇が呟いた。
「……誠人さんが義兄になってくれたら、毎朝こんな感じなのかな」
最初は兄のように慕ってくれて光栄だと思うが、ふと別の意味に気づいて粥を吹き出しそうになる。
それは暗に俺が東郷さんと、恋人の先の関係になるという意味。
澗宇、気が早いぞ。浅い関係ではないと思うが、東郷さんはそこまでまだ見越していないと思う。このまま関係を重ねたら、人生を丸ごと抱き込んで住処に連れて行かれそうな気はしているが……。
否定して悲しい顔をさせることも、肯定して期待させることもできずにいると、
「やっと起きたか二人とも。仲が良いようで何よりだ」
気配なく背後から華侯焔が俺たちの肩を抱き、間に顔を入れてきた。
「兄様、おはようございます」
「驚いた……焔、食べている最中に気配を消して背後に回り込まないでくれ」
にこやかに挨拶する澗宇とは反対に、俺は胸の動悸を逸らせながら注意する。
華侯焔は離れるどころか、俺たちをまとめて深く抱き込みながら頭を撫でてきた。
「それはできん。こんな夢みたいな光景、逃したくないからな」
いつもの冗談じみた物言いをしているのに、視界の隅に映る華侯焔の目は、笑いながらもどこか悲しげだった。
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