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一章 若き薬師と行き倒れの青年

みなもの事情2

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 桟橋の手前に待機していた追手の一人が、突然の光景に「な……っ!」と声を上げる。

 仲間の元へ駆け付けようと桟橋を駆けたが――潮風が町へと向かって流れた途端、最後の一人もまた同じように倒れ、軽い悶絶の後に動かなくなった。

 完全に沈黙した追手たちを見下ろした後、みなもはポーチから白い丸薬を取り出して口に含む。

 少しでも早く全身に薬が行き渡るよう、口での深呼吸を何度も繰り返す。
 それから手の甲を軽く舐め、肌の状態を確かめてからレオニードへ振り向いた。

「うん、もう出ていないな……待たせたねレオニード。もう大丈夫だよ」

 目の前の惨状にレオニードが息を呑みながら、みなもの元へ近づく。

「いったい、何をしたんだ……?」

「毒だよ。特別に調合した物を飲んで、俺の息や汗を毒に変えたんだ。誰でも飲めばできるって訳じゃない。俺だからできることなんだ」

 まだ現実が信じられないらしく、レオニードが呆然とした眼差しを向けてくる。
 みなもは力なく微笑みながらレオニードへ尋ねた。

「レオニードは久遠の花って聞いたことはある?」

「ああ。どんな病でも治すという薬師の一族だという噂は知っている。てっきり噂でしかないと思っていたが……」」

「知っているなら話が早い。俺は久遠の花を守るため、一族の中で守り葉という役目を担っていた。久遠の花は薬を極めるけど、守り葉は毒を極める。要は少し特殊な毒使いだと思ってくれればいいよ。隠れ里を北方の兵士に襲われて、俺が守るべき花は消えてしまったけどね」

 話を聞いていく内に、レオニードの顔が申し訳なさそうな色を濃くしていく。

「では君の師は、ここには――」

「いないよ。守り葉は俺以外はみんな死んだ。久遠の花は行方知れず……悪いね、紹介できなくて」

「いや、俺のほうこそ悪かった……そんな事情があったから、仇を見るような目で俺を見ていたのか」

「ごめん。あなたが襲った訳じゃないと分かっていても、心の中で割り切れなかったんだ」

 みなもは短剣を鞘に収めるとレオニードに背を向け、桟橋に置いたままの釣り竿を手に取った。

「追手はこのまま放置しても大丈夫だよ。今の毒は痺れだけじゃなくて、前後の記憶をあやふやにしてくれる。俺の力は人に知られたくないからね」

 体を起こしてみなもが振り返ると、レオニードはいつになく真剣な眼差しでこちらを見据えていた。

「今まで隠していたことを、どうして俺へ話す気になったんだ?」

「レオニードが教えてくれたら、俺のことも教えるって約束したから……っていうのは表向き。最初は言わないつもりだったんだけど、あなたがコーラルパンジーの話をしたから気が変わったんだ」
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