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十五話 覇者
侶普と潤宇
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俺の返答を聞いて侶普が小さく頷く。それから英正に目を向けた。
「英正の武器は雷獣化を加速させるものか。誠人様の力で相手を跳ね飛ばし、雷獣の力で隙を突いて貫く……他が相手ならば瞬殺できるだろうが、あの男に通用するかは怪しいな」
「……申し訳ありません。私が未熟なばかりに」
悔しげに呟く英正に対し、侶普は「いや」と言葉を挟む。
「華侯焔がおかしいだけだ。戦いの勘、純粋な力、機転、観察力、身体能力――正面から挑んで勝てないというのは甚だ腹立たしいことだが、正しく見極めねば一縷の望みすら抱けない」
心底腹立たしそうに言いながらも、侶普の表情はどこか悲しげだ。
口では色々と言っているが、華侯焔は潤宇の兄で元同胞。情があるのは当然のことだ。
重いため息をついた後。
侶普は腰の剣をゆっくりと抜いた。
「誠人様、私では力不足と思いますが、仮想華侯焔としてお相手させて頂きましょう。どうぞ英正とともに戦い方を探られて下さい」
厚みのある剣を侶普が構えた瞬間、場の空気が重たくなる。
華侯焔に次ぐ強さを誇るだけあって、対峙するだけで息苦しさを覚え、手に汗が滲んでしまう。
だがありがたい。戦いを脳内で想像するだけより、実際に動いてくれる者を相手にしたほうが手応えを得られやすい。
俺は横目で英正を見やり、視線を合わせる。
闘志とやる気に満ちた瞳。気合は十分だ。
俺たちは短く頷き合うと、各々に得物を構え、侶普に挑みかかった。
「三名とも、戦の前にそのようなことをされていては、戦場ですぐに疲れてしまいますよ」
一心不乱に侶普と手合わせをする最中、潤宇の高く丸みのある声がして俺たちは動きを止める。
攻めている最中は落ち着いていたが、立ち止まった途端に俺の息は乱れ、汗が一気に吹き出す。身体から立ち昇る熱気が息苦しい。
英正や侶普も俺と同じようで、三様の呼吸音が響く。手の甲で額や頬の汗を拭う俺たちを見回しながら、潤宇は心苦しそうに顔をしかめる。
「兄のせいでこのようなことになってしまい、本当に申し訳ありませ――」
頭を下げようとする潤宇に、俺は足早に寄ってその動きを制した。
「謝らないでくれ、潤宇。俺はもう真実を知っている。知った上で華侯焔と向き合うことを決めたんだ。むしろ俺のほうが、俺たちの都合で巻き込むことになって申し訳ないと謝るべきだ」
「そんな、僕たちの都合に誠人さんを巻き込んでしまったのに……」
「それならお互い様だ。どうしても手放せない望みがあって動いた結果が今だ。俺は恨みも後悔もしていない。潤宇も自分の望みを譲りたくないのだろ?」
「……はい」
申し訳無さで揺れていた潤宇の瞳に力がこもる。
現実の非力な少年から、領主の目に切り替わる。
寄り添うように侶普が隣に並ぶと、潤宇は身を寄せ、頼もしい胸元へ軽く頭を預けた。
「英正の武器は雷獣化を加速させるものか。誠人様の力で相手を跳ね飛ばし、雷獣の力で隙を突いて貫く……他が相手ならば瞬殺できるだろうが、あの男に通用するかは怪しいな」
「……申し訳ありません。私が未熟なばかりに」
悔しげに呟く英正に対し、侶普は「いや」と言葉を挟む。
「華侯焔がおかしいだけだ。戦いの勘、純粋な力、機転、観察力、身体能力――正面から挑んで勝てないというのは甚だ腹立たしいことだが、正しく見極めねば一縷の望みすら抱けない」
心底腹立たしそうに言いながらも、侶普の表情はどこか悲しげだ。
口では色々と言っているが、華侯焔は潤宇の兄で元同胞。情があるのは当然のことだ。
重いため息をついた後。
侶普は腰の剣をゆっくりと抜いた。
「誠人様、私では力不足と思いますが、仮想華侯焔としてお相手させて頂きましょう。どうぞ英正とともに戦い方を探られて下さい」
厚みのある剣を侶普が構えた瞬間、場の空気が重たくなる。
華侯焔に次ぐ強さを誇るだけあって、対峙するだけで息苦しさを覚え、手に汗が滲んでしまう。
だがありがたい。戦いを脳内で想像するだけより、実際に動いてくれる者を相手にしたほうが手応えを得られやすい。
俺は横目で英正を見やり、視線を合わせる。
闘志とやる気に満ちた瞳。気合は十分だ。
俺たちは短く頷き合うと、各々に得物を構え、侶普に挑みかかった。
「三名とも、戦の前にそのようなことをされていては、戦場ですぐに疲れてしまいますよ」
一心不乱に侶普と手合わせをする最中、潤宇の高く丸みのある声がして俺たちは動きを止める。
攻めている最中は落ち着いていたが、立ち止まった途端に俺の息は乱れ、汗が一気に吹き出す。身体から立ち昇る熱気が息苦しい。
英正や侶普も俺と同じようで、三様の呼吸音が響く。手の甲で額や頬の汗を拭う俺たちを見回しながら、潤宇は心苦しそうに顔をしかめる。
「兄のせいでこのようなことになってしまい、本当に申し訳ありませ――」
頭を下げようとする潤宇に、俺は足早に寄ってその動きを制した。
「謝らないでくれ、潤宇。俺はもう真実を知っている。知った上で華侯焔と向き合うことを決めたんだ。むしろ俺のほうが、俺たちの都合で巻き込むことになって申し訳ないと謝るべきだ」
「そんな、僕たちの都合に誠人さんを巻き込んでしまったのに……」
「それならお互い様だ。どうしても手放せない望みがあって動いた結果が今だ。俺は恨みも後悔もしていない。潤宇も自分の望みを譲りたくないのだろ?」
「……はい」
申し訳無さで揺れていた潤宇の瞳に力がこもる。
現実の非力な少年から、領主の目に切り替わる。
寄り添うように侶普が隣に並ぶと、潤宇は身を寄せ、頼もしい胸元へ軽く頭を預けた。
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