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十二話 真実に近づく時

三人の当たり前の中に

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 なぜそんな目をするんだ? と尋ねかけた時、食堂の入り口から侶普の声が飛んできた。

「華侯焔、澗宇様から離れろ! その方はお前が気軽に触れていい方ではない!」

 他のことなら冷静で揺らがぬ落ち着きを見せるのに、澗宇と華侯焔が絡むと頭に血が上ってしまう。血の繋がった兄弟という絶対の関係に、焦りを覚えてしまうのだろうか?

 今にも斬りつけそうな形相の侶普に対し、華侯焔は俺たちを離すどころか交互に頬ずりしてきた。

「堅いこと言うな侶普。お前はずっと澗宇と一緒にいられるからいいだろ。あー、離したくないー。このまま家に持って帰って飾りたいー」

 当てつけのようにわざとらしい態度を取る華侯焔の頭を、澗宇が軽く叩く。

「侶普をからかわないで下さい。誠人さんも困っていますし」

「なかなか会えないんだから、たまにはいいだろ。どうして澗宇は俺にだけ厳しいんだ?」

「これでも甘いと侶普から何度も言われていますよ?」

「クソ、侶普め。わざと俺に厳しくなるよう教育しやがって」

 華侯焔が恨めしげな視線を侶普に送る。他の者なら怖気づく視線に怯むことなく、侶普は冷ややかに睨み返す。

「澗宇様の優しさにつけ込んで、好き勝手に振る舞われるのが見過ごせなかっただけだ。誠人様も、くれぐれも華侯焔を甘やかさないように。この男は際限なく甘えようとする男ですから」

 ……言いたいことはよく分かる。思わず小さく頷いてしまうと、華侯焔が澗宇から手を離し、俺だけを抱擁してきた。

「俺の最後の癒やしまで奪おうとするな、侶普! 誠人にまで冷たくされたら、俺がどうなるか分からんからな」

 大きな駄々っ子と化している華侯焔を、俺は頭を撫でで宥めてやる。
 気分は猛獣使いだ。嬉しそうに目を細める華侯焔が、獅子に見えてきてしまう。

 呆れた息をついた後、侶普は俺たち近づき、長机を挟んた向かい側で膝をついた。

「澗宇様、隣の不届き者は放置しまして、朝の報告を――」

 淡々と報告する侶普に、何事もなかったように話を聞く澗宇に、俺を抱き締めながら「俺には誠人がいるからいいけどな」と強がる華侯焔。

 これが三人の当たり前の光景だったのだろう。その中に俺が当たり前のようにいられるのは、華侯焔の執着のおかげなのだと思う。

 侶普は面白く思わないかもしれないが、俺には突き放せない。顔を傾けて不服そうな華侯焔の顔を見ながら尋ねる。

「そういえば、昨夜は才明たちが色々と話をしていたと思うが、焔は何か聞いているか?」

「ああ、簡単に聞いている。芭張みたいな奴を新しく仲間にしたいから、誠人にまたあっち側に行って欲しいんだと」

 また世界を超える……何度も出入りして大丈夫なのだろうか?
 一抹の不安を覚える俺の耳元で、華侯焔がそっと告げる。

「いつ何が起きるか分からんから、常に用心してくれ。俺がいない所では特に、な」

 声色が重い。本気の忠告に、俺は短く頷いた。
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