10 / 11
ヨンムの正体
しおりを挟むそのまま夕方まで過ごしていると、草むらがガサガサと鳴る音がした。
真っ先に現れたのはヨンム。少し遅れて見慣れた商隊の男たち数名の姿。
私を見た瞬間、男たちは安堵しながら喜びに顔を緩めた。
「無事だったんだなサティア! 助けに来たぞ。今の内にここを出るぞ」
東屋のベンチに座る私を手招く彼らを、私はジッと見据える。
見つかればただでは済まないのに、ここまで来てくれた。
歌しかない私のために、わざわざしてくれたことが嬉しい。でも……。
私は小さく笑ってから首を横に振った。
「ありがとう……でも、ごめんなさい。私はここに残るわ」
「なんで? サティアを苦しめるヤツから逃げてよ!」
誰よりもヨンムが必死に私へ訴えてくる。
その気持ちが嬉しくて私の唇が綻ぶ。でも首を縦には振れない。
「たぶん陛下は、私に縋っているわ。愛を知るのが怖いのに、それでも愛を求めたくて……だから愛を歌う私に乞うているの」
「何を、言って――」
「どうかこのまま帰って、みんな。陛下はお優しい方。しばらく向き合い続ければ、きっと私を自由にしてくれるから」
言いながら、きっとそんな日は来ないだろうと私は思う。
あの人は私を手放しはしない。
ただひたすらに愛を乞い続けるか、己を満たすことができぬとなれば私の胸を引き裂くか。
このまま逃げずにここへ残れば、私はもう、どちらかの道しか進めない。
私はきっと、陛下への愛を歌うことしかできない体にさせられる。
少しでも先を想像すると、怖くて脚が震えそうになる。
私は自分の愛を知らないから。
知らないことを否が応でも教えられてしまうことが、怖くてたまらない。
でも――愛を乞う陛下に、私が乞いたい。
どうか貴方のすべてを教えて下さい、と。
私が逃げないことに、その場の誰もが困惑する。でも――。
「……分かった。それがサティアの「「本心ならば仕方ない」」
ヨンムの声が二重に聞こえる。
少年の声と大人の声。
徐々に体は大きくなり、白い毛並みが色づいていく。
夕日を宿したような赤に染まったかと思えば、闇より深い黒色へと変わり、顔立ちも鋭く整ったものへと変化する。
「ひ、ひぃ……っ!」
男たちが慌てふためき、この場から逃げてくれる。
変わってしまったヨンムは彼らを追いかけはしなかった。まだ変化を続けながら、ゆっくりと私へ近づく。
間近に見下ろしてくるその顔に、私は呆然となった。
「……ベルゼム、陛下」
「あのまま逃げていれば手放してやったものを……もうお前を自由になどしてたまるか」
長い腕が私を抱き込む。そして熱い吐息を交えて囁いた。
「すべてを私に捧げてもらうぞ、サテイア」
何が起きたのか理解が追い付かない。
でもこれだけは分かる――私がすべて奪われることだけは。
0
あなたにおすすめの小説
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★
ドルイデスは忌み子将軍に溺愛される
毒島醜女
恋愛
母の死後引き取られた叔父一家から召使として搾取され、手込めにされそうになった少女、羽村愛梨。
馴染みの場所であった神社に逃げると、異世界にいた。「神樹により導かれたのね」とドルイデスと呼ばれる魔女が愛梨を拾った。異世界に救われ、ドルイデスから魔法を教わりながら田舎で過ごしていく。現世では味わえなかった温かな人の温もりに、もう何も望むまいと思っていた。
先代のドルイデス=先生が亡くなり、村の外れで静かに暮らすアイリ。
そんな彼女の元に、魔獣討伐で負傷した将軍、ウルリクが訪ねてくる。
離れで彼を看病していくうちに、不器用で、それでいて真っすぐな彼に惹かれていくアイリ。
こんな想いを抱く事はないと、思っていたのに。
自分の想いに嘘がつけず、アイリはウルリクに縋りつく。
だがそれは、ウルリクにとって願ってもない頼みであり、もう決して逃れる事の出来ない溺愛の始まりであった…
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる