不信の獣王は囚われの吟遊姫に愛を乞う

天岸 あおい

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ヨンムの正体

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 そのまま夕方まで過ごしていると、草むらがガサガサと鳴る音がした。

 真っ先に現れたのはヨンム。少し遅れて見慣れた商隊の男たち数名の姿。
 私を見た瞬間、男たちは安堵しながら喜びに顔を緩めた。

「無事だったんだなサティア! 助けに来たぞ。今の内にここを出るぞ」

 東屋のベンチに座る私を手招く彼らを、私はジッと見据える。

 見つかればただでは済まないのに、ここまで来てくれた。
 歌しかない私のために、わざわざしてくれたことが嬉しい。でも……。

 私は小さく笑ってから首を横に振った。

「ありがとう……でも、ごめんなさい。私はここに残るわ」

「なんで? サティアを苦しめるヤツから逃げてよ!」

 誰よりもヨンムが必死に私へ訴えてくる。
 その気持ちが嬉しくて私の唇が綻ぶ。でも首を縦には振れない。

「たぶん陛下は、私に縋っているわ。愛を知るのが怖いのに、それでも愛を求めたくて……だから愛を歌う私に乞うているの」

「何を、言って――」

「どうかこのまま帰って、みんな。陛下はお優しい方。しばらく向き合い続ければ、きっと私を自由にしてくれるから」

 言いながら、きっとそんな日は来ないだろうと私は思う。

 あの人は私を手放しはしない。
 ただひたすらに愛を乞い続けるか、己を満たすことができぬとなれば私の胸を引き裂くか。

 このまま逃げずにここへ残れば、私はもう、どちらかの道しか進めない。
 私はきっと、陛下への愛を歌うことしかできない体にさせられる。

 少しでも先を想像すると、怖くて脚が震えそうになる。

 私は自分の愛を知らないから。
 知らないことを否が応でも教えられてしまうことが、怖くてたまらない。

 でも――愛を乞う陛下に、私が乞いたい。
 どうか貴方のすべてを教えて下さい、と。

 私が逃げないことに、その場の誰もが困惑する。でも――。

「……分かった。それがサティアの「「本心ならば仕方ない」」

 ヨンムの声が二重に聞こえる。

 少年の声と大人の声。
 徐々に体は大きくなり、白い毛並みが色づいていく。

 夕日を宿したような赤に染まったかと思えば、闇より深い黒色へと変わり、顔立ちも鋭く整ったものへと変化する。

「ひ、ひぃ……っ!」

 男たちが慌てふためき、この場から逃げてくれる。
 変わってしまったヨンムは彼らを追いかけはしなかった。まだ変化を続けながら、ゆっくりと私へ近づく。

 間近に見下ろしてくるその顔に、私は呆然となった。

「……ベルゼム、陛下」

「あのまま逃げていれば手放してやったものを……もうお前を自由になどしてたまるか」

 長い腕が私を抱き込む。そして熱い吐息を交えて囁いた。

「すべてを私に捧げてもらうぞ、サテイア」

 何が起きたのか理解が追い付かない。
 でもこれだけは分かる――私がすべて奪われることだけは。
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