腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

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✳︎Chapter1〈1 人間不信のドア越し攻防〉

ep8 沢山のわたしが死んだ場所で

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 美少年とお近づきになれたことに浮かれていて、まさか学校でテストを受けることになるなんて思わなかった。

 テストの日が近づくにつれて、わたしの気分は日に日に落ち込んでいった。ここ最近、体調も悪いし。いっそのこと、やっぱりやめるって言っちゃおうかな。でも、いろんな先生が関わっているらしいし、簡単にやめるとも言いづらい。もしかして篠原くん、わざとぎりぎりまで黙ってた? わたしが断れないように、先に準備を進めてたよね?

「やっぱり、こんなのおかしいよ! なんで勝手に日程とか決められてるの? これ、絶対篠原くんに騙されてるよ!!」

 普通、こういうことは一番最初に相談があるものじゃないのか。なのに、勝手に全部決められちゃってさ。こんなのってないよ!
 どう考えても、篠原くんのやり方はずるいし、「やっぱりやめたい」と言ってもわたしは悪くないと思う。でも、そもそもそんなことが言える勇気があったら、いじめにだって立ち向かえた。

「がんばるなんて言わなきゃよかった……」

 ……でも、あの時の篠原くん、めちゃくちゃうれしそうだったな。

「むり、あんな顔見ちゃったら、やっぱりやめるなんて言えないよ……」

 篠原くんのふわっふわの笑顔を思い出して、お腹がキリキリ痛み出す。学校に行くのも、テストをうけるのも嫌だけど、篠原くんにがっかりされるのも嫌だ。やっぱりわたし、美少年に弱すぎる!!

 テストを受けると決まってからというものの、お父さんやお母さんは期待に満ちた目でわたしを見るようになった。このテストがきっかけで、また学校に行けるようになるかもと期待しているのだ。人が不安で眠れない夜を過ごしてるときに、ニマニマ笑いの抑えきれない顔で「あんた、がんばりなさいよ!」とか、「勉強は順調なのか?」とか聞いてくる。こっちはそれどころじゃないんだから、放っておいてくれないかな。
 お姉ちゃんはわたしの顔を見ると、「不幸がうつるから幽霊みたいなツラして歩きまわらないで」とウザそうに鼻をならした。お願いだから、もっとわたしに優しくして!

 テストは3日間、教科は英国数の3科目だけを1日1教科づつ。1年の中期の範囲から出題される。場所は、使われていない空き教室で、時間は、最終下校後だ。
 テスト当日。わたしは久しぶりに制服に腕を通した。お母さんが前日までに洗濯してくれた。すこしきつい気がするのは、わたしが前よりも太ったからか。成長期だからだと思いたい。

 学校へは篠原くんが迎えに来てくれることになっている。学校の帰りにまた学校へ戻るなんて、篠原くんは大変だなとはおもうけど、そもそも篠原くんが言い出したことだから、悪いななんて思う必要なんてないのかもしれない。

 集合時間になり外へ出ると、篠原くんは1階のエントランスで待っていた。

「こんにちは、津田さん」

「コンニチハ……」

 お腹がぐるぐるしてる。気分も悪い。朝起きれただけでも奇跡だ。

「じゃあ、学校へ行こうか」

 篠原くんと一緒に、一年ぶりに毎日通っていた道を歩く。別に感動とかはない。いやだなぁと思うだけ。1年生の時は、この道を通るのが辛くて仕方なかった。学校に一歩一歩近づいていくこの道が。

「顔色が悪いね。大丈夫?」

「大丈夫じゃないです……」

 嫌すぎて吐きそう。

 校門に着き、昇降口から入って廊下を歩く。今の時間は、普通に部活が行われている時間帯で、いつどこで知っている人に出くわすかもしれないという不安が、足取りを重くさせた。
 最終下校後だからだろうか。心配とは裏腹に、教室はどこも空っぽだ。廊下を歩くと、わたしと篠原くんの足音だけがひびいている。
 なつかしいはずなのに、なんだか知らない場所みたい。不思議と胸が苦しくなったりしていない。辛いを通り越して、感覚がマヒしちゃったのかな。頭の中に、いろんな記憶がよみがえる。それを、窓の外からぼんやり眺めているような感覚。

 わたしにとって、学校は辛い場所でしかなかった。朝が来る瞬間に、いつも何かとたたかっていた。朝目覚めて起き上がることも、わたしにとってはたたかいだった。お母さんの急き立てるような怒鳴り声と、迫りくる時間。何とか決心して学校に着いたとたんに、もっと酷い絶望が待っている。

 学校では、何も感じていないふりをしていた。わたしの人格がひとつずつ死んでいくのを、ただ眺めるだけ。わたしが生まれた瞬間から持っていたはずの、わたしのカケラたち。楽しさや喜び、希望、自信、価値観、その他わたしを構成する要素すべて――それらが傷ついて死んでしまっても、また朝になると、辛うじて息のある瀕死のそれらをかき集めて学校へ行く。
 この場所で。なんども。なんども。死んでしまったわたしの多くの死骸は、誰にも気付いてもらえないまま、ただ踏まれて消えていく。わたしにとって学校という場所は、戦場でしかない。周りは常に敵だらけで、わたしの死骸であふれていた。

 職員室で、久しぶりに担任の先生に会った。1年生の時からおなじ先生だ。正直、会いたくはなかった。だってこの人、信用できないんだもん。
 先生に何か言われたけど、よくわからない。篠原くんが何か話しているけれど。あれ? わたし、ちゃんと挨拶できてた? したような気がするけど、さっきから、思考がふわふわしていてわからない。先生と篠原くんの後を追うのでせいいっぱいだ。一瞬だけ見た、先生のあきれた顔だけが妙に印象に残っている。

 空き教室にはいると、教卓の前の席に座るように指示がされた。

「今まで頑張っていたから大丈夫。落ち着いて問題を解けばいいから」

 教室を出て行く前に、こそっと篠原くんが励ましてくれた。

 篠原くんが教室を出て行き、わたしと先生の2人だけになった。今日のテストは数学だ。これが終われば、すぐに帰れる。
 ノートPCを机の上にだして、先生の合図を待つ。時計の音がうるさい。開始時間までの数分間、ただひたすらキーボードの文字を眺めていた。手が汗ばんでいて、気持ちわるい。

「はじめ!」

 先生の声と共に、テストが開始された。


 *

「お疲れさま、津田さん」

「うぅ……」

 机に突っ伏してるわたしの肩が優しく叩かれた。顔を上げる気力がない。今日一日でもしんどいのに、これがあと2日もあるのか。テストに集中しているうちに腹痛は気にならなくなったけど、わたしの神経はカスカスだ。もう何も気力がおきない。

 ぎぎっと音がして、篠原くんがそばにあった椅子を引き寄せて向かいに座ったのがわかった。篠原くん、わたしのテストが終わるまで待っていてくれてたんだな。

「もうやだ……」

 頭も気持ちも疲れ切っていて、うまく頭が働かない。篠原くんの前で泣き言を言ったら嫌がられるかなとか、そんなことも考えられなくなっていた。

「学校なんて、来たくなかったのに……」

 恨みがましく文句を言う。やっぱり、わたしに相談もなく勝手にテストの話を進めていたのはずるいと思う。

「……篠原くんが、勝手に決めるから……」

「ごめんね、津田さん」

 篠原くんから、静かな口調で謝罪の言葉が降ってきた。罪悪感で謝っているというより、気遣うような声の響きに、わたしは不貞腐れた気持ちになった。悪いなんて一つも思ってないのに優しくされるから、怒るに怒れない。
 はぁ、と疲れ切った溜息を吐きだして、伏せっていた顔を横に向けた。篠原くんの顔を見たら、うっかり許してしまうのはわかっているから、あえて篠原くんに目を向けない。わたしは怒っているのだと伝えたい。


 まだ動く気になれなくて、気付けばテストのことを考えていた。今日のテストは、1年生の問題だったからかな。今までで一番、手ごたえがあった。

「……今日のテスト……思ったより難しくなかったです」

「そう」

「これで点数が思ったよりも低かったら……イヤだなぁ……」

 最近は一応、自分なりに頑張ってきたつもりだ。テストを受けることが決まってから、好きなゲームや漫画を我慢してやっていたわけで、嫌々受けたテストではあるものの自分がどれだけ取れているかは気になった。点数が悪かったら、教えてもらっている篠原くんにだって迷惑かけちゃうし。

 今まで、こんなに点数を気にしたことはない。今まではテストの点数なんて低くてあたりまえだったから、少しだけ期待してしまっている自分に驚く。
 これでダメだったら、また自分のことが嫌いになっちゃうのかな。やっぱりわたしには駄目だったんだって。もうこれ以上、自分に失望したくないんだよなぁ。せっかく嫌でも学校ここまで来たのに。

「……負けたくないなぁ……」

「……」

 気づいたら口をついていた。何に負けたくないのかわからないけれど、不思議と言葉が腑に落ちる。

 自分は誰よりも無気力で怠けているダメなやつなんだって思ってたけど、わたしはずっとたたかってたんだ。学校でも、不登校中でも。そして、今日だって。そんな自分をもっと認めてあげられたら良かったのに。

 しばらくうだうだ考えていると、優しく頭を突かれた。視線を上げると、篠原くんの優しく緩んだ目があった。

「テストが全部終わったら、ご褒美あげるって約束覚えてる?」

「おやすみ!!」

 勢いよく頭をあげる。そうだ、そうだった! テストが終わったらお休みがあった。

「せっかくだから、他にも用意しておくね」

 篠原くんの提案に、わたしは思わず「えっ」と言葉をもらした。なんだか、あまり良いものじゃないような気がする。

「いっ、いいです。いらないです! 篠原くんにはもう充分お世話になってますし!」

 わたしの慌てっぷりを見て、篠原くんはくすくす笑った。

 もしかして、からかわれてるのだろうか。なんだかムカついてきていじけていると、篠原くんの目の奥に、安堵の色が見えた気がして、急速に怒りはしぼんでいった。

 もしかして、篠原くんも心配してくれてたのかな。

「楽しみにしていてね」

 いたずらっぽく笑った篠原くんは、危うく勘違いしてしまいそうなくらいに優しい顔をしていた。
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