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Chapter2〈4 クラスの王様〉

ep43 ③

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「この時間なら、まだ開放されているから外には出られるよ。ここのホテル、夜景が奇麗だって有名なんだって」

「そ、そうなんだ」

 まさか咲乃の方から誘われるとは思っていなかった。彩美が赤い顔のまま目を瞬かせていると、咲乃は彩美の手を取った。

「少し外で風にあたろう。まだ少し熱そうだから」

 包まれた手の中で、彩美の指の先から熱がともる。熱を与えたのは誰のせいだろう。

 彩美は咲乃に促されるままバルコニーへ出た。緩い風が頬を撫でて、濡れていた髪を揺らす。目の前に広がる京都の街灯りの、豊かな色彩を持った輝きは、彩美の大きな瞳でさえ捉えきれない。

 あっさり離れた手に寂しさを残して、夜風よりも柔らかい笑顔で咲乃が笑う。その顔があまりにも美しくて、彩美は耐え切れずに目線を夜景に戻した。夜景を見ていた方が、心臓には優しかった。

「橋本さんが、俺を頼ってくれてよかった」

 彩美は再び咲乃の方を見た。咲乃は可笑しそうに口元を押さえてくすくすと笑っていた。

「橋本さんに言われたんだ。『友達なら手伝ってよ』って」

「えぇっ、愛花ったらそんなこと言ったの!?」

 ただでさえ、自分のクラスのことで忙しくしている咲乃に、なんて雑なお願いの仕方だろう。愛花も去年は、咲乃と同じクラスだったからって、図々しすぎるのではないか。

「でも、もう違うクラスだから関係ないと思われていたら悲しいから、頼ってくれた時は嬉しかったよ。橋本さんにも、山口さんにも」

「……そう、だよね」

 咲乃がそう言ってくれるのは嬉しい。去年のクラスを、親しんでくれているのだとわかるから。
 でもそれは、彩美とって望ましい形ではない。彩美がなりたいのは、そんなものではない。去年同じクラスだった友達・・だなんて。
 彩美は複雑な気持ちを抱えたまま、夜景を眺めた。

「戻ろう。あまり冷え過ぎてしまうといけないし。橋本さんによろしく言っておいてね」

「うん、愛花に言っておくね。こちらこそ、ありがとう。篠原くん」

 その後彩美は、咲乃と他愛のない話をしながら部屋に戻った。お礼を言おうと愛花のもとへ近づくと、愛花は布団の上でスマホをいじっていた。

「おっかえりー。だから、長風呂はほどほどにしろって言ったじゃん」

「ごめん。色々ありがと」

 愛花に言われて、彩美はばつの悪い想いで謝った。愛花は彩美がおとなしく謝るのを聞いて、口角を上げた。

「で、篠原くんとの時間を作ってあげたんだからさ。今度なんか奢ってよね」

 可愛いヒロインには、同じく華やかで有能な聞き役の親友が必要不可欠である。彩美は、目の前の有能な親友に深く感謝した。
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